4.護衛騎士の誠愛
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王室騎士団というものが存在する。
実力成り上がり主義で組織された実務部隊と、主に騎士家系の精鋭で組織される近衛部隊。
平民がなれるのは前者であると言いたいが結局のところ、組み込めるのは貴族の子息ばかりだ。
貴族の子息は高等教育に上等な食事が生まれたときから確約されている。基盤が違うのだ。
生まれてから、ずっとずっといい暮らしをしている。明日食べるモノに困るかもしれない平民よりもいい食べ物を食べて働く間に訓練をしている。平民よりも実力が出やすいに決まっている。
そういう風に社会はなっている。
しかし、抜け穴がある。
人生で四回だけ参加できる。選考会。そこでは学校上がりのお貴族たちと平民の騎士志望が一堂に会する。主に貴族のご令嬢たちの護衛騎士の選考会だ。貴族の人間が大体選ばれていく。選ばれなければ、自動的に王室騎士団に行く。
平民はそうはならない。
傭兵になるか。
どこかの貴族のお抱え貴族になれるのか。
天国か地獄か。
大体みんな地獄生き。
大半のものは傭兵になるか家業を継ぐか。
野垂れ死ぬか。無関係の仕事に就く。
令嬢たちはアンモビウムという白い花を手に持って目当ての騎士に差し出す。
それを受け取れば、契約成立。騎士となり主人の前で跪く。忠誠を誓う場合は、その花を頭に挿しこむ。
子息の場合はどうであったか、忘れてしまった。通常、高貴な身分の者から選定していく。
王族は、元から決まっているので形式だけ模す。上位貴族は大体事前に契約している。
そのような世情を当然、知識としてもっているはずのレテシーお嬢様は、白い花を俺へと差し向けた。
お嬢様の隣にいるアリアナは、俺をじっとみている。レテシーお嬢様はなかなか受け取らない俺を見かねて小声で問うた。
「あなた、作法を知らないの?これを受けとって跪くの。簡単でしょう」
俺は慌ててそれを受け取り跪いた。周囲がざわついた。
前代未聞だ。
レティシア・ユアライダ・スカーレット。
色彩の単語を持つ家系は誰もが知っている。
国の創生に携わるという謂れをもち古くから要職に就く名門中の名門だ。
炎の色をした家系特有の髪と虹彩。きつく吊り上がった目元。
それにそぐわぬ作り物めいているのに美しい微笑。
レテシーお嬢様は、次期王妃。
そのような殿上人は、平民上がりの俺に、騎士の作法を説いた。学校を卒業していなくて作法の仕方を村人から聞いただけの俺にこのような勲章を与えるとはなんとも度し難い。
決まった騎士はいなかったのだろうか。周りの反応をみるに、誰もいなかったようだ。誰も彼もが自分ではない栄誉を誰が受け取ったのか疑問に思っていたらしい。
「これを私の頭に挿して。そのあとは堂々と私の後ろをついてきなさい。───カリオン。私の護衛騎士に任命します。一生、ついてきて」
唾を飲む。一生、この人のために尽くす。
この人が地獄へ行くのならついていくし、天国に行きたいというのならば踏み台になる。そういう覚悟をするときがきた。
自分にとってお嬢様と出会ったのは運命であったと思いたい。
そういう決意のもとに震える手でその花を真っ赤な髪に咲かせた。
───もし、平民になりたいというのであれば、
それが主人の幸せならば、プロポーズをする。
出来る限りの花束を持って、深紅の瞳に似合う宝石のついた指輪を持って、
貴女が驚きで涙をひっこめるくらい滑稽に、
貴女を幸せにすると誓うのだ。
レテシー様。
貴女の与えた恩情は、貴女のような大貴族として生まれた人間にとってちっぽけでしょうけれど、俺にとってはそれだけ貴女という存在が尊いのです。
と、何度死んで生き返っても、そう思うと思う。あなたの傍であり続けたいと思う。
これが愛でなければ、愛って何なのでしょう。
──────そう思う。




