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10歳だったあの頃の自分へ  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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12 フレワルキア歴57年3月24日

「えっと、クリストファー……デイビスで登録してある口座に、アクセスお願いします」


「手を置いてくださいね……はい、照合できました」


「カード作成、お願いします」


「了解しました。…………。カードをお受け取りください」


「ありがとう、ございました」


「今後ともどうぞご贔屓に」


 銀行にあるベンチで隣に座るリズは足をプラプラさせてクリストファーを待っている。カードの作成をし終えたクリストファーが、こちらへと駆け寄ってくる。


「待たせて、ごめんね」


「いいよー!さっ、次は雑貨屋だね!便箋探しに行こー!」


 雑貨屋へと向かう道中、リズが楽しそうにクリストファーに声をかけ、クリストファーも比較的楽しそうな顔で相槌を打っている。

 その2人を後ろに見ながら、俺は不思議に感じていた。



 クリストファーが銀行でカードを作ったのは何故だ?


 普通カードっていうのは安定的な収入がある場合か、残高がよほど多い場合に作るものだ。何故ならカードとは、本人のみが残高からいつでもどこにいようともお金が取り出せる、ということしか出来ないのだから。

 この国に生きる住民に貯金という概念はあまりない。日々生きるために使うと全て消えてしまうからだ。

 しかもカード作成にお金がかかる。残高が無くなれば用の無いカードになることを考えれば、作らない方が得だ。


 双子の姉が作ってくれた口座だというなら、安定的な収入は無いし、残高だってそれほど多くはないだろう。何故ならクリストファーは10歳で、その姉も10歳であるから、そんな子供に稼ぐ手段は無い。最高職の勇者であっても、10歳などほとんど稼げないと言っていい。



 てっきり、銀行へと預けられたお金をまるまる引き出すと思っていた。それほど多くは無いだろうと思っていたから。


 カードを作れと教えたであろう姉。莫大な残高。───なんか、恐ろしい闇が見えてきそうだ。痩せきって虐待されていたことも合わせて。



「クリスくんのお姉さんってどんな色が好きそう?」


「うーん……白?」


「それだと無地の手紙になっちゃうね、なら好きな物は?」


「ええっ………うーん……勉強と運動……は違うか……た、食べること……いや………うーん……」


「ならもう直感で選ぼ!」


「う、うん…!」


 ああでもないこうでもないと、クリストファーは便箋の前で悩んでいる。

 リズはクリストファーと話すのをやめて、近くの文房具を見ている。


「ソラー、このペン買ってもいい?」


「ああ、いいぞ」


「やった!」


 ガラスペンを買い、いそいそとカバンの中へと仕舞うリズの頬は緩んでいる。クリストファーも便箋が決まったのか、お会計待ちだ。

 ───なんかこうしていると、妹と弟が増えたような気分になるな。


「次はプレゼントだね!どんなものを買うの!?」


「えっとね、何か身につけるものプレゼントしたいって思ってて…今まで花しかあげられなかったから、形に残るものがいいなって思う」


「アクセサリー店だとかなりあるな…値段はどれくらいが目安だ?壊れにくさとデザイン性のどちらもを重視すると、かなり高いぞ」


「えっとね。名前がよく知られてるところのは嫌で……お姉ちゃん見飽きたって言ってたし……でも、壊れにくいのがいいかな」


「全然知られていなくて壊れにくいか……露店で良いものを探すか、それともギルドの方に行くべきか…?」


「ねえ、あっちらへんにありそう。行こ!」


 えっ、と戸惑うクリストファーの手を引いてリズが駆け出す。


 あまりにも一瞬だった。目の前から2人が消える。


 あたりは人混みで見当たらない。白髪と茶髪の後ろ姿は、背の低さのせいかあっという間に飲み込まれてしまった。



「離れるなってあれほど…!魔力探知は……いや、無理だ、人が多すぎて出来ない……!」



 頭ががんがんと鳴るのを押さえて、落ち着けと思いながらも思考が四方八方へと散らばって───青い空の───草を───黒色の目───床に落ちている────赤色。………今は出てこないで、願いながら大きく息を吸う。

 ようやく少し落ち着いたので、頭を回す。




 メガネを掛けていればもしもの時は学園まで飛ぶことが出来るが、反対に言えばメガネを何らかによってなくせば危険すぎるのだ。


 裏道を進めばスラムがある。10歳の子供たちが歩くにはあまりにも危険だ。

 ギルドで人探しを頼むのもリスクが大きすぎる。とくにリズだ。アルビノであるリズが人攫いにでも捕まればもう会えないだろう。能力が知られてしまえば、最悪───。




「虱潰しに探すしかない…!クソっ、俺がちゃんと見とけば…!」


 人混みから少し遠ざかった道に飛び出して、あたりを見渡しながら走る。

 心臓がバクバクと鳴り止まない。出てこないで。思い出させないで。一刻も早く、一刻も早く見つけなければ────。




 突然後ろから伸びてきた手に口を覆われ、そのまま後ろへと引っ張られる。


 喉が、ひゅっ、と音を立てた。

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