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調査隊、結成!(なお、全員未経験)

『“マレビト”が元の世界に帰ったという話は……すまんが、聞いた事がない』


 そんなショッキングなお話を聞いても、人間というものは夜になればグースカ眠れるのである。

 いや、藁のベッドでは眠れなかったので、若干の寝不足ではあるが、徹夜で仕上げたレポートに比べればかなりマシだ。


 村長の家の前に集まったのは、ティーンエイジ。ちょっと生意気に伸ばした髪が反抗期の訪れを知らせている少年、見るからに内気な少年、猫目が好奇心でピカピカな勝気な少女。

 託児所扱いされてる?


「じゃあ、右から自己紹介たのむ。そこの長髪くんからどうぞ」

「ミゲル」

「リト」

「シェリルよ!」

「集まってくれて感謝。じゃ、早速行こうか」


 この開拓村に朝ごはんなんていうものはない。

 夜にドカンと食う派が半数を占め、なおかつ社会主義っぽいので、配給を待つしかないのだ。

 なので、子どもを含めた私は夜までお腹クゥクゥ。

 コンビニのある日本を返して欲しい。


 子どもたちを連れて、向かいますは昨日見つけた場所。

 帰る時に道標を作っておいたので、割と早く辿り着いた。

 内気な少年リトがポツリと呟く。


「ここ、村の西だよね」

「……君のような勘の鋭い子どもは大歓迎だよ」


 忖度なく私のミスを見抜き、指摘した内気な少年リトくん。

 彼の勇気ある告発を私はノートに書き記した。

 誰にだってミスはあるさ。大切なのは、反省して次に活かす事。そうしてエジソンは大発明に至った。私も大発見できますかね。

 私の心の中にいるイマジナリーエジソンは苦笑いを浮かべて、煙のように消えていった。悲しい。


「おい、リト。こっち来いよ。変なのいっぱいあるぜ」


 反抗期ミゲルは、私がどれだけ話しかけても無視を決め込む。リトやシェリルにだけは話すので、大人が嫌いなんだと思う。ちなみにシェリルも私を無視する。ちょっと物理的にも距離がある。悲しいね。

 でも、不審な大人に話しかけない姿勢は、私は高く評価するよ。自衛ができて偉いぞ。


「よし、調査始めますか」


 私はリュックから取り出したライトのボタンを入れ、地下へと続く洞窟に足を踏み出し……


「あれ? 君たち、どうしたの?」


 少年少女たちは私を見て目を丸くしている。


「ま、魔法だ……」

「ん? 魔法? 何が?」

「火もないのに、ランタンより明るい!」


 少年リトは興奮した様子で叫ぶ。

 洞窟内でぐわんぐわん響いて煩い。


 この世界にまだ電気はないのか。

 って事は、当然だけどスマホの充電も電池の替えも期待できない。


 サークルで夜道が暗くなるからと買ったライトだ。

 電池は変えたばかりだけど、限りある残量を有効に使わないと。


「わ、わかった、わかったから落ち着いて」

「ご、ごめんなさい」

「暗いから、足元に気をつけてね」


 出鼻を妙なリアクションで挫かれたが、調査を続行。

 奥に進めば進むほど、『キューブ』が次々と見つかる。

 洞窟に転がっているのがほとんどだ。


 そして、一本道に続く地下へ進みきった先に大広間を見つけた。

 天井の崩落を支える梁や、壁に彫り込まれた細かな文字はやはりどう見ても人工物である。


「わ、わあ……」

「すごおい」

「なんじゃこりゃ」


 子どもたちも、まさかこんなものが村の近くにあるとは思わなかったのだろう。

 早くもウズウズとしていたので、分散して調査させる事にした。


「シェリル、リト、ミゲル。声が届く範囲で自由に見ておいで。それで何か見つかったら教えてね。嫌な予感がしたら、すぐに戻るんだぞ」


 少年少女たちは、ランタンを片手にダッと駆け出した。

 ふふ、調査の手伝いに一人ぐらい大人がいるだろうと思ったのに子どもだらけだったから困ったが、あれぐらいの歳なら放っておいた方がいいだろう。


 私は壁の壁画とか文字とか書き写しますかね。

 村長が何か分かるかも知れないし。


 ライトで照らしながら描くのって、地味に面倒だな。

 一人ぐらい手元に残しておけばよかった。

 まあ、過ぎた事はしょうがない。


 壁画はザッと見て、五つ。

 右から見るのか、左から見るのかは分からない。

 ただ、デカいのっぺりとした生き物が大口を開けていたり、背中に羽の生えた生き物が空を飛んでいたりと、雰囲気的には神話を壁画に落とし込んだように見える。

 古代文明の遺跡、というやつだろう。

 ロマンの塊じゃん?


 この『キューブ』は差し詰め、宗教的なシンボルか何かってカンジなのだろう。

 軽いし、硬いし、丈夫だし。


 あ、そういえば、ダイヤモンドはダイヤモンドでしか砕けないんだっけ。

 なんか、硬度がなんたらかんたらで、砥石にはダイヤモンドがどーたらこーたら。

 専門外なので、詳しい情報は忘れた。


「ぶつけてみるか」


 そこら辺に転がっている同じ大きさの『キューブ』を足で挟み、村長から預かった『キューブ』をぶつける。


「んおっ、変形した!?」


 手に持っていた方の『キューブ』が変形した。

 さながら数学の公式を当てはめるためだけに作られた謎の斬られた立方体のように、片隅がルービックキューブのようにズレて変形したのだ。

 鋭利な断面は、思いっきり当てれば怪我するのに十分な硬さと鋭さがある。気をつけよう。


 ライトを口に咥えて、断面を覗いてみる。

 金属特有の鏡のような光沢がライトの光を反射していた。


「……これ、なんなんだろうな」


 古代文明の遺産という説が濃厚だ。

 宗教的シンボルというのも、外れてはいないと思う。


 なら、これらが大量に残されているここって、なんなんだ?

 宗教施設を破棄した?

 宗教は、まあ諸説あるが、生活の基盤だったり、信仰の重要な場所だ。そんな場所を捨てるって……

 いや、待て。

 ピラミッドって、侵入者を撃退する罠とか、あったよね。


「子どもたち、戻ってこ〜い!」


 私の声を聞いて、駆けつけてきたのは……


「うわああああ、誰だお前!!!!」


 人型の『キューブ』だった。

 人間というにはあまりにもギクシャクとした動きで、歪な四肢と頭部。ライトに照らされ、向かってくるのはかなりホラーだ。


 咄嗟に手に抱えていた『キューブ』を投げつけた。

 ガシャンと『キューブ』の連結は壊れて、大小様々な『キューブ』が床を転がる。


「……止まった?」


 一発ほどぶつけただけで、停止したらしい。

 あんなのがいたら、来る途中でこちらに気づくと思うが……


「子どもたち、やりやがったな」


 丁寧に退けられた『キューブ』の先に、何か意匠を凝らした門と階段があった。

 どうやら、私が壁画に気を取られている間にさらに地下へと続く階段を見つけていたらしい。

 村長から預かった変形『キューブ』と護身用に投擲しやすい小さい『キューブ』を手に持ち、ライトを片手に握る。


「見つけたらお尻ぺんぺんの刑に処してやる……」


 手間を増やした子どもたちへの復讐を胸に誓い、私は五感を研ぎ澄ませながら地下への階段を降りる。

 こういう時、なんていうんだっけ。

 監督不行届……あれ? この場合、怒られるのって私?


「ま、まずい。子どもたちに何かあったら、私が村から干される……!」


 脳裏に浮かぶのは、磔にされる未来の自分。

 子どもは未来の宝。もし何かあれば、大人たちはこぞって私を詰るだろう。


 さあっと血の気が失せる。

 急ぎつつ、しかし痕跡を見落とさないように階段を降りる。降りきった先に広がるのは、ちょうど三つの分岐路。


 あの子どもたちが分散して動いていたら、まあどの道を選んでもいずれ会える。だが、もし固まっていたら……


 どうする? どうする?

 あの人型『キューブ』が安全とは言い難い以上、早いところ子どもたちを村に戻すべきだ。ここで捜索に長い時間を割けば、その分の危険は上昇する。


「ひとまず、左から潰していくしかないか」


 左から順に、虱潰しに探すことに決めた。

 悩む時間も勿体無いし、子どもたちの行方に関する情報も全くない。行き止まりを見つけたら、すぐに引き換えそう。

気が向いた時にでも感想やブクマ、ポイント評価をしてもらえるとモチベーション維持に繋がります

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