第三話 シングルマザー②
夫のDVに耐えかね、一人息子と共に、東京から大阪にやってきたシングルマザー。
あの日から、四年が経った。
第三話 シングルマザー②
ここは、大阪市N区。
かつては、日雇労働者が多く住む、いわゆるドヤ街と呼ばれていたところだ。
しかし、最近は、再開発なども行われたことにより、キレイなマンションも立ちならぶ。一般人でもそれなりに住みやすくはなったらしい。
治安ついては、まあ、お察しの通りだけど、皆んなが危ないと言っているエリアにさえ行かなければ、とりあえず大丈夫だ。
そして、この町の特徴は、なんと言っても物価が安いことだ!
ちゃんと働いていれば、親子二人食べていくには全く困らなかった。
そんな感じで、右も左も分からなかった私たちに、レクチャーをしてくれるご近所さんや学校の先生方には大変感謝している。
話はさかのぼるけど、私たちがアイツの元を去ってすぐに、離婚が成立した。
これも、すぐに働き始めたクラブに、たまたまお客できていた弁護士さんのおかげだ。
事情を聞いて、すぐに、東京にいる同業者と連携をとり、あっという間に話をつけてくれた。
アイツに慰謝料を払う甲斐性がないことは知っていたから、そんな期待は最初からしていなかったけど、
離婚の成立と、今後一切私たちに関わらないことを確約させてくれた。それだけで十二分なのだ。
『お金のことは気にしないで。あなたは絶対に悪くないから。それに、費用は安くしておくし、払えるときに払ってくれたらいいよ。』
弁護士さんの言葉に私は涙が止まらなかった。
ちなみに現在、一人息子はというと、以前とは見違えるほど生き生きしている。
大阪の環境があの子には合っているのだろう。
『おかん!ガッコ行ってくるわー!』
それにしても、子どもの適応力はスゴいな思う。
関西人特有のノリに四苦八苦する私をよそに、息子は関西弁もあっという間にマスターした。(息子曰く、私の関西弁は何かが足りないらしい。)
はじめておかんと呼ばれた日、こんな私でもちゃんと母親として認めてくれているんだなと感じて、嬉しかったことを覚えている。
「忘れ物はー?」
「あるわけないやろー笑、俺やで?」
ニヤリとしたイキリ顔をして息子が答える。
どうやら、最近、このギャグがお気に入りらしい。
「いつものあれ、言うてないやろ?」
下手くそな関西弁で息子に言う。
「おー!あれやな!ええで!」
どことなく上から目線な息子もそれはそれでかわいいもんだ。
「ええ男になりたけりゃ、『でも』と『だって』と『どうせ』を言わない!!」
二人で声を揃える。少し変わってるかもしれないけど、これも私たち家族にとって、ありふれた幸せのカタチなんだろうなって思う。
やっぱり、この子には『真っ当』な人生を歩んでほしい。
大学は無理かもしれんけど、高校まではしっかり出してやらんと…。
「ほんじゃ、おかん!仕事、夜なんやから、いまからちゃんと寝なあかんでー。ほんで、洗濯物やけど、俺がちゃんとやっとくわー!」
走って学校へ行く息子を見送る。
「あんた、洗濯物ちゃんとたためるんー?」
ぴたっと止まり、息子が振り向く。
「おかん。俺やで!?」
例のイキリ顔が、いつもより決まっていた。