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災いの予兆か、あるいは古代文明の遺産か

 両手からばちばちと青白い火花が散る。

 痛みも熱もなく、むしろ体内にあった熱が奪われるような感覚があった。


「今、あなたの前に浮かぶ金属製の立方体こそがマギノキューブと呼ばれるものです。最新の魔導工学を詰め込んだ、世界にあなただけのマギノキューブです」


 くるくると金属製の立方体が回転する。

 大きさは人の頭ほどであり、手で待ってみればやはり重さは全くない。特徴的なのは、深い青色をしている事だった。


「マギノキューブの色によって、属性が分かれています。青であれば水、赤であれば炎、緑であれば風、白であれば土属性です。黒はコモンです」

「な、なるほどぉ……」


 とりあえず相槌を打ってみたが、声のいう属性が何かはサッパリ分からない。

 後で調べてみよう。


「では、マギノキューブの歴史や使い方に関する講義をダウンロードします。……ダウンロード完了」

「はや」


 スマホやパソコンだと、動画は容量が大きいからダウンロードするのも数分はかかる。

 大学の無線は貧弱なので、タイミングによってはアクセスが集中して時間がかなりかかるのだ。


「使い方は分かりますか?」

「分かんないです」

「では、チュートリアルを行いましょう」


 ……微妙に二度手間が起きているのは、恐らくマニュアルの通りにしか案内できないのだろう。

 S型六番しかり、音声しかり、どこか機械化されたものを感じる。


「オリジナルのマギノキューブは、特定のキーワードを声に出すことで望む機能を使用できます。試しにタクソと唱えてみましょう」

「タクソ」


 マギノキューブが変形し、薄べったい板になった。

 その表面にいくつもの文字が浮かぶ。


 どうやら、私のステータスとやらが表示されているようだ。

 スキルやら細かい数値やら大量に羅列されている。

 眺めるだけで頭痛がしてきた。


 いかに大好きなゲームといえども、いきなり長文が表示されたらとりあえず無視する人はいるだろう。

 あとでわかるやろ、と後回しにしておいて、中盤ぐらいになって『うわ、ちゃんと目を通しておけばよかった』と後悔するソレである。


「表示されているものが、あなたの素質を数値化したものです。これらは鍛錬や魔力量の上昇、装備によって変動します」

「へえ〜」

「それぞれの数値の説明やスキルの習得については、講義をご覧になってください。ステータス画面を閉じるには、プロクシメと唱える必要があります」

「プロクシメ」


 マギノキューブは再び立方体に戻った。


「このように、キーワードを利用して機能を活用できます。機能の一覧を確認する際は、フォンキシオと唱えてください」


 ひとまずノートにキーワードを記入する。

 覚えるだけでも大変そうだ。


「この図書館内でダウンロードした講義内容を閲覧するには、ビルドオと唱える必要があります。ここまででわからない事はありましたか?」

「いえ、ありません」

「では、これでレファレンスサービスを終了します。またのご利用をお待ちしています」


 それきり、声は聞こえなくなった。


 まあ、まずは講義とやらを見てみるか。


「ビルドオ」


 そして、私はこの決断を数分後に後悔する。

 大学の授業に引けを取らないほど、ひたすら眠くなるようなボイスで淡々と情報を羅列していく映像が、平べったくなったマギノキューブの表面に浮かぶ。


 やばい。眠い。

 座り心地のいい椅子なのもあって、眠気がやばい。

 あ、だめ、寝るわこれ。






「────い、おいババア!」


 ミゲルの怒号とシェリルの軽い平手打ちで私は目を覚ました。

 そこには、呆れた顔の悪ガキ三人衆がいる。

 どうやら、私は寝てしまったらしい。


「なんか見つけたのかよ」

「叫ぶな、煩い……」


 寝起きには子どもの甲高い声が頭に響く。

 ぼんやりした頭を振って、意識を無理やり覚醒させる。


「ふあ、よく寝た……」

「寝てんじゃねえよ、ババア!」

「ババア、ババア、煩いぞガキンチョ」


 椅子から立ち上がって体を伸ばす。

 ぼきぼきと骨が鳴った。


「時間は……まだ昼過ぎか」


 村に戻ってもいいが、もう少し手柄が欲しい。

 今はまだ村民も私に対して何らかのアクションは起こしていないが、謎の金属製の立方体を手に村を徘徊する変人である事に変わりはない。

 ここで何か手柄があれば、村の配給の際に気まずい思いをしなくて済むかもしれない。


「フォンキシオ」


 キーワードを唱え、マギノキューブの機能一覧を確認する。

 途中で寝たが、講義は半分ほど聞いていたので、なんとなくは覚えている。


 講義によれば、遥か古の時代、特に優れたスキルを持つ者たちが特権階級の社会を築いた。

 スキルとは、ある程度の知能を持つ生き物であればその身に宿す人工の奇跡。

 マナを消費する事で、特定の現象を引き起こす。


 例えば、枯れた湖に温泉を湧かせたり、土を金塊に変えたり、無限に果実の実る枯れることのない樹木を砂漠に植えたり、と神話になるような奇跡が起こせる。


 スキルは遺伝的に後世に伝わる。よって、血筋が重要視された。

 血筋による統治によって国が出来たのも束の間、特権階級たちの間で病が流行ったという。

 貴族たちはあっという間にバタバタと死んで、スキル中心で回っていた社会はたちまち崩壊を迎える。


 スキル社会への反省から、今度は魔法という技術が台頭した。

 特定の文字や音声などを駆使して、大気中のマナと呼ばれるエネルギーを蜂起させ、スキルには劣るものの小規模で複雑な人工的な奇跡の再現に成功する。

 特殊な素質がなければ、マナの蜂起すら難しかった為、一部の力のある者が魔法の知識を独占したらしい。魔法使いたちは自らを貴族と称し、その他を平民と蔑んだような。


 魔法王と呼ばれた、最も力のある者が国を作って何百年か経った時、魔竜と呼ばれる化け物が国を襲った。その際に、平民を使い潰すような政策を繰り返した所為で反感を買い、革命の引き金となった。


 マギノキューブは、特権階級や貴族社会などへの反省から生まれた産物だ。魔導工学によって開発されたツール。

 『望むのならば、万民に自衛する術を』

 その言葉の通り、生まれ持った素質などに関係なく、人工的な奇跡を限定的ながら実現させる。その多くが、魔物の討伐を命じられた平民の為に開発された魔道具。


 素晴らしい学問だと思うよ。途中で寝ちゃったけど。

 教育を受ける権利は誰にでも保障されるべきだよね。



 キーワードに反応してガシャガシャと形を変えるマギノキューブを見た子どもたちが騒ぐ。


「ま、魔法だー!!」

「すごいすごい!」

「どうやったの! ねえ、どうやったの!?」


 キラキラした目で私を見る子どもたち。

 まあ、悪い気はしないね!!


「教えて欲しい?」


 首を縦に振る子どもたち。

 私は優しい大人なので、魔導工学のテーマ通り『望むのならば、万民に自衛する術を』を実践してあげる事にした。


 マギノキューブ作成台を使って、子どもたちにオリジナルのマギノキューブを作らせてやる。

 リトは白、シェリルは赤、ミゲルは緑だった。

 たしか属性によって、機能の一部が変化するんだったかな。


「フォンキシオって唱えれば、機能の一覧が見れる。使いたい機能を……」

「読めない」


 ミゲルが間髪入れずに答えた。

 そういえば、村長を含めて文字が読めない人ばかりだった事を思い出した。


「じゃあ、読み書きの練習をしないとね」


 三人は露骨に顔を顰めた。

 だが、続く私の言葉を聞いて目を輝かせる。


「文字が読めれば、このマギノキューブで色んな事が出来るようになるよ。魔法だって使える」


 悪ガキ三人衆が村に貢献できるようになれば、相対的に私の評価も上がる。

 一人での試行錯誤より、四人での試行錯誤の方が効率が良くなる。ただし、全員が未経験だ。


 このマギノキューブは、便利な魔道具である。

 だからこそ、余計に気になるのだ。

 このレオネオを作った人々が何処へ行ってしまったのか、どうして戻ってこなかったのか。


『村の迷信深い者は、これを災いの予兆と恐れる者もいます』


 この世界に初めて迷い込んだ時の村長とのやりとりを思い出す。

 災いの予兆である事を否定する為に始めた調査だった。

 謎の金属製の立方体が古代文明に作られた遺産であり、マギノキューブと呼ばれる魔導工学の魔道具である事まで突き止めた。

 だが、私は村人の恐れをまだ否定できないでいる。


 マギノキューブは災いの予兆か、あるいは古代文明の遺産か。


 とてつもない何かを、一人で抱えるのが嫌だった。

 だから私は、子どもたちにマギノキューブを与えた。

 そうすれば、私は一人にならずに済む。少なくとも、村人たちも私だけを排除しようとはしないだろう。


 マギノキューブにはしゃぐ子どもたちを眺めながら、私は胸の内に蟠った自己嫌悪に蓋をした。

一章完結です。ここから内政系になっていくはず。


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