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11.そういうとこ

 通知欄の名前は『花咲』だった。

 綿貫さんと魚住ちゃんと事前に合流できそうなので、現地集合で構わないか?という文言だった。

 元々は駅で集合の予定だが時間も十二分もある上の報告なので、ここから離れる手間が省けて俺は楽になるのでかまわない。

 花咲にここが俺の身内の店だとは言わないでくれと事前に伝えてあるので、余計な情報を入れられることはないだろう。花咲は信用できる親友だ。

 道中で綿貫さんと仲を深めたかったがそこまで距離もないし話が詰まらないとそこで思われたくないので花咲には『任せた』と返しておく。両手に花で浮かれるやつでもないだろう。花咲はあまり異性と二人きりになったりだとか、対1で話すことを避けている。

 そのため今回は俺も駅に集合しようと思っていたが、その配慮はいらなかったようだ。会話が苦手というわけではないだろうから問題ないだろう。

 好きな人がいるという花咲に魚住ちゃんが本気になったら心配なので、ここに着いたらフォローを入れておいた方が綿貫さんの心象も上がるかもしれない。決して好きな人の親友が悲しむ顔を見ていられないというわけで下心があるわけでは決してない。断じてない。俺も信用できる義理堅い人間である。


 「そろそろ行く時間じゃないの?」


 階下から声がする。義兄さんだ。糸魚川さん以外にお客がいないからか。糸魚川さんというお客に対しては気心がしれているからか義兄さんの口調は、対お客さんのいつもよりも砕けている。

 綿貫さんたちにもその口調で来られると身内だとバレそうなので控えていただきところだ。

 階段を下りて廊下を抜けて顔を出しにいく。


 「そのまま来るらしいんだけど……」


 「そうか。店の前にいたほうが自然じゃない?」


 配慮する言葉遣いからして、義兄さんは身内ですよろしくお願いしますみたいな雰囲気は出さないようにしてくれているようだ。

 「花咲に私がいることを伝えました?」

 糸魚川さんが穏やかに尋ねてきた。大人の人という雰囲気で綿貫さんの好みがこの男性だったら敵わないかもしれない。ただ女慣れしている感じもするので女子大生に執心するタイプにも見えない気がする。相手にしなさそうだ。

 「いいえ。言っときます?」

 花咲からしたら、アルバイト先の上司がいると席が離れていて声が聞こえていないとしても気まずいだろう。嬉しくないサプライズになってしまう。糸魚川さんに言われるまで、考えていなかった。

 アルバイトの上司の方は、お前ここから飲む場所に俺いるぜなんて連絡出来ないだろう。糸魚川さんはそういうタイプに見えない。


 「……いえ。お気になさらず。若者同士楽しんでください」


 「糸魚川さんも若いでしょう」

 義兄さんがツッコみながら日本酒を渡す。

 それをお猪口に注ぎながら糸魚川さんは「そんなことないですよ」と返す。

 「そういえば……糸魚川さん、煙草やめた?」

 ともうこの会話を終わってしまった。

 「分かります?」

 糸魚川さんには喫煙者特有の匂いもしなかった。逆にとてもいい香りがした。

 また、煙草を吸うようにもみえなかったが吸っていても様になりそうだと思った。

 「香水変わったなって」

 「流石ですね。電子タバコに切り替えつつあって」

 「それで香水も合わせて変えたの?」

 「せっかくなので」

 「へえ。電子タバコって言っても、いつものやつ、やめられるもの?」

 「口が寂しいときは、飴を舐めているんですよ」

 鞄から透明なビニールポーチを出す糸魚川さん。その横顔は仄かに赤い。

 「イチゴばっかだー。イチゴ好きなんだ」

 「そういうわけじゃないんですけど、……赤いのが好きなんです」

 「情熱的だね」

 「あはは」

 もう自分が会話に入るスキはないと判断して店の外に出た。

 だんだんと日は伸びているといってももう暗くなってきた。





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