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夢の中だけ全力少年  作者: えのたけ
第一章 10月1日
3/13

第一章 2『全力の告白』

 三嶋颯太(みしまそうた)藍野咲(あいのさき)の未来を変えたかったらどうするか?


 もしかしたら三嶋颯太と藍野咲に前もって話しておけば未来は変わるのかもしれない。

 でも俺はそれを試したことがない。できない。資格がない。


 だから夢の中でなんとかする。それ以外に方法はなかった。


 ◆


 長い長い予知夢を見て、朝から疲れてしまったとしても普通に学校に行かなきゃいけない。こういう日はほんとに憂鬱なんだ……。眠いし、ダルいし。追い討ちするかのように今日から体育祭の準備が本格的に始まったみたいで、帰宅部なのにすぐには帰れなかった。そういうわけでいつもより遅い時間に家に帰ってきた。


「ただいまー」


「おかえりお兄ちゃん。遅かったね〜。今日はお寿司の出前とったよ〜」


「そうみたいだな。助かる」


 妹はソファーに寝転がりながらテレビを見ている。もう食べたんだな。俺もさっさと食べるか。


「いただきます。さて、どっからいこうか」


 寿司を食べながら、三嶋颯太告白騒動(仮)の解決策の作戦会議を始める。まず藍野咲がどんな風に告白を突っぱねるかを確認しよう。よし作戦会議終わり。


 夕食を食べてもろもろを済ませた後、俺はようやくベッドに入った。


 俺がやることは予知夢の結末を変えること。過程はどうだっていい。予知夢の結末さえ変えれば、勝手に現実の結末も過程も変わってくれる。これまではそうだった。今回も……多分……そうだよね?


 ==================


 朝日が顔にぶつかる。気持ち悪い……。これは……間違いなく夢の世界だ。俺の部屋に朝日が差し込んでるしな……。


 よーしここからがスタートだ。俺は普段なら考えられないくらいのスピードで朝の支度を終えて、家を出ようとする。


「ちょっと〜!お兄ちゃんお弁当忘れてるよ〜!」


「あー悪い悪い、ありがとう」


 夢の中でも俺の妹はいい子だなぁ。いつも気が利くし、ニコニコしてるし……っていやそうじゃない。まず俺がやること。それは単純明快。朝イチで藍野咲に告白するんだ。その反応を見れば解決策なんてバンバン浮かんでくるっしょ。


 俺はコンビニなんかスルーして一直線で駅へ、学校へ向かい、無駄なく教室に到着した。


「藍野さん!」


 教室の前の方のドアから入って開口一番そう告げた。よかったー、藍野さんは朝早くから学校に来るタイプなんだな。いなかったらどうしてたんだろ俺。


「はい......?」


 夢も現実も含めて、初めて面と向かったけど、これはこれはものすごい美人だ。でもなんでだ?彼女は俺の顔を見ていないように見える。俺の首元あたりを見ているのだろうか?まさか噛んできたりしないよね?


「ちょっと話あるから、一緒に来てもらっていい?そんな嫌そうな顔しないでくれよ。ちょっとだけだから!」


 ものすごいウザイだろうなこれ。でもこんくらい強引じゃないとこの子動かなそうだし……。彼女はほんの少しだけ驚いたような表情をしながらゆっくりと頷いてくれた。すっげぇ嫌そう……。でもよし。告白の場所として、中庭をチョイスしよう。告白スポットとして悪くないしな。あと教室から近いし。それに屋上は遠いし。


 移動中、俺は藍野咲の立ち方、歩き方、動きの全てに見惚れていた。綺麗だ。こんな高校一年生が居るんだな。知らなかった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 藍野咲と自分の雰囲気の格差についてソロディベートしているうちに中庭に到着した。まだ朝礼まで時間があるからか、学校に人が少ない。これは絶好のチャンスってやつだ。依然として何事か理解していないように見える彼女の前で、俺は声高々に想いを告げた。


「一目惚れしました!俺と付き合ってください!」


 その瞬間、さっきまで彫刻かとさえ思えた彼女の表情が一変した。


「やめて!私はあなたのことなんて好きじゃない!二度と話しかけないで!」


 いや声でっか。喋んのはっや。俺は足早に去ろうとする彼女を急いで呼び止める。


「ちょっと待って待って!なんでなんだ?理由を教えてくれ」


「そんなこと話す必要ない!ついてこないで!触らないで!」


 全力の告白は見事に玉砕しました。現実でこんなこと言われたら一日は立ち直れないんじゃないか?彼女はどこかに行ってしまった。普段の藍野咲をよく知らないけど、これが普通じゃないことぐらいはわかる。


 どうやら告白そのものが地雷みたいだ。俺が特別嫌われているわけではないはず……。そうだよね?藍野咲は告白に対して拒絶反応を見せる。となると三嶋の告白自体を止めるか。でも普通に考えて、告白って人から言われてやめるようなものじゃない気がする……。うーん、物は試しだし、とりあえず三嶋と話してみるか。朝練はもう終わってるよな?


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「三嶋ってこのクラス?」


 当てずっぽうで中庭から一番近かった1-Aの教室の近くにいた男子に話しかけた。人を探すときはとりあえず人に聞くのが一番手っ取り早い。


「颯太?颯太は1-Bだぜ。探してんのか?呼んできてやるよ」


 こいつやっさしいな。こういう突然の優しさを目の当たりにすると、何か裏があるんじゃないかって勘繰ってしまう。小さいな俺。確かこんな感じの歌があった気がする。少しすると隣の1ーBの教室から俺より少し背の高いガッチリとした男が出てきた。率直に言うとちょっとビビった。


「お前が三嶋颯太なのか?」


「あれ?明里じゃんよ。なんでそんな『初めまして』みたいな感じなんだよ。球技大会で熱く戦った仲じゃねーかよ」


「あーそうだったな……ちょっと話いいか?ここでは話しづらいから階段の方でさ」


 階段の方を親指で差しながら言うと、三嶋は分かったとすんなり着いてきてくれる。藍野咲と違って全然嫌そうじゃない。


「それでなんだけど、藍野咲に告白するのをやめてほしいんだ」


 俺は単刀直入、一球入魂で三嶋に投げ込んだ。


「は!?なんでお前がそれ知ってんだ!?まだ誰にも言ってねーのに!」


 そりゃびっくりするよな。というか誰にも言ってないのか。見た目のわりに意外と秘密主義なのね。ふーん……。


「少なくとも、今日告白するのはやめておいた方がいい」


「しかもなんで今日告白しようとしてることまで知ってんだよ!」


「あれだよあれ、メンタリズムってやつ」


 俺が三嶋の恋情を知っている理由なんて、本当にどうでもいい。今はとりあえず告白することをやめてくれたらいい。


「もしかして明里も藍野のことを狙ってるのか?」


 確かにそう思うのが自然だな。ここは少し嘘を言ってでも告白をやめさせるか。


「そうなんだ。実は告白もした。でも振られたんだ。そして今は誰とも付き合う気がないって言われた。だから....」


 すると三嶋は腕を組み、壁に寄りかかって目をつぶる。動きがウザい。


「オレは何言われようが、今日告白するのをやめないぜ」


「なんでだ?」


「理由は簡単!朝の占いで一位だったんだよ!今日しかないだろ!」


 キラキラした顔でガッツポーズしながら言ってやがる。動きは男らしいけど、なんか可愛いな三嶋。でも残念ながら藍野咲は占いでどうこうなるレベルじゃないだよな。


「それでもやめておいた方がいいんだ!これはお前のために言ってるんだ!」


 三嶋と同じ熱量で言葉をぶつけた。そうすると三嶋は数秒真剣な顔をした後、意外にも優しく微笑みながら口を開いた。


「ありがとな、明里。俺も薄々わかってんだ。藍野さんが俺の告白を断ることを。でもそんなことは関係ねーよ」


「そう……なのか。ちなみに、三嶋は藍野さんのどこを好きになったんだ?」


「どこをってそりゃ、あれ?んーと....そんなのわかんねーよ。いつの間にか好きになってたんだよ。ってかそんなんどうでもいいだろ?彼女とも別れたし、あとは告白するだけなんだよ」


 なるほど。三嶋は最近彼女と別れたのか。ということはおそらくこの日の放課後、藍野咲にきつく詰め寄ることになるのは三嶋の元カノだな。そうに違いない。


 ただ納得できないこともある。三嶋は少し話した感じ、なんでも素直に言っちゃう系の男子だと思う。そんな三嶋が藍野咲の好きなところを「わからない」って言った。きっとこれは三嶋の本心であり、決して嘘ではない。でもまだ藍野咲と一回しか話したことがない俺でも彼女の魅力はいくつか出せる。顔とか、雰囲気とか、匂いとか……。そんな魅力垂れ流し状態女子の好きなところが「わからない」なんておかしいだろ。


 俺が色々と考えていると三嶋が話し出した。


「だから、明里の忠告を聞き入れることはできねぇよ。悪いな」


 明らかに意味不明な忠告を無碍にすることなく、しっかりと受け止めている。三嶋はいいやつだな。


「いや謝るのは俺だ。変なこと言って悪かった。頑張れよ」


 そう言って三島とは別れた。


 にしても困った。このままでは結末が変わらないどころか、俺が告白したせいでこの予知夢の結末はもっとひどいことになるんじゃないか?どうしたもんか……。


 いい案が浮かばないまま自分のクラスに戻ることになった。


光弥(こうや)おは!今日は珍しく早いんだな」


「そうだなー」


 藍野咲に告白して三嶋颯太と話した後でも朝礼までにはもう少し時間がある。普段の俺はどんだけチンタラしてんだ?


「なぁ鋭時。藍野さんってどんな子なんだ?」


 なんでもいいから今は藍野咲について少しでも知りたい。


「藍野さんって....咲ちゃんか。俺もあんまっていうかほとんど話したことないなー。近寄りづらいっていうか、目も合わせてくれないって印象だな。すげぇ美人ってことだけは知ってるぜ」


 美人ってことを知ってるだけでも三嶋よりは上だな。


「お前が全然知らないって珍しいな。じゃあ藍野さんのことよく知ってる人とか知らないか?」


「んー、委員長なら知ってんじゃねえかな。おな中らしいし。にしても急だな、まさかお前気になってんのか?あれか?同じ外部生だから親近感が湧いた感じか?」


「そんな感じだ。緋川(ひかわ)さんね。ありがとう」


 気になってるのというのは事実だしな。別に否定することでもない。それにしても藍野さんが俺と同じ外部生だというのは初耳だな。中高一貫であるこの学校は内部進学の生徒の割合が高いけど、外部生も割といる。鋭時の言う通り、緋川さんから話を聞けば何かわかるかもな。


 鋭時との会話に区切りがついた瞬間、頭にズドンと衝撃が走った。


 ==================


「お兄ちゃん起きなよ〜! 目覚ましもかけないで何普通に寝坊しそうになってんの〜!」


「ん……? もう朝……?」


 9月30日の朝になっていた。

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