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10歳だったあの頃の自分へ  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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13 フレワルキア歴57年3月24日

「騒がないでくれよ、っと!」


 片手で口を押さえつけられ、もう片方の手で小脇に抱えられ、裏道を縫って移動していく。


 まさか人攫いに捕まらないようにと迷子を探していたら、自分が攫われるとは。口を塞ぐ手が強い。怖さに思わずギュッと目を閉じたくなるが我慢する。

 あの二人は10歳で、自分は16歳なものだから攫われるとしたらあの二人だという先入観のせいかもしれない。油断してしまった。


 ───メガネでの緊急脱出には少しの時間差と魔力漏れがある。逆上させないために今は動かず、目線が離れた時にするべきだ。

 その後再びこの街に移動して、あの二人を探すことになる。……クソっ、本当に厄介なことになった。



「ごめんな、驚いただろ。人攫いじゃないから安心してほしい。あのまま進んでたら、大規模な抗争に巻き込まれそうだったから」


 とん、とん、と高速で景色が足音とともに遠ざかっていく。

 申し訳なさそうに眉を下げたような気配がしたが、気配がしただけだ。余裕が出てきてようやく見たそいつの顔は黒色の狐のお面で覆われていて、顔を見ることは出来ない。アースの布面とは違って、ただのお面───認識阻害がかかっていること以外は、表情を通すこともない普通のものだろう。


「違ったら悪いけど、もしかして人探しか?迷子になった連れでもいるのなら、手荒な真似したお詫びに探すのを手伝うぞ」


「………」


 ようやく口元に当てられていた手が離されて、空気が肺に入ってきた。心臓の拍動はまだ速いが、意識の方は落ち着いた。



 どう考えたって人攫いだと勘違いするしかない拉致方法だったが、どうやら違うらしい。命の危険は無いと考えても良さそうだ。


 そして、確かに1人でこの広大な街から小さな2人組を探し出すのはあまりにも困難だ。かといって俺を抱えているそいつを信頼できるかどうかと聞かれると、答えられない。

 善人だったとしてもだ。見つけた瞬間俺と同じように口を塞いで拉致のように連れて来るような真似をするなら、頼まない方が良いのではないか?リズのトラウマが蘇るのは看過できない。クリストファーも出会ったばかりすぎて、どこにどんな地雷があるのか分からない。



「いや、申し出はありがたいが……」


「人探ししてます感が出てるとタチの悪い連中らに目をつけられるぞ。ただでさえ今は治安が悪いんだから。うん、お前凄く心配だから、勝手に手助けする、それでいいな」


「は!?俺の意見は!?」


「危なっかしすぎるから放っておけない。あ、俺一応勇者だから安心してくれ。これ勇者のブローチ」


 勇者なんて余計嫌なんだが、とも言えずに抱えられたまま高い所へと登っていく。落ちたら死ぬレベル、いや魔法使えば死なないだろうけど何もしなかったら死ぬだろう高さだ。腰に回された他人の腕1本に命を懸けたくない。


「見た目は?視力強化できるから探せる」


「………どちらもメガネをかけていて、1人が茶髪に……黒目、もう1人が………白髪に、赤目だ。どちらも俺と同じ制服を着ている。というか、あの2人認識阻害のメガネをかけているから見つけられないだろうし、協力はありがたいがここまでで大丈夫」


「このメガネと一緒ってことだな?魔力探知には小さすぎるけど看破なら出来るから大丈夫だぞ!」


「人の話聞いてくれ……」


 人攫いでなかったのはすごく良かったものの、これはこれで面倒くさい人だ。正直言って遠慮したい。ずっと小脇に抱えられた状態なのも頭に血が上って最悪だ。


「あっ、この状態キツイよな?これでいいか!」


 いや、横抱きも嫌なんだが!?というか俺の持ち方なんてどうでもいいから、このヤバいやつに関わりたくない。離してほしい。


「見た感じいないな…よし、あっちに移動するぞ!」


「何でこんなことになってるんだ…」


 一歩譲って、抗争地帯に踏み込もうとした危なっかしさがあったことは認める。そこから回避させてくれたのも(方法は雑だが!)ありがたいと思う。

 けれどこれ以上はお節介がすぎる。よりにもよって勇者なことも最悪だ。俺の身近にいた勇者に勇者らしいやつがいなかったから知らないが、勇者ってこう人に遠慮せずグイグイ来るようなやつらなのか?


「白髪に赤眼は確かに心配だな…でも俺に任せておけば大丈夫だぞ!」


「俺ら初対面だよな?何でこんなにグイグイ来るんだよ…それとも出会った人全員にこんなことやってるのか?大変だな勇者って」


「え?いや……別に他の人相手にはやらないぞ?お前ぐらい危機感の無さと困ってる奴いないからな!」


「いや危機感ならあるし手を借りるほどじゃない!おい話聞けお前!」


 ーーー


「一通り回ってみたがいないな…これはヤバイかもな……あっ、いや、絶対見つけるから心配するな!泣くなよ!俺に任せて!」


「いや泣いてないからな?………ん?あ!」


「ソラー、そんなとこで何してるのーっ!!探したよー!!」


 ぶんぶんと手を振りこちらに笑いかけてくるリズと、申し訳なさそうな顔をしている(ちゃっかりプレゼントの箱はその手にある)クリストファーがいた。

 リズがクリストファーの腕を取り、ぴょんっと俺らがいる高さまで飛び乗ってきた。


「こら!離れるなって言ったろ!」


「ご、ごめんなさい…」


「ごめんごめん、てかソラは何してたの?デート?」


「デートじゃない!てかあれだけ俺らで探したのにリズの加護で一瞬か…」


「あっ、プレゼント買えたよ、お姉ちゃんにあげるの見つかってよかった」


「それはよかったな」


「ねえねえ私パンケーキ食べたい!あっちに店あるから行こ!」


「分かった、でもちょっと待っててな……あー、そういや名前聞いてなかったな。探すのを手伝ってくれてありがとう」


 リズとクリストファーがパンケーキの味を相談しているのを横目に、ここまで付き合ってくれた(無理やり俺を連れ回していたとも言える)そいつの方を向いた。


「いや、こちらこそというか!………探し人って見つかるんだな、って希望をくれたというか、その………まあお互い様でありがとうってことで!」


 黒い狐面の上から頬をかくのに意味はあるのか?と思ったが言わないでおいた。


「俺は漆黒の勇者だ!じゃ、またなー!」


 そいつは初対面もこちらが気づかないほど素早く拉致し、去る時も瞬きの間に消えてしまった。

 そして結局、名前を知ることは出来なかった。───まあ、そう危険なことに首を突っ込むつもりはない。再び会う時には俺の事を忘れているだろう。


「ソラ、いちご練乳も気になるんだけどマッチャも紅茶も捨て難くて、あとソフトクリーム乗せにしたい!どうしよ!」


「僕、ソフトクリーム乗せのチョコ掛けにする!」


「待たせてごめんな、どこにあるんだ?行こう」

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