第四話 蒼太
俺は蒼太!今年で10歳になる小学生や!
今は、大阪市のN区のアパートでおかんと二人ぐらしやで!
ちなみに6才まで、俺は東京におったらしい。
当時のことは、あんまり覚えていない。
ただ、親父がおかんに暴力ばかり振るっていたことは覚えている。
そして、当時のおかんはいつも泣いていた。
でも、アイツと別れて大阪に来てから、おかんはよく笑うようになったと思う。
『あんたは、真っ当でおりや。』
それがおかんの口癖や。
第四話 蒼太
夕方になると、おかんは仕事に出かける。
そして、おかんを見送ったあと、洗濯物を片付けるのは俺の役目や。
どんな服も、H百貨店のアパレル店員並のスピードと正確さでパパっと畳んでいく。その後は、めんどいけど明日の宿題や。
もっとも、今より小さい頃は、夜中に一人でいると、おかんが本当に帰ってきてくれるのか不安になってよく泣いとった。
そんな俺を見て、ご近所のおばちゃんが慰めてにきてくれることもあった。
その内、泣き疲れて布団に入るけど、なぜか気持ちは冷たくなっていく気がした。
それでも、朝、目が覚めると、いつものようにおかんが朝ごはんを作っている。今日もおかんがいる、それだけで嬉しかった。
『どんなに仕事が遅くても、朝ごはんは必ず作って一緒に食べる』、これがおかんと俺とのルールや。
朝ごはんを作っているおかんの背中を俺は一生わすれんやろう。
最近、ご近所さんから『あんたのとこの蒼太君は、自立しとってなんだか大人っぽいねー。』と、おかんは言われとるらしい。
たしかに、子どもにしては、家事ができる方やな。
でも、俺にはその意味がよく分からんかった。
ただ、あの時のように、おかんには泣いてほしくない。おかんが笑っていてくれたらそれで良いと思っている。
朝ごはんを食べたら、学校へ行く。
きょうはいつも二人で言うスローガンもちゃんと忘れなかった。
「おかん、ごちそうさま!ガッコ行ってくるわー!」
ガッコに行く時はいつもダッシュや。
かけっこなら誰にも負けへん!
見送るおかんが一言声をかける。
「あんた、宿題ちゃんとできとるやろねー?」
立ち止まって、おかんに振り向いて応える。
「おかん。俺やで!?」
今日も朝から会心のギャグが決まった!
「ふぅ、全くもう…。」
まだまだ男の子だなと言いたげな感じで、
おかんは少し微笑んでいた。