1.出会いの話
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俺が綿貫さんと出会ったのは、偶然だった。
誕生日が来たことでお酒を飲むという楽しみを覚えた。
飲み会で酔いつぶれた俺はベタなことに道路で眠りこけてしまった。
もう少しで自宅という住宅街。
ご近所さんに見つかったら、変な噂が立ってしまうに違いない。
20歳になったばかりで浮かれていた。
サークルのみんなのお祝いの奢りだからとあれよあれよとばかりにおだてしまった。
自分の限界を知ることは大切だが、そういうのは宅飲みで行ったほうが良いということを学んだ。学べたので、有意義な飲み会だったと思うしかない。
固いアスファルトの違和感で目を覚ますと、同じ大学で幾度か見かけたことのある女子が俺の前にかがんでいた。髪を耳にかける仕草をしたからの角度でみると、いやに鼓動が早くなる。
陽は昇りきっていて、散歩をしている高齢者が訝し気に眺めているのがみえた。首が痛い。頬もいたい。
きっと誰もが遠巻きに俺を風景として捉えて通り過ぎただろうに、彼女はそこにいた。
猫のような丸い目をみた彼女は、俺をじっと凝視していた。
目を開けたことに気付いたのか気づいたうえで観察しているのか。
どちらにしても不可解なイベントが起こっているに違いない。
「おはようございます」
思い切って朝の挨拶をしたが、声がかすれていてうまく発声出来ない。
相手に届いているかあやしい。うめき声しか聞こえていないかもしれない。
不審に思ってこの場から去ってしまう可能性もある。
「おはよう。大丈夫?」
果たして聞こえていたようだ。彼女は屈んだまま首を傾げてじっと俺を見る。
恥ずかしさがこみ上げる。酔い倒れていた自分がいかに滑稽だったのか、と改めて羞恥が湧いたのだ。
「だいじょーぶです。おなじ大学の人っすよね」
「多分ね。君のメッシュいいなって思った記憶があるから」
大学に入って何度か髪を染めた。
────ピンク、茶髪、金髪。青メッシュ。緑メッシュ。
何度も変えているので、それなりの印象に残っていたようだ。
今は黒髪に戻っているので、「誰だっけ?」とからかわれたりもする。
友人の花咲がなにぶん顔が良いので、俺の印象は霞むらしい。ひがむほど顔が悪いわけではないが、花咲は別格という感じがする。こう、嫌味がなく神に愛されているんだろうなという感覚だ。
「これ、水」
彼女は、俺の前にペットボトルを置く。「口付けてない新品だよ」と一言添えられた。
手を出して起こそうとかそういう行動はとらない。現実で女の子はそこまでよく知らない男子にやさしくしたりしないのだ。
「ありがとう」
「君、黒髪の方が似合うよ。かっこいい」
「え、……ありがとう」
彼女は、綿貫さんは、そういって俺の心を射止めていった。
俺みたいな男は単純で、かわいい女子が自分のことをかっこいいと言って笑ってくれちゃっただけで、え、可愛い好きとなってしまうのである。
綿貫さんは、俺のお礼を聞いてもなんの反応も次に残さずそのまま立ち上がって歩き出してしまう。
俺は地べたに寝っ転がりながら彼女が自分から離れていくのを見送っていた。
ここら辺に住んでいるのだろうか。水をもらってしまったら何かお返しをしたほうがいいのだろうか。
俺の心は浮かれていた。
綿貫さんはきっと俺と出会ったことはそこまでの出来事だと認識していないだろう。
もしこれが花咲だったらどうだったんだろう。
綿貫さんは立ち止まって同じことをしたのだろうか。
それとも立ち上がるのを手伝うまでしたのだろうか。
比較対象がよくないだろうか。
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綿貫さんという個を認識することでその周りの人間関係も見えだしてきた。
綿貫さんと懇意にしているのは、魚住さんという女子だ。
綿貫さんは美術史サークルに参加しているが魚住さんは別段何かに所属していないっぽい。大学以前からの付き合いなのだろうか。よく見かける二人の距離は近く、どちらかというと綿貫さんが猫のように魚住さんに絡んでいる。魚住さんにも困惑さは見受けられないので、二人の慣れた距離感ということだろう。
カメラサークルのなかに美術史サークルを兼部している女子がいる。その女子は花咲に二度告白して二度とも玉砕している。そのため、俺は近づいて話したことがない。気まずいからだ。しかし二度も告白する胆力ある女子なので、虎視眈々とまだ花咲を諦めていないだろう。
「すがっち。合コンしよう花咲呼んで」
とくるのである。単刀直入だ。隠す気が全くない。
「茅場さん。花咲はそういう飲みの場、絶対来ないよ」
こういうのが俺の役目だ。
「えー。でもほら美術史サークルの可愛い面子も集めるよ。すがっちも好きそうな子もいるって。花咲もう私が誘ってもきてくれないもん」
「えー、どんな子?」
乗ったふりをしておく。花咲は来ないだろう。
スマホでみせられたのは全員の集合写真で茅場は「この子とこの子とか~」と紹介してくれるがそのなかにはいっていない。綿貫さんはお呼ばれしないらしい。
「この子も呼ぶけど、このこ、花咲気になってるって言っていたから要注意人物」
茅場はさす人物は綿貫の隣に映っている。綿貫さんと仲が良いのだろうか。その子は綿貫さんに肩を回している。綿貫さんはピースしているだけだ。
「一応、頼んでみるけど……」
「ほんと!?」
「来ないかもよ?それでも飲みは開催決定事項?」
「もち。すがっちのお気にを呼んでまた開催してやるからさー。そのときは花咲頼むよ」
今回は花咲がこなくとも仕方ないと長期戦を見据えているらしい。
花咲も大変そうだ。




