2.俺のよき親友
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花咲という友人は大学の人間関係を構築する上で大変、便利──貴重な人材だ。
顔と性格のいい人間をきらう人間はそうそういない。第一印象はとても大切だ。
後ろに綿貫さんの友人である魚住さんがいることを確認して、花咲に飲み会のことを提案する。綿貫さんという単語を口に出すときとても緊張した。嚙まないか冷や冷やした。
花咲は案の定、予想通り飲み会には出席しないと丁重な御断り。しかも好きな人がいるという今まで知らなかった情報が飛び出した。それを今言うかという感じなので苦し紛れの言い訳なのではないかと思ってしまう。花咲を観察してもそれらしい相手は皆目見当つかないので、大学生ではなくもっと手に届かないお姉さん系なのだろうか。
茅場の義理は一応果たした。
俺は狙いを綿貫さんの一番の友達に向ける。目の前で話していて聞こえていないはずがない。わざとらしく小声で花咲に話しかけると、花咲は事情も知らないのに辺りを気にするような仕草をする。まるで聞かれたくないかのだようだ。
満を持して魚住さんの方へ振り返ると、やはり聞き耳を立てていたのであろう。ばっちりと目が合った。瞳の中の俺は目が輝いていて魚住さんは困惑している。
「菅沼!困らせるのはダメ!」
花咲は怒っている。いつもなら『困らせたらダメだろ。ごめんね~』くらいの微笑で済ますところを、本当に関わりたくないという顔だ。微笑で女子を落とさないなんてことがあるのか花咲。そこを狙っていたのに残念でもある。
珍しい。綿貫さんにも反応していたのでもしかしたら花咲の好きな人とは……やめておこう。ライバルと認識するには格が違う。自然と負けてしまった感覚になってしまう。
魚住ちゃんは綿貫さんと親しいだけあって、ちゃんとしてそうな女子だった。無暗に約束をせず、考える余白を残す断り方だ。連絡先を交換する前にチャイムが鳴ってしまったのが惜しい。次はすぐに出なければいけない。
講義中、花咲にメモをみせる。
『おーい。うおずみちゃんの連絡先聞いといて~これだけ頼む』
これなら絶対に連絡先が手に入るだろう。
花咲は、そのメモを笑顔で破った。その顔で魚住ちゃんを落としてくれと言いたくなるのを我慢する。茅場は喜ぶだろうが、花咲の笑顔の破壊力はそんなものではないはずだ。というかなんで、そんな笑顔なんだ。脅しのようにみえた。
破るのか。多分後ろの席の魚住さんには見えないだろう。
惚れられるかもしれない女子の連絡先聞くのは流石にダメかと落胆する。花咲はモテたいわけではないのだ。惚れられてしまうだけなのだ。
仕方ない。来週のこの講義の時早めにきて聞くしかない。泣く泣く俺は急いでサークルの集まりへと向かった。
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「花咲、たばこクサくね?」
「あーちょっと喫煙室の近くで電話してたから」
「誰と?」
「トモダチ」
「山口とか?」
「あーいや。お前の知らないヤツ」
「そ」
「そっか。なんかあれば言えよ」
「おう」
講義の時間ぎりぎりにやってきた花咲からはいつもと違う匂いがして、顔も少し疲れているように見える。もしかして修羅場というやつだろうか。
最近、アルバイトが忙しいと言ってすぐ帰宅したりしていたので、それ関係でトラブルがあったのかもしれない。
「あと、魚住さんの連絡先、聞いた」
花咲はスマホの入ったカバンを指さした。
おーまいでぃあふれんど。
俺は大げさに喜ぶように大きくを広げた。
「まじで?花咲、お前は最高の友達だ。教えて」
「無理」
即答だ。花咲はそれはもういい清々しい笑顔だ。もしかして連絡先を聞くという案件だけで勘違いされて大変な目にあってしまったのだろうか。だとしたら責任は俺にあるだろう。綿貫さんの友人に限ってと思うが、魚住ちゃんは花咲がイケメンってのにすぐ頷いていたから、本当はそういう側面があるのかもしれない。親しくないので分からない。
「なんで?許可とってないってことね。はいはい。良いってきたら教えてくれ」
律儀な姿勢を見せないと綿貫さんに嫌われる可能性もある。
少し話しただけだが魚住ちゃんもそういう常識をもっていそうなので、こちらのほうがそれらしいと 思い花咲に投げかけるが花咲は首をふる。
そういう問題ではないらしい。やっぱり面倒ごとになったのか。罪悪感が芽生える。
「俺が魚住さんとやりとりするから、飲みの日程分かったら言って。綿貫さんにも話行くようにしたから」
「いや、お前仕事早いなありがとう」
なんだよ。どういうことかよく分からないが花咲はどや顔をしているので、俺を喜ばせたかただけなのかもしれない。なんて良いヤツなんだ。
「なんでもないさ。綿貫さんとは読風の飲み会の時会ったことあるから」
読風は花咲の所属する文芸サークルだ。
「もともと知り合い?」
「いや、居合わせただけ。面識あるだけというか……。まあ、そんな感じ。だけど会ったら話せるよ」
「まじかーー。最初にお前頼ればよかった。いけるじゃん。魚住ちゃん巻き込んじゃった。迷惑しているかな?」
「どうだろう。俺的には助かったけど」
「助かったって?」
花咲は人好きする笑顔を保ったままだ。
「だって菅沼と打算なく飲めるの久しぶりじゃん。余計な人間、呼ぶなよ。飲むなら四人な」
暗に茅場は連れてくるなと言わんばかりだった。これが笑顔の圧というわけだろう。
「ごめんな茅場……」
遠くの席で遠巻きにしている茅場には聞こえないかもしれないが謝っておくと前の席の同学科のやつが笑いをこらえていたので聞き耳をたてていたやつがいるようである。
俺はこの後、良い感じの居酒屋を探しまくることとなる。




