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16.花咲さんのご友人


 とても気まずい場面に居合わせていた。

 目の前には、花咲さんが友人同士で座っている。

 いつも複数人というわけではなく、花咲さんのごく親しいだろう友人と二人並んでいる。前に座っているので表情は見えないが会話はよく聞こえてきた。


「花咲さ、付き合っている子いないんだよね」

「いないね」

「ちょうどいいじゃん。今日、飲みあるから来いよ」

「先約あるからさ。ごめん。今度埋め合わせる」

「そうか。すごくかわいい子もくるし、花咲気になってるってヤツもいるんだけど。違う日でも後生だ」


 髪の黒い友人が花咲さんの神頼みポーズをして頭を下げる。

その人はよく花咲さんと行動する人で、一年生のときから髪の色が変動する人だった。人の顔を覚えるのはそこまで得意ではない。面と向かってちゃんとみたことはない。花咲さんの親切な隣人の友人を無意識に覚えたのは一重にその髪の多彩色さゆえだろう。

 花咲さんは、相手の目線がそれた隙を見計らったかのように私を見た。目が合ってしまう。見ていたことがバレる。すぐにことらから目線を外す。


 「その友人の子、狙っているとか?」

 「同じサークルの子で、……まあね。アシストしてくれたら俺もする。俺は繋げてもらうために今日頑張るんだ」

 「しなくていいよ。俺、好きな子いるのって話したっけ」

 「え?嘘。誰?知ってる子?バイト先とか?」

 花咲さんは大学で小説家のことは言っていないらしい。友達はスクープだとばかりに質問攻めしている。花咲さん「どうだろうなあ」とはぐらかしている。

 目の前なので聞こえるのは不可抗力。仕方ない。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。


 「適当に嘘つくなよ。頼むって」

 「好きな人に知られたら、嫌じゃん?」

 「花咲、みてくれよ。このこ。かわいいだろ綿貫さん」

 「菅沼、話を聞こう。……どの綿貫さん?」


 菅沼というらしい。菅沼はスマホを花咲さんにみせる。花咲さんは、どれどれといって覗き込んでいる。綿貫という苗字はありそうでなさそうな苗字だ。あの綿貫なのだろうか。私も気になってきた。菅沼は小さい声ででも、こっちには聞こえているぞという音量い言う。

 「花咲、後ろ座っている女子いるじゃん?」

 「あ、うん」

 花咲さんの声も小さい。遠慮がちでこちらに聞こえていることを分かっていて諦めているような音量だ。

 「あの子とよくいるの見かける。サークルの飲み、最近来なくてどうしようと思っていたけど後ろの子、誘ったら今日来てくれるかな?お前誘ってくれない?顔いいじゃん。今日来れないならそれだけ頼む!」

 花咲さんの顔が良いのは認めるけれど、誘った張本人が来ない飲み会にのこのこ行きます!綿貫も連れていくよ!となるだろうか。答えは否である。菅沼君浅はかだ。

 「無理」

 花咲さんはきっぱりそう言った。

 「そうか。ダメかー……」

 「この会話絶対聞かれている。分かっているだろ」

 花咲さんは語気を強めた。

 「ねえ?ダメ?」

 菅沼は振り向いた。これは、単刀直入にきた。目がしっかり合う。雰囲気そのまんまコミュニケーション能力強めの人間らしい。目鼻も整っていて、可愛い感じの……雰囲気子犬っぽい。まじまじと顔を見るのは初めましてであり、まじまじと顔を見られるのも初めてだ。それでもそこまで嫌な感じはしなかった。人徳というのだろうか。人に不快感を与えることがない人種らしい。糸魚川に会う前であれば綿貫にも好感触なのではないだろうか。

 「菅沼!困らせるのはダメ!」

 「花咲、俺はこの子に聞いているんだ。変に怒るなよ。ね?ど?綿貫さんの予定シラナイ?」

 「いやー……どうですかね」

 当たり障りない言葉が思いつかない。突然話を振られるとは思わなかった。菅沼、なかなかのコミュ力の持ち主である。ここに綿貫がいれば円滑な会話が出来たろうが、菅沼の目的は綿貫なので、そもそも会話をすることはなかっただろう。

 「名前なんていうの?連絡先交換しておこう。お酒飲める?」

 会話が早い。矢継ぎ早だ。 

 「お酒は少々。魚住です。綿貫のことを私が今どうのこうの言うことはできなくて、ごめん」

 諦めてまではいえない精一杯で返しておく。

 「そうだよね。魚住サンいいね。そういう義理堅いのいい。綿貫さんの友達って感じ。俺のことはスガちゃんとでも呼んでくれ。こいつは花咲」


 花咲さんの目が泳いでいる。ここは初対面の体になるべきか、隣人ということを知らせる場面なのか。分からない。でもここで教えてしまうと綿貫が出入りする可能性を匂わせてしまい面倒ごとになるかもしれない。菅沼は花咲の友人をやっているだけあって悪い人ではなさそうであるが、迷惑ではない人間とは限らない。


 「よろしく。菅沼君。……と、花咲さん」

 「なんで花咲だけさん!?イケメンだから?」

 「うん。そうだね」

 「返事早いね!?魚住ちゃん。遠慮とかないの?でもこいつ好きな子いるからアピっても無駄だよ。な?花咲?」

 初めましての人に楽しそうにツッコミをいれている。人に好かれる質であろうことがよくわかる。

 菅沼の中で私の呼び名は魚住ちゃんになったらしい。もう花咲さんよりも仲良さげな感じになってしまった。

 「うん。……ごめん。俺イケメンって言われた?」

 「食いつくのそこ?魚住ちゃん、違うんだ。花咲は普段はもっとカッコいいんだけど。大丈夫?花咲?」

 「ちょっと具合悪いかも。始まるまで突っ伏しているから、起こして」

 「おう。分かった。……魚住ちゃん、よかったらぜひ飲み会に来てくれ。イケメンの花咲も連れて行くから」

 「菅沼君、もうそれは魅力的な提案ではないとさっき自分で言ったじゃん」

 「もっと魚住ちゃんに合う子探して連れてくるよ。その代わり、綿貫さんも、さ」

 「綿貫には好きな人いるけどいいの?無駄になるよ」

 「無駄じゃない。好意は示しておかないと。日曜日暇?」

 なかなかガッツがあるようだ。

 「ごめんね」

 「うん。急ぎ過ぎた。俺が悪かった。ごめんね。また、頼むよ」

 「またいつかね」


 チャイムがちょうど鳴る。意外と真面目な菅沼は花咲さんを揺り動かすために体勢を変えた。花咲さんの髪から見えた耳は赤くなっている。振り回してしまったのかもしれない。

それかもう季節も夏に変わってきたので熱中症なのかもしれない。

 大変、気まずい思いをしたが、菅沼のおかげでまた人間臭い花咲さんを見ることができてラッキーだと思う自分がいた。うん。やはり振り回されているのは私の方だろう。そうに違いない。

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