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10歳だったあの頃の自分へ  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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15 フレワルキア歴57年3月25日

「はじめまして、僕はナイト!よろしくね」


「はじめまして………わたしは……ライト」


「は、はじめまして…!僕はクリストファー、です」


 朝起きて食堂に行くと、ナイトライト兄妹とクリストファーがお互いに挨拶を交わしていた。初対面でどのくらいの強さかを聞かなかったあたり、2人も成長したなあと感慨深くなってしまう。


「ソラ、おはよう〜」


「ああ、おはよう、ベン」


「なんかね〜、森の方がザワザワしてる。ここ数日話してきたんだけど〜、みんなもよく分からないって〜……なんか、嫌なことが起きそう。気をつけてね〜」


「………ああ、分かった」


 クロワッサンを食べ終わったベンは、立ち上がるとすでに朝食を食べ終わっていたノーラの方へと駆けて行った。

 クリストファーのほうは、ぎこちなさがありつつも話が弾んでいるらしい。



 どうしても、あんな夢を見たせいか気分の落ち込みのままに、嫌な方向へと思考が進む。


 アースさんとアリアさん、ここではたった2人の大人、一応先生という立場の2人はしばらく姿を見ていない。

 ベンが言っていた森の方のざわめき。

 何より、街であの勇者が言っていた『大規模な抗争』。


 嫌な予感がする。この平和な場所で、安寧の地で何も起きませんようにと俺は祈ることしかできない。

 ここが最後の場所だ。ここが平和でなくなったら、俺らみたいないらない子を受け入れる場所がなくなったら───。



「クリストファー、まだ学園のことをあまり知らないだろう?案内してあげるよ、学園の敷地内でまず見ると行ったらやはりあそこ」


「そう………わたしたちに………任せて」


 立ち上がった音と共に聞こえてきた内容に、反射的に口を挟んでいた。


「こら、ナイトとライト。訓練場の方へ誘導しようとしてるだろ」


「えっ…??訓練場?」


「いやあそんな、別に僕らはちょっと手合わせして欲しいなぐらいにしか思ってないよ、ね?」


「そうそう………どれくらい強いのか見たいだけだから………」


「て、手合わせ……強さ……!?ぼ、僕そういうの、お姉ちゃんにちょっとしか」


 不穏な言葉に顔を青ざめさせたクリストファーが、強く拒絶することも出来ずにふるふると小さく首を振っている。

 さすがに止めようと口を開こうとするが、ナイトにウインクされ止められた。


「僕たちに任せてくれるなら、君の奥底に眠る才能を……そうだね、自分の身を自分で守れるように、誰かの足を引っ張らないようになれるよ」


「そう………傷つけるためじゃない、守るため………」


「守るため………」


「わたしたちは……人一倍戦いについて……くわしい。だから………クリストファー、君も、強くなれる……!」


「………あ、お、お願いします!僕……強くなって、お姉ちゃんに心配かけないようになりたい……!」


「まかせて………!」


 ナイトとライトの言葉に乗せられて、クリストファーが大きく頭を下げる。クリストファーの手を取ってライトはにっこりと微笑みかけている。

 心配だと眺めていたのが分かったのか、ナイトの金色の目がじっと俺の事を見つめた。


「確かに僕たちは戦闘狂で、常に誰かと戦っていたい。けどねソラ、僕たちだって先輩なんだ。後輩たちの苦しむ姿ってあまり見たくないものなんだよ。僕たちは僕たちに出来るこの方法で頑張ってみる」


「…………ああ、そうか」


「もちろん、ソラもいつでも来ていいさ!歓迎するよ、強くなりたいならぜひ来るといい!」



 ───ようするに、みんなはもうとっくに進もうともがいているわけだ。


 俺だけが、何も見たくないと駄々をこねる子供のまま。


 ーーーーー


「浮かない顔してるねソラ」


「……リズ?こんなところで何してるんだ?」


「ここは絶好のお昼寝スポットだよ!」


 何も考えたくないという思いで、かといって部屋に閉じこもってもいられずに森の中を歩いていた。

 こんなところで何してるんだ、はそっくりそのまま俺へと突き刺さる。


 白髪を揺らして、すたっと木から降り立つ。

 赤眼に、目を背けたくなった。


「ソラ、明日の朝……いや昼かな、外の、できるだけ門の近くに……あくまでさりげなくね、いた方がいいと思う!」


「……いつもの加護が言ってるのか?」


「んー、いや違うね!正直私の加護にソラって含まれてないもん。ここの学園の人で含まれてるのってクリスくんだけだよ。うん、だからこれは別!全然違う方からのだよ!」


「まあ、明日は特にすることもないしいいけどな…」


「間違えないでね、ソラ。ソラが間違えてもまあ私たちはどうにかなるからそんなに心配せず───でもソラは苦しみたくないもんね」


「───さっぱり分からない」


「そうだね、それでいいよ」


 リズはへらっと笑うと、森の奥の方へと手を振って消えていった。



 リズは加護持ちだ。

 そしてその加護は、詳しいことは知らないがリズを護ろうと語りかけてくるらしい。

 この獣医学園に来る生徒というのは、俺もそうだが何らかの特殊な事情を抱えている。加護持ちは大陸として見ればあまりにも珍しい。けれど、ここでは加護持ちは珍しくなく、それが異常なのだ。


 ケビン、ノーラ、ベン───そして俺も、加護持ちだから。リズの言うことをそのまま受け取るなら、おそらくクリストファーも。



「明日の昼、校門前……」


 止まっている時間が動き出す何かが起こるのだろうか。それは嫌だ。俺は、ここが何も考えないで安寧でいられる場所であってほしい。ここを掻き回す何か、などいらない。山も谷もないような、平穏であって欲しい。


 だって苦しい。

 全てを抱えていくのは、苦しいのだから。


「やだな……」


 鳥のさえずりと木々がこすれる音だけが響いていた。

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