8 2日目
今日食堂で昼食を食べるのは、僕、ノーラ、ソラ、そしてライト。ライトという人にはまだ会ったことがない。
僕とノーラで盛り付けとかの準備をしていると、ガタガタと音が聞こえた。多分、ソラが机や椅子の準備をしてくれてる音だと思う。
「そういえば、なんで食事の後机とかをしまうの?そのままにしておかないの?」
「言ってなかったかしら?この部屋には人がいなくなったら自動で掃除してくれる魔法がかかっているのよ。だけど、いつも配置が元通りになってしまうのよ」
「じゃあ、みんな食べる時間がバラバラなのに、来たら片付いているのは…」
「掃除が終わったから、なのよ。それと、木のボードに名前を書いた人がまだ来てなかったら、食堂に誰もいなくても掃除されないのよ。書き忘れてしまったら他の人がいる時に来るといいわ」
「書き忘れても、食べていいの?」
「もちろん。それに、冷蔵庫に“食べないで”と付箋が貼ってあるもの以外ならいつでも食べてもいいのよ。あ、健康とかを考えるならあまり食べすぎない方がいいし、夜遅くはあまりオススメしないかしら」
そう言ってにっこりと笑ってくれたノーラにお礼を言うと、盛り付け終わった皿を持ってキッチンを出た。
僕たちと目が合ってソラが手を振った。それから、皿を運ぶのを手伝ってくれた。
「ありがとう、ソラ」
「どういたしまして。重たかったら言えよ」
お皿を全て運び終わると、僕達はトレーを手に取り各々食べたいものを取り始めた。
僕は、スクランブルエッグとサラダ、ご飯、そしてノーラの作った唐揚げを取って席に座る。スクランブルエッグはふわふわで、サラダも野菜が美味しかった。唐揚げというものを僕は食べたことがなかったんだけど、ジュワッとしてカリカリで美味しい。
ソラは僕が作ったカレーライスとポテトサラダ、唐揚げ、卵焼きを取って食べていた。美味しかった、と褒めてくれてすごく嬉しくなる。
ノーラはパンを焼くのとデザートを作ってしまいたいから、と言ってキッチンに入っていった。トレーにはご飯とハムカツ、ソーセージ、そしてスクランブルエッグを載せていた。
僕は今日の朝よりも、少し挑戦して多めにトレーに載せた。早く体力つけたいからその前に体重を増やさないと、と思ったけどすぐにお腹がいっぱいになってしまう。
昨日の夜、今日の朝、そして今日の昼。こんなにも立て続けに食べられることが久しぶりすぎて、胃や腸がびっくりしている。
「栄養とかそういうのはあまり俺詳しくないから、専門的なことは分からなくて…あ、でも、急に食事量を増やすのは止めるべきなんじゃないか?」
「うん、分かった!相談に乗ってくれてありがとう」
「俺でよければいつでも聞くよ」
食べ終わり僕はトレーとお皿を全自動食洗機という機械に入れる。栄養とかについて書いてある本を読もう、と考えて図書室に向かった。
朝、ノーラに図書室までの道のりを聞いたから大丈夫だ。
(そういえば、昼食を食べに来るのはもう一人居たはずだけど…時間が合わなかったな)
確か、ライトという人だったと思う。まだ僕は会ってない。この学園にいればいつか会えるかな、と思う。
どんな人なのか不安と、少しの期待。
「……あれ?」
図書室の場所に辿り着いたけど、改装中立ち入り禁止、と張り紙があった。ドアノブは回らない。
ノーラは、ここで手紙を書いていたのだと、そう聞いていたのに。
改装中だから自分の部屋で書いたのだろうか。昼食を作っている時に、ノーラはなんと言っていたっけ?
──昼食の後は、自分の部屋にいるわ。手紙?もう書き終わったわよ。
──図書室は静かだから、手紙を書くのにはうってつけなの。さっきまで図書室にいたわ。
……………あれ?
そういえば、一番最初の僕がここに来たばかりで階段から下の方を見た時、その時にも、確か張り紙はあった気がする。白色の四角。
それなら、ノーラの言う図書室はどこだ?そもそも図書室に行ったのだろうか?嘘をついているとしても、こんな嘘をつく理由やメリットが分からない。
パクパク、と口を開閉していたけど、僕は自分の中で結論を導き出した。気のせいだ。考えるな。疑うな。
きっと昨日見た張り紙というのが間違いだったんだ。ノーラと昼食を作っている間に、誰かが改装を始めた。ノーラはそれを知らなかっただけ。そうに違いない。
「クリストファーくん」
ばっ、と振り返ると、白色の髪が目に映った。その次に真っ赤な目。
「…えっと、リズ、だっけ?」
「そうだよ」
ふわりと髪を浮かべながら僕の方に近づいてくる。
朝食をたくさん食べていた人だ。それと、すごいハイテンションだった人。ずっとニコニコしてて、明るい人だなという印象だった。けど……
「どうしたの?そこ、立ち入り禁止だよ」
「あ、改装中なのを、知らなくて…」
「そっか。入っちゃダメだよ」
「う、うん、もちろん……」
朝のハイテンションが嘘みたいに、冷たい雰囲気を纏っていて、うろたえてしまう。
食べてる時だけ気分が上がるとか、そういうことだろうか。それとも図書室に入られるのが嫌なのか。
「…あ、僕、そっ外いくから」
「うん、バイバイ」
その場から逃げ出すように、僕は慌てて階段の方へと歩き出す。その間も、リズはずっと僕の方を見ていた。
なんなんだ。なんだって言うんだ。───考えるな。そんなこと、疑問に思うな。
平穏に過ごしたいから、ここの人達はみんな優しいから、それをわざわざ崩す必要なんてない。
「───そっか。クリストファーくんはまだ、立ち入り禁止なんだね」
ぽつりと呟かれたリズの声が響くのを、僕は聞こえないふりをして、目を伏せた。