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12.おもいだす


 目が覚めたら、綿貫の顔があった。顔を横にして机に突っ伏していたらしい。

 変な夢をみた。

 綿貫と目が合う。胸が締め付けられるような感情になった。


 レテシーと王太子の婚約の間に愛はなかった。

 身分が釣り合う家に、丁度良い年齢の子が、女児が生まれた。

 幼いころから婚約者であれと厳しく育てられ同年代のような自由はほとんど許されなかった。護衛騎士とメイド、それだけはレテシーが、何が何でも手に入れた自分だけの味方だった。


 最初は、愛がなかった。それは事実だ。

 でも実際に、婚約破棄がなされたとき表には出ずとも、自分は落胆していた。

 レテシーは、何年もかけて婚約者を愛そうとした。そうして婚約者が自分の護衛騎士を気にかけていることを知ったりもした。それさえも包み込んで好きになろうと、塗りつぶそうとして………そこまできていた。

 聖女に触れて、なんで自分が綿貫に心をここまで許していたのか分かった。

 でもそれを目の前本人には言えない。混乱が混乱を招くだけだ。


 「おはよう魚住。どうだったよ糸魚川さんの腕の中はよ」


 小声で囁かれてじっと目を細められる。

 ここはどこだろうと体を起こす。

 教室の一つのようだ。

 顔なじみの学生がいる。講義に間に合ったらしい。間に合ったというか運ばれたのだろうか。


 「糸魚川さんが?」


 「タクシーで魚住はやってきた。糸魚川さんが抱っこして校内の一部をくぎ付けさ」


 「花咲さんは?」


 「見てないね。意識失うまで一緒だったの?」


 「うん。それで花咲さんに触ったら、なんかこう、私レテシーだった、みたいなね」


 「おおー。触ったんか。なるほどね。衝撃でこうなったわけか。どうです?聖女でしょう」


 「聖女にしか見えなくなったね」


 「あはは。悪手だったか。それで魚住、糸魚川さんはカリオンなのかな」


 「そうって本人が言ってた。でも花咲陣営らしいよ」


 鞄を引き寄せて筆記用具を取り出す。腕時計を確認するとまだ講義が始まるまで余裕があった。糸魚川は私の最後の呟きを拾ってここまで届けたということだろうか。保健室でもいいのだけれど、普通に起きられたのでここでよかった。綿貫と合流できて幸いだった。


 「はーっ。だろうね。私は魚住陣営ってわけだ」


 「権力構造的には綿貫陣営じゃないの?」


 「いや、違くない?糸魚川陣営なら綿貫陣営も吝かじゃないけど。ねえ、話は変わるけど糸魚川さん彼女いると思う?」

 陣営ってなんぞやと思わないあたり綿貫は柔軟性が高い。

 それにもう現代の恋に走り出している。


 「ガラリと変えたな。知らないよ。連絡先も知らないから聞きようもない。もう早々会わないだろうから」

 コンビニで会ったのは偶然だ。たんとうへんと言っていたが今まで遭遇したことはない。もしかしたらあちらが会わないようにしていたのかもしれない。そうしたらこれからも会うことはないだろう。


 「コレ。糸魚川さんが魚住にって。連絡先。私はフェアな人間だから登録してないし、魚住が糸魚川さんに許可とるまで我慢できますよ?」


 渡されたメモには電話番号と連絡ツールとして普及されているSNSのIDの記載。

 花咲さんのも知らないのに、さきにその担当編集のものを受け取るとは思わなかった。


 「無事起きたなら合間にでも連絡しなよ」


 「うん。ありがとう。花咲さんの知る前にこちらを知るとは思わなかった」


 「私は知っているよ。花咲くんの連絡先」


 「そうなんだ」

 自分の知らないところで割と交流があるのかもしれない。


 「お互い逆だね」


 綿貫がそう言ったタイミングで、チャイムが鳴った。ざわついていた教室の声が抑えられた。

 チャイム終わりと同時に律儀な講師が入ってきた。

 間に合ってよかった。

 糸魚川に感謝しなくてはならない。私の意図を最大限に汲んでくれたのだろう。

 それにしても、元夫婦間のみのパイプが出来るとは誰が想像しただろうか。

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