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七王国 ネタ帳  作者: 日下部 鈴
1/1

勘違いな男

七王国、という世界のお話のおまけのおまけ。


「トマシーナ!お前との婚約は破棄させてもらう」

壇上の湖の国の名前だけの王子が叫んだ。

トマシーナは首を傾げた。

「はて?

 あの」

一応、らしくないが遠慮がちに聞いてみる。

「何だ」

「私、婚約した覚えがありませんよ?」

「そんな事はない!大体、ここでは理由を聞くべきだろう?!」

(いや、だから。

婚約なんか知らないし。)

目が…点どころか空中を彷徨ってしまっている。

そこへ続ける王子。

「キリアへの嫌がらせ、聞き及んでいる」

(だから、それは誰だよ!)

トマシーナは頭を抱えた。

アルフレッドが肩に手を置く。

トマシーナはアルフレッドの方を見た。

唇に人差し指を当て、首を振った。

酔いしれている王子をそのままにしろ、と言う事らしい。

(面倒くさいんだけど?!

理由?!何の?)

「お前と婚約を解消し、慰謝料としてお前の会社を貰ってやろう」

「会社、とは?」

「もちろん、レッドフォードの事だ」

「へ?」

(いや、もう、突っ込みどころ在りすぎて)

「レッドフォードは株式会社で私の持ち物ではありませんよ」

「お前、会長だろう?」

「業務上の肩書です」

(面倒くさい面倒ああ面倒。イライラして来た)

アルフレッドの手に力が入る。

(解ってるって!信用、ないなぁ)

「私の会社は「リーアンドアッシュ事務所」だけですよ」

「では、それを寄こせ」

「私の名義分だけだと半分ですが、どうされますか?」

「半分?」

「半分は他人、リー・ウェイクウッドの持ち物です。

買い取られますか?」

「…仕方ない。買い取ってやる」

(そんな金、あるんかい!)

内心、突っ込みつつ、

「わかりました。

手続きはそちらでやってください。

社員達には伝えましょう。

彼らの選択は尊重してくださいね」

「わかっている」

王子は不貞腐れて答えた。

(解ってないし)

会場にいた、ほとんどの人間が思ったに違いない。

壇上の二人以外は。

「それでは失礼いたします」

礼をして、踵を返す。

アルフレッドとカイが後に続く。

外に出ると、トマシーナは笑い出した。

「何?あの茶番」

「まだ、笑ったら」

アルフレッドは周りを伺った。

カイは両手を挙げた。

「手続きは見届けるよ」

涙を拭きながら、トマシーナは言った。

「買取は半分でよろしくね」

「鬼だな」

「神でしょ」

今、王家には金がない。

おバカな王子が湯水のように金を愛人に使ったからだ。

元々、湖の国の王家は清貧だった。

立憲君主制から、大統領制に移行して以降、王家は没落していった。

女王が王位に就かなくなったからなのだか、簒奪者の末裔は気づかない。

今、女王の末裔であり、女神との契約者はトマシーナなのだから。

本人の資質もさることながら、軍人の叔父のおかげで、トマシーナに害をなそうとするものは一掃されている。

彼女に牙を向こうという者はそうそういない。…いるとしたらかなりの命知らずだ。

「王位も貰おうか?」

アルフレッドが茶目っ気たっぷりでトマシーナに微笑んだ。

「いらない」

即答。

「お金にならないもの」

アルフレッドはカイに目配せをする。

カイは首を竦めた。

「後は何とかするよ」


リーアンドアッシュ事務所の中では内容を聞いた社員たちが大笑いしていた。

「社員は会社の物じゃないのに」

「王子が経営出来るの?」

「いや、それよりも!誰かここに残る~?」

そこにいる皆が首を振った。

「んじゃ、一応退職届、出してね~」

リーは明るく伝えた。


王子は手続きのために、リーアンドアッシュ事務所にやって来た。

事務所はとあるホテルの、最上階は社あり社長であるリーやトマシーナの個人住宅になっている。

最上階も自分の物になる、と王子は思っていた。

「ようこそいらっしゃいました」

にこやかにリーが社長室で対応した。

「社内はご覧いただけまして?」

「社員が誰もいなかった…」

王子は不機嫌そうに言った。

「社長が交代する、と聞いた社員から退職を希望されまして。

外回りに出ている者もいますけれど」

「社員に慕われているのだな」

「ええ。そうみたいですわ」

にっこりとリーは嬉しそうに笑った。

「書類はこちらだ。確認してくれ」

王子は書類をリーに渡した。

「確かに」

リーは書類を確認して、サインをした。

「最上階は個人の持ち物ですので、エレベーターを一基は直通にします。会社として使えるのは二基のみになります。

ホテルとの賃貸契約はそちらで行ってください。契約期間は年末までありますけれど、ホテル側がどう考えているかはこちらではわかりませんから」

「最上階は会社の物ではないのか?」

「固定資産自体は最初に入っていた古いビルのみですの。

そちらはトマシーナが買い取ってもいいと言ってましたわ。

それが何か?」

リーはにこにこと応対する。

「会社とは建物ごとを言うのではないのか」

王子は不機嫌を隠さない。

「さぁ?

建物や土地は固定資産税がかかりますから勿体ないでしょう?

最上階が必要でしたら、レンタルいたしますよ。

賃貸契約は別途になりますが」

にこにこ。

リーの強みはこの「にこにこ」。

笑いながら人も殺せる、とトマシーナは思っている。

が、トマシーナやカイ・アルフレッドだって周りからそう思われている。

尤も、笑顔を安売りしたりはしないが。

「土地・建物付きでしたら、額面の桁が一つ二つ違いますよ。

立地的にはリゾート地域ですからねぇ」

王子の顔が引きつる。

「会社が欲しい、とのことでしたので資本金と会社としての資産価値のみでお譲り致しますけれど、株はどうされますか?契約とは別になりますけれど」

にこにこ。

「あ、事業税の納付は来月ですけど、払えますか?

預金口座の金額では足りないんですよ。退職金などもありますし。」

にこにこ。

王子は顔面蒼白になっていた。

「会社ってお金が掛かるんですよねぇ~。

私やトマシーナは銀行に伝手があるのでよいのですが、そちらはいかがでしょう」

にこにこ。

王子は書類を引ったくり、細かく破り捨てた。

「もういい!こんな会社はいらん!!」

「あらぁ。でも、契約解除の場合は損害賠償請求すると契約書に書いてありますけれど」

リーは手元の1枚を見せた。

「こちらは私の物ですが、弁護士やトマシーナにもそれぞれ渡してあるはずですよ?」

にこにこ。

「支払いは分割でもよろしいですが、ちゃんと支払って下さいね。

裁判になった場合、そちらが不利になりますよ。

だって」

リーは破れた書類を見つめる。

「契約を反故にしたのはそちらですから」

にこにこ。

王子は破れた書類をつかみ、逃げるように去っていった。


「つまんなぁ~い。

もっと楽しめると思っていたのに」

リーはやれやれ、とため息をついて電話を手にしたのだった。


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