赤い指
棚に一列にならんだポップコーンをつまんで食べた。この中からどれか一つを頭にしよう。
いくつめかのポップコーンに唐傘小僧のような帽子をかぶせた。
自分の席に着くと急に催してきた。確か店の奥がトイレになっているはずだ。ここの店長らしき人が奥の部屋から覗いている。ここへは石鹸を売りに来ているのだ。一言二言交わすとさらに奥へ進んだ。トイレに入ると肩幅ぐらいの横幅で長さは人の背丈ぐらいだった。それよりも不思議なのは便器だ。確かに和式なのだが洋式のような蓋が付いている。蓋の形も便器に合わせて細長い。そこには大きく目立つ文字で「指注意」と書かれていた。気味が悪いので足で蓋を跳ね上げる。なかなか尿がでてこない。背筋に冷たいものがはしる。便器の中央は黒く深い、このまま吸い込まれてしまいそうになる。個室が異空間になり、便器に襲われているようだ。頭の中がテレビの砂嵐のようにまとまらない。右側を見ると「健康な男の子を産むということ」という文章が書かれていた。
やっと、用を済ませて出てくると、窓際の女が立ち去りながら「赤お願いね」と言った。
僕はよく分からずに自分の席に戻ってからまた店員の方に歩いて行った。すると店員は僕の両手の手首を正面から強く握ってきた。
「いかがでしたか、赤は」
いったいどこにそんなに自信があるのか、笑うとも怒るともいえない顔で僕を見つめてくる。
「あ、赤ですか」
僕は赤の恐怖がよみがえり口ごもってしまう。この女は知っているのだ。赤が何なのかも、さっき僕に何があったかも。