3 始まり
「先にこの制服…いや、つなぎの方が良いかしら?着替えてきたらどうでしょう?それとも部屋を先に決めましょうか?」
「…えっと、先に着替えたいかな」
「それじゃあ〜、こっちに来てね。学校の生徒に服とか作るのが好きな人がいるから、好きなやつ持って行っていいんだよ〜」
「服を?」
「ええ。身長は…リズと同じくらいかしら?少しサイズが大きいと感じるかもしれないわね」
ノーラとベンに案内されて、僕は学園の中へと入った。履き潰した靴を棚に入れて、来客用スリッパに履き替える。
入口から少し進むと、階段がある。その階段で2階へと上がり、そこには食堂が広がっている。食堂を通ると、その先はホテルみたいに扉がずらっと並ぶ廊下に出て、扉に掛けられたネームプレートで誰がそこにいるか分かるようになっていた。
廊下にそって歩いていき、物置部屋と書かれたドアを開ける。すると…そこには、オレンジ色の寝癖が酷い髪に、切れ長の赤目の男性と、紫の髪を腰まで伸ばした、切れ長の緑色の目をした女性がいた。
多分18歳とか19歳とか…かな?
同い年ぐらいのノーラとベンと会った時とは違った驚きが心に突き刺さる。同い年は、お姉ちゃんがいたけれどこの二人の歳ぐらいの人とは本当に会ったことすらない。
「あれ〜?珍しいね、ケビン、エレノア」
「なんだか会うのは久しぶりな感じだね?ん?…新入りくんだね、名前は?俺はケビン・トンプソン。よろしくね」
「俺はエレノア。今日来たばっかか?よろしくな。」
「僕は、クリストファーです。よ、よろしくお願いします。今日来たばかりです」
「ああ、敬語は使わなくっても構わない。服見に来たんだろ?俺はこういうのには疎いから…ケビンに聞いてくれ」
「俺は服とか靴とか機械とかをね、作るのが趣味なんだよ。何が必要?まずは服と〜、あと靴とかも欲しい?ここに無いものなら2日くれれば何でも作るよ」
「えっ…!…あ、でも僕お支払い出来ないから、だから…」
「クリストファー、ケビンは自分の作ったものを誰かが使っているのを見るのが好きだから、貰っていいのよ。そんなことここでは気にしなくていいかしら」
「そうだよ〜。僕なんてほんとに無一文だけどね、でもここではお金が無くたって生きていける」
「そうそう!気にしないでいいんだよ。俺が好きでやってる事だからね。…この服とかどう?サイズは多分ピッタリだけど、一応着てみてくれる?」
「あ…あ、ありがとうございます」
「あなたって本当にありがとうばかりね?聞いてて嬉しくなる言葉かしら。もっと言いまくるといいのよ、ここにいる人たちはみんな喜ぶから」
にっこりと笑う、ノーラ、ベン、ケビン、エレノア。
これって…あれかな。友達ってやつかな。そう思っていいのかな?一日でこんなに話したのも久しぶりだし、なんだか嬉しい。
ケビンに手渡された制服を持って、カーテンで仕切られた物置部屋の奥へ行き、着替える。
ピシッとしていて清潔だ。こんな服、何年ぶりだろう?
サイズはピッタリだった。置かれた鏡に身体を映す。
うすい緑色をベースにした制服で、ズボンは動きやすさを重視したものになっている。すごく軽くて、でもちゃんと作り込まれていて寒さを感じない。
鏡を通して、僕は自分の目の色を見る。『灰色に近い黒目』に、お姉ちゃんと同じ栗色の髪。ぺたりと鏡を触ってみて、僕は鏡を凝視する。
…なんだろ、なんか…今、一瞬、知らない人の顔が、僕と同じ目の色の顔が、見えた気がした。
「おお!いい感じだな、似合ってるぞ」
「うんうん、やっぱり君には緑色が似合うと思ったんだよ。クリストファー、ちょっとこっち来てね。二人の秘密の話だから3人は聞いちゃダメだよ?…下着もあるけど、必要だよね?」
「あ…い、いります。欲しいです…」
女性が二人いることを気遣ってくれたのか、手招きで呼び寄せられてごにょごにょと伝えられる。
服はまだ2ヶ月前に水で洗ったものだけど、下着はもうずっと洗ってない。1セットしか持ってないから、洗濯すると夜は寒すぎて凍えてしまう。だから夏しか洗うことは出来なかった。
「エレノア、ノーラ、今から俺たちで風呂まで案内するから任せてくれる?」
「ええ、構いませんわよ。夕食の時に食堂で会いましょう」
「行ってらっしゃい」
優しく微笑んでくれた二人に見送られて、僕らは再び歩き出す。多分…分かっているのに、それでも知らないフリしてくれたんだ。
僕の髪は汚れと油でぐしゃぐしゃ、服もボロボロ。当然、下着も同じような状態で、全身からみすぼらしさが溢れまくっているはずだ。
お姉ちゃんとは違った優しさで、でも、すごく嬉しかった。