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5.疑わしいこと、これいかに



 綿貫に近づき髪を撫でる。もうシャワーを浴びているので自分が使うものと同じ匂いがする。

 カリオンは妾にもなれない身分だった。

 平民であり、私の護衛騎士。

 私の手放したくないものの一つだ。

 最期まで寄り添ってくれたかけがえのない宝物である。

 それを奪うほどに、あの王太子はそこまで非情ではなく私欲に溺れた人間ではなかった。

 自分が臣民にくだれば、という考えも彼には許されなかった。彼は善き王になる器だった。


 それに、カリオンは彼を愛しているわけではなかった気がする。報われなかったのだ。もしかしたらあの前世では誰も報われなかったということかもしれない。

ひどいことを言ってしまった。もしがあったとして、私が護衛騎士に恋することはないと断言出来ればよかったものを。

 曖昧だった靄が晴れていくようなうすら寒さがする。


 ───思い出したくなかったと思う。


 この小説に嫌悪を抱いたのは、この内容が前世と似ているようで違う進行をしているからだ。

 まるでだれかのそうであったらいいという願望が演出されているような奇妙な感覚。それゆえ、レテシーに共感できそうで出来ない。それを抜きに考えれば、わりと面白かったように思える。


 「花咲さんがカリオンだったら、これは綿貫と花咲さんのための転生ではないの」


 と、それらしい独り言をごちてみる。うわあと言った後に恥ずかしくなる。

 花咲さんが差し入れを行う際、偶然にも綿貫がやってきて私は部屋のなかに入ることは一度もない。そういう風に運命とやらが介入しているのではないか。と思えなくもない。


 認めるより他にないのだろうか。

 綿貫の言う異世界なんたらは、ほぼ確実に嘘ではない。法螺話ではないらしい。

 レテシーは、私だった。

 王太子、王は綿貫だった。

 信じて7割。3割は壮大な集団妄想というオチにしてほしい。


 「魚住、カリオンが転生したらもっとイケメンなのよ」


 いつの間にか起きていた綿貫が雰囲気ぶち壊しな発言をかます。

 頬は赤い。酔っている。綿貫は理性を保ちながらはしゃぎまわるタイプなのでこれくらいでは酔っているに入らないだろう。じゃれているくらいだ。


 「花咲さんも一般的に顔が良い部類でしょう」

 真顔で返す。花咲さんの顔は良いだろう。大半の人はタイプじゃなくても顔は良いと断言するし、多くの人はあの顔が好きだというだろう。


 「違うのよね。そう、それは分かるんだけど、花咲くんは魚住しか見てないのよ」

 前世~などを持ちだすのであればその発言は意味不明である。全く理解できない。


 「はー……、そればっか言うけど根拠はないの」


 綿貫は体を起こして伸びをする。もうすぐ夕方だ。ゆっくりと読み進めていた。

 机上のつまみ類を咀嚼すると綿貫はまた枕にその頭を預ける。


 「花咲くん、二人の時魚住の話しかしないの。この野菜食べられる?とか。アルバイトのシフト変えたのかなあ帰りが遅い気がするとか。なんか今、考えるとガチこわだな」


 「それしか話題ないんじゃないの」

 シフトの話出るのは怖いと思ったが、あまりそんな話題を振る花咲さんが想像しにくい。共通の話題が隣人である私しかいないというのは至極真っ当であるとも思う。内容はともかく。


 「魚住、私が引っ越し祝いに渡した花束、花咲くんにあげちゃったでしょ」

 じとっとした目で綿貫が射抜く。目を反らす。そんなこともあった。なぜ、知っている。


 「……花咲さん、お名前の通りお花が好きらしくて、どう保管するかなあって話してたら、なんか流れで渡すことになったんだよねってあれ一年以上前の話だよ。入学したばっかの」


 「あんのよあれ。花咲くんのお部屋に。大切に瓶みたいなのに入っていたの。で、聞いたら好きな人からもらったとか言っていたよ。片思いなんだって」


 「……ヒューヒュー、綿貫じゃん。綿貫のお花だもんあれは」


 「いや、綿貫から魚住に渡って、花咲に行きついた花でしょ。一回、魚住経由したらもう魚住だろう。花咲くん知らないよその出どころ綿貫って。言ったの?」


 「……言ってないね」


 言っていない気がする。どうしたらいいかという相談だけしたはずだ。捨てるのも勿体ないという会話の流れからあれよこれよという話術でまるまる花咲さんの元へ渡った。手ずから捨てにくかったので、ありがたいとさえ思って今まで忘れていた。花咲はこの一年ちょっとでかなりの親切を施してくれたように思う。


 「ほらー」

 綿貫にとって花咲さんが好意を抱いている相手は私だというのは確定事項らしい。

 それがどう聖女に繋がるのかはよく分からない。


 「なんで、そこで聖女=花咲説?」


 「サラはね。ずっとレテシーからもらった花を大切にしていたの」


 「ごめん。レテシー、花贈った記憶ないかな。単に私がそこまで同期出来てないだけかもしれないけど。皇太子の元婚約者が新婚約者に花を贈る義理はないし、そういうギスギスするの嫌で身分も降ろしたんだけど」


 「………それこそ忘れているだけじゃないかな。完全に同化してないでしょ。正確には、僕が贈った花を不安がって泣いているサラに渡したって聞いているけどね。王族の下賜を渡すって大事、レテシーがするとはと驚いたね。平常心じゃなかったんだろう。サラわかってなかったけど」


 「そう思うとなんという状況の酷似」


 「分かったかい。魚住。行動原理が似ているの。サラと花咲くん」


 「綿貫、酒抜けている?」


 「うーん、多分。それなりに思考はまともかな。それにしても疑問だね」


 「うん。なんで花咲さんは騎士の話なんて持ち出したのか。本人に聖女の自覚ないんでしょ」


 「見落としているだけかもね。本当は分かってるんじゃないのかな。さっきは無意識だって思ってたけど、騎士とかいだしたらねえ。なんせそこまで親しくないもの。花咲くんと私」


 「サラさんは、私が平民になったことくらいしか知らない?」


 「情報統制していたからそれ以上は分からなかったと思うよ。……レテシーがカリオンと結婚したことも知らないよ。でもずっと傍にいたカリオンとレテシーの仲は割と気にしていたからね。アリアナもいたっていうのにさ」


 「あの小説、不自然にレテシーと聖女が仲いいんだよね」


 「ねー。騎士とレテシー、すごくいい感じだしね~~。遺憾だよ~~。王太子のサラへの溺愛ムーブ強くない?結構そこはドライだったんだよ。子供は作りましたけども」


 「男妾文化全カットだったねあれ」


 「関係者だってことはビシバシ分かるよね、花咲くん」


 「あの小説読んで聖女=花咲説でも、綿貫の方に好意寄せている方が自然なんだけどね。前世夫婦でしょ。男妾シーンないのはジェラシー」


 「……それはないと思うよ。前世にそういう愛はなかったから。あの溺愛は編集者が介入しているに違いない。ビジネスだからね」

 そこはやけに現実的な意見だ。


 「花咲さんの前世が分かったところで、何にもならないんだけどね。私、花咲さん好きとかないから」


 「避けているもんね。なにか危険度を覚えていたのかな。防衛本能」


 「いや危険はないと思うけど。うーん、シフトの話は怖いけどそれは置いといて。もし本当に花咲さんが聖女だったんなら相性はよくないでしょう。好感抱いたことないから」


 「はっきり言うね。脈なしか。そうなると花咲くん大変だな。前世から君が好きなのに」


 「あはは。君って言い方懐かしい。そうだね。きっとお門違い。前世からの因縁で私が好きならもっと無理、…………って言ったけど」


 「どうしたの」


 「いやー花咲さん。どうなんだろう。あれ、告白だったのかな。いや、まさか」

 あの真剣な面持ちな顔を思い出すがすぐふり払う。


 「え、なに詳しく話してよ」


 綿貫はさも楽しそうに目を輝かせた。

 私は綿貫のいうところに弱いので、どうしたものか。

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