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10歳だったあの頃の自分へ  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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14 フレワルキア歴57年3月24日

「「おいしい…!」」


「うん、美味しいなこれ」


 苺とベリーの乗った、生クリームがかかっているほかほかのパンケーキを口に運ぶ。

 クリストファーはソフトクリームを乗せ、チョコのかかったパンケーキ、リズは散々迷ったあとにソフトクリームを乗せた紅茶味のパンケーキを選んでいた。


 器用にナイフとフォークを使いクリストファーは食べている。使い方を教えてくれる人でもいたのだろうか。───おそらく、度々クリストファーの話に上がる姉ではないだろうか。


 リズは来た時に比べてフォークの持ち方が改善された。とはいえ、ナイフで切るのはまだ難しいらしい。


 2人揃って目をキラキラと輝かせてパンケーキを食べていく。微笑ましい光景だ。

 ずっとこの平和が続いてほしいと思う。辛いのなんて、悲しいことなんて、学校前の過去だけで十分だ。


「ソラ、さっき一緒にいた人って誰だったの?デート相手の!」


「デートじゃない。あの人は……あー、リズとクリストファーを探すのを手伝ってくれたんだ。2人とももう勝手に走り出すなよ、心配だから」


「ごめんなさい……」


「クリスくんは悪くないよ、悪いのは引っ張ってった私だもんね!」


「リズも少しは反省してくれ。まあ……別に知り合いでもなんでもない。次見かけても話しかけるなよ、勇者だそうだ」


 勇者との接触は控えるべきだ。

 今回は非常事態だったし向こうからの接触だったからある意味仕方ないとはいえ、関わるべきではなかった。

 漆黒の勇者と名乗ったあの人には悪いけれども、このまま関わらず忘れてもらう。それが一番だ。そのはずだ。


「勇者……」


 何か思うところのあったらしいクリストファーが呟く。

 リズの赤い瞳が爛々と輝いて、じっと俺の事を見つめた。


「ソラ、その選択でいいの?ほんとうに?」


「………何の話だ?」


「んー………ソラ、間違えないでね。一番大切なところを。ソラに悲しんでほしくないんだ」


 へらりと笑ったリズは、クリストファーの方へと顔を向けて、ちょっとちょうだい!と言っている。

 ぼんやりとしていたクリストファーは、慌てたようにどうぞ!と皿をリズの方へと動かした。



 悲しんでほしくない、という目ではなかった。───間違えるな。そう強く訴える目だった。


 間違っている。

 そんなのは、ずっと前からそうで、ここに来る前、完全に全てが壊れた。心残りを燻らせて、全てを投げ出して、平和な生活へと身を投げる。そんなのは間違っている。知っている。今更、これ以上間違えるなど、どうやって。


 ーーー


 この後郵便局に寄って、クリストファーはプレゼントと手紙を姉へと送り出した。


「えっと、今日はここまで連れてきてくれて、ありがとう」


「ああ、どういたしまして」


「また来よ!クリスくん!」


「2人だけだと危ないから、もう少し大人になってからか誰かについてきてもらえよ」


「はーい!」


 買い込んだ食料を抱えて、顔を寄せあって楽しかったねと言い合ってる2人を後ろから眺めながら、転移門をくぐった。


 もう既に空は黒色で、ぴかぴかと光る黄色の紐を辿って学園へと戻る。

 屋台で食べた焼き鳥は美味しく、思ったよりも腹に溜まったので学園での夜ご飯はパスすることにした。




 ゆったりとお風呂に入って、自分の部屋へと戻ろうとしたところ呼び止められる。



「………ね、新しく入った子って、強い?」


「やあソラ!僕達まだ会ってないんだよね、どんな人かい?強い?」


「強いかどうかは知らない。来たばっかりだからそれ言ったらダメだからな。言うならちゃんと友達になってからな」


 呼び止めてきた2人、ライトとナイトは、どうやらまだクリストファーには会っていないらしい。

 パンケーキを見て輝かせていたあの4つの瞳と全く同じような煌めきの瞳で言うものだから、タチが悪い。


 まあ反抗期……よりもさらにやばかった時期は過ぎ去り、今では懐いてくれている……と言っていいのだろうか。


 確かに戦闘狂ではあるものの、頼りになる可愛い後輩たちだ。クリストファーとも仲良く出来るのなら嬉しい。俺は、この学園のみんなが大切だから。


「そういえば、最近アースいないんだ。何か知ってるかい、ソラ?」


「アースさんが?……そういえばアリアさんも見かけないな」


「………2人の、先生がいないのは………謎………侵入調査して……謎の組織との……戦い……!」


「妹の妄想は無視して大丈夫。2人ともそんなに外出する方ではないだろう?だから少し心配で……森で倒れてひもじい思いでもしていたらどうしよう、クマが現れて悲惨なことにでもなっていたら、でも案外蜂蜜とかくれるかもしれないね」


「ナイトもライトとどっこいどっこいだぞ」


「褒めていると受け取るよ」


「受け取るな」


 じゃあおやすみ、と手を振って俺は部屋へと戻った。

 歯磨きをして、ベッドへと倒れ込む。部屋の外からは食堂からだろうか、微かに喋り声と笑い声が聞こえる。


 今日は疲れた。

 もう眠ってしまおうと目を瞑るが、なかなか睡眠へと落ちていかない。暗い天井を眺めながら、ぼんやりと遠くの声に耳を傾ける。しだいに瞼が落ちて……



 ーーー


 ───夢はあまり見ない方だ。

 目の前にいる人影は、夢なのか記憶なのか。呆然と眺めていたつもりが、歩き出した足によって夢だと分かった。


『…………ごめん』


 黒色。赤色。夜空。


『……………助けて』


 縄の茶色。吐瀉物。黒色。


『ね、いっしょ』


 綺麗な黒色。青色。



 ───俺が見捨てた、俺が逃げ出した、俺の全てだった人。



『違う、見捨てたんじゃない、俺は……』


『今まで助けてきたのに』




 ひゅっ、と鳴った喉からの音で目が反射的に開いた。

 そんな恨み言を言う人では無い。けれど、きっとそれがその人の本心に違いない。俺は、今まで助けられてきながら、逃げ出した。恨まれている。そうでないとならない。

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