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2 始まり

 無言のままの僕が案内されたのは、お世辞にも綺麗とは言えない学校。いつの間にか隣にいたはずのロボットはいなくなっていた。

 何をすればいいんだろうか。僕には、さっぱり分からなかった。とりあえず門をくぐり敷地内に入ると、ぱちりと二人の人物と目が合った。

 びくりと、肩に力が入る。


「…あれ〜?新しい人?」


「…はいっ。そうです!」


「はじめましてかしら。お名前は?」


「クリストファー、…あ、…クリストファーです」


 クリストファー・デイビスと、そう名乗りそうになったのを慌てて堪える。デイビスはもう僕の名前じゃないんだ。慣れなくては。

 お姉ちゃんとの唯一の繋がりが、ぷつりと切れてしまって闇に落とされるような感じがする。怖い。怖いよお姉ちゃん。

 今まで、僕は使用人とお姉ちゃんとしか話してこなかった。知らない人たちばっかりで、怖い。


「わたくしはノーラ・アトラー・ロード。ノーラでいいのよ」


「ぼくはベン。ベン・カートウィル。」


「よ、よろしくお願いします…」


「ええ、よろしくなのよ。…それで、はじめましてで申し訳ないのですけれど、少し手伝ってもらえないかしら?」


「ここまで、登ってこれる〜?昨日の風で屋根が壊れちゃったんだよ〜」


 差し出された小さな手に驚いて、僕は二人の顔を見た。

 ノーラと、そう名乗った人はくるくるとした赤髪は燃える火のようで、目はキラキラと輝いている金色。作業中だからか、二人とも紺色のつなぎを着ている。

 ベンと名乗った人はふわふわの緑髪に、薄緑の目。髪の中からひょっこりと犬耳が見える。優しそうな感じだ。

 二人とも学園の隣にある小屋の屋根に登っていて、ベンは僕の方に手を伸ばしている。太陽が後ろにあるからか、あまりにも眩しく見えてしまった。


 ここは本当に獣医学校なのかな?二人とも楽しそうだ。僕のこの目を見て、それでも手を伸ばしてくれるなんて。

 なんだか涙が出そうになって驚いた。


「あ、ありがとう」


「?…手伝ってもらうのだから、わたくしが礼を言うほうじゃないのかしら?」


「そっそうなんだけど、手、伸ばしてくれて…」


「落ちたら危ないからね〜。そうそう、そのレンガの飛び出してるところに足を置いて…そこでジャンプ!」


 足に力を入れて、屋根へと飛び乗ろうとしたけど、思ったよりも高くジャンプが出来なかった。お姉ちゃんなら、足に魔力を纏わせていくらでも高く飛べるのに。



「手、ちゃんと掴むかしら。ベンが引っ張りあげるから」


「え、…わあああっ」


 ノーラに言われて、反射的にベンの手を握るとふわっと引き上げられた。重力が無くなったようなそんな感じ。

 手に圧力が掛かったはずなのに、全然そんなの感じなくて、体のどこも痛くない。

 一つ分かったのは。僕がジャンブして届かなくても、引っ張りあげてくれた。僕に軽蔑した目を向けなかった。

 思ったよりも、随分と違っている。ここにいられるのって、もしかして、思ってたほど悪くないの?何故か家よりも息ができてる。


 登った屋根には、大きな穴が空いていた。木の柱?みたいなのがむき出しになってしまっていて、雨が降ったら直接小屋の中に水が入ってしまいそうだ。


「これ、直せるの?」


「修理の人に頼むお金はないからね〜。それに、ここ使ってるのはぼく達だから」


「でも、何から始めたらいいのかさっぱり分からないのよ。クリストファー、何かいい案あるかしら?」


「えっと…ご、ごめん…分からない」


「僕らもだよ〜どうしよう、お手上げだね〜…あれ?クリストファー…その服、どうしたの?転んじゃった?」


「こ、転んでないよ。あ、でも…多分2か月ちょいぐらい着てる…かな」


 二人の顔をちゃんと直視できないまま、さあっと顔から血が引いていく。二人の着るつなぎは清潔そうだ。

 それに比べて僕の服は。服なんて一枚しか持ってないし、今は三月で洗うことも出来なくて、ボロボロだ。


「え、もしかして…今さっき、着たばかりなのかしら!?」


「う、うん…」


「ごめん、クリストファー!ぼくたち、てっきり君が一週間前ぐらいに来てたのかな?って思っちゃって。そういうことなら小屋の修理は後回しにしよう〜?」


「そ、そんな悪いよ…!あ、でも服嫌だよね…」


「学校に自由に貰っていい服があるのよ。その服を着ればいいかしら。その服が好きなら洗濯の後に着ればいいのよ」


「部屋にも案内しなきゃね〜」


 てっきり引かれると思っていたのに、返ってきたのは謝罪と変わらない態度。僕はぽかんとしてしまった。

 とんっ、と割と高い小屋の屋根から飛び降りたベン。ノーラも躊躇うことなく屋根からジャンプして、無事に着地できていた。

 僕は慌てて、さっきのレンガを足場にして降りる。時間がかかってしまった僕のことを、ノーラとベンはちゃんと待っていてくれた。


「ありがとう…」


「?まだ何もしてないよ〜?」


「あ…ま、待っていてくれて、ありがとう」


「これぐらい普通かしら。ほら、行くのよ」


「…うん!」


 僕の前を歩く、緑色の髪をふわふわと風任せにしているベンと、いくら風が吹いても崩れないくるくる髪のノーラ。

 屋根から下りると、僕の身長が1番低いことが分かった。お姉ちゃんと同じ身長だったから分からなかったけど、どうやら僕の身長は低かったらしい。

 そんなことを落ち着いて考えられた自分に驚いた。肩の力は、いつの間にか抜けていた。

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