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7.接点

■◇



 運命の分かれ道は、手を伸ばした存在がそれぞれ違ったことに起因するのではないだろうか。


 王家の血筋でありながら、混血族とでも言われる各公爵家。

 色彩の単語を持つ公爵群のなかで『スカーレット』の元に生まれた令嬢は、稀に見る元祖帰りの髪を持つと評判になった。

 第一王子と同じ時期に生まれたのは運命だと騒ぐ輩は数多く、彼女は自然と王妃になる将来を切望され教育を施されていく。

 王族やその他貴族が学ぶ高等院を卒業し、いよいよ婚儀も近いと思われたが、神殿が隠していた聖女と呼ばれる神に愛された少女が現れた。

 治癒能力を持ち、人々に愛される愛嬌を持つ女性。

 神力という、失われたはずの人間には到達できないモノをもつもの。

 王家と交われば、この先安泰だと誰もが言う。

 願う。望む。縋る。

 願われた少女はすり替わる。

 その少女と発見したのは、まだ高等院に入る年齢にもなっていなかった王子であったという噂話があれば、それが真実の一端であれば、誰もが運命を疑うことはなかった。

 この二人がこれからの国を栄えさせるのにふさわしいと、反対する者は誰一人いなかったのである。

 そこに朱い髪の少女と黒い髪の平民の出会いの話があったとしても、誰も気に留めず語り継ぐに値しなかった。

 黒い髪と王子の出会いだとしても、そんなことどうでもいい。

 大衆の戯曲にはなれど、王家の歴史には残らない些末な出会いであった。




 その日の午後は、王子の顔色に陰りがある。とレテシーは思って眺めていた。

 いつも通りの親睦を深めるためのお茶会は、満開の花が咲き誇る王宮庭園にテーブルと椅子を用意して、白いパラソルの下で優雅に行われている。

 レテシーの近くにはメイドのアリアナが控えており、王子の傍には誰もいなかった。アリアナがいれば大抵のことは排除できるので、無駄に人を置かずに二人の距離を縮めてほしいということらしい。傍にいなくとも近衛騎士で周囲は守っているので、手薄というわけではない。

 「殿下、顔色が優れないようですね」

 その声は平坦であるが感情が伴なっているように聞こえる。

 「そう見えるかい」

 王子は首を傾げる。周囲が言うようにレテシーは非常に気立てのいい令嬢で、その顔には微笑が常についている。食事会等のパートナーとしても申し分なく自分のカバーできていない部分をさりげなく補助してくれる。また自分に対しても常に誠実であろうと言葉を投げかけてくる。

 まるで自動人形だと、陰口をいう人間はいるけれど、申し分ない人材だろう。

 ただちょっと、堅苦しいと思う時もある。こうして気楽なお茶会だというのに、彼女の話題は他国の経済状況についてどう考えるか、だとかそういうのばかりだ。図書館で読んでいる図書の話題を振ってさえくれればいいのにと思う。周りが年相応を許さなかったということは重々承知している。王子もその身の上は痛いほどに分かっている。それでも、二人で語らうときくらいは肩肘を張りすぎなくてもいいのではと思っていた。

 目の前の令嬢にとって自分自身は王子で婚約者というラベリング以外の何者ではなくて、興味はさほど持たれていないと思っていたから、個人的に体調を気遣う言葉に違和感を覚えたのだ。すぐに心構えとしての体調管理を話題に出されなかったから、殊更にそう思ってしまった。

「………城下に行きましょうか」

「え?」

 突然の提案である。王子は今まで少女に突飛なことを言われたことはなかった。小言を言われたことは何度かある。今もその枕詞だろうと半分は推していた。

 目の前の少女は微笑のままであるがその声はワントーン小さくメイドにしか聞き取れないように気が配られていた。


 「王子。私をつまらない人間だと思うのは自由です。ですがこうも詰まらない雰囲気を出されては癪なのです」

 「僕がここから抜け出すことは許されないよ。真面目な君らしくない」

 諭すように王子は答える。まさか少女にこんなことを自分は言うとはと考えていた。

 「真面目、真面目。そうですね。大丈夫です。アリアナもいますから」

 すまし顔のメイドが頭を下げる。

 レテシーの朱く長い髪を編み込んだ髪型は装飾品を取り外し、深めの帽子を被れば隠せそうだ。

 「高等院に入ってしまえば、自由はもっと狭くなりますよ」

 高等院に入るのは12歳から18歳の間で、そこでは王族も寮に入る。

 現在、王子とレテシーの年齢は9歳。もうすぐ10歳になる。まだ三年猶予があるが王族である王子とレテシーはもうすぐ事前の本格的な“教育”が始まる。当たり前として受け入れたことを惜しい時間だと少女はらしくないことを言う。

 「レテシー、君はいつもと違うね」

 王子はここからはどう諭したものかと思う。自分が王となる者としてこの提案がいかに危険か説くというのも変な心持になっていた。レテシーは馬鹿ではない。そんなこと百も承知で内密に出かけよう、抜け出そうと言っている。王子はいつもの彼女との乖離に混乱していた。

 「口を挟んで申し訳ありませんがお嬢様はたびたびお出かけになっております。勿論、公爵様のご許可が降りた際のみでございます」

 メイドのアリアナがそういうとレテシーは神妙にうなずいた。監視しているものからは、王子たちはとても真面目になにか話し込んでいる風で和むと思われていた。

 「行きましょうか」

 レテシーがそういうと王子は自然に席を立ち彼女の横へ移動し手を差し出す。メイドが椅子を引こうと場所を移動した。

 王子はレテシーの人間臭さに親近感を覚えた。レテシーは城下町デートというのをメイドから聞いてしてみたいと常常思っていたのでしてやったりと思っていた。


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