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10歳だったあの頃の自分へ  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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11 フレワルキア歴57年3月24日

クリストファーとソラのダブル主人公です。

10話ごとに視点が切り替わります。

「おはよう、クリストファー。」


「ソラ!おはよう!」


 帰ってきた返事に、一瞬たじろぐ。今までとの違和感に、俺は首をかしげた。手元にあるコーヒーを入れすぎたせいで少しこぼしそうになりながら席に戻る。クリストファーはトレーを机に置き、俺の前に座った。


「…なんか楽しいことでもあったのか?」


「え?えっとね…なんか、ふっきれて。よく覚えてないんだけど」


 俺の方を見る顔には、一昨日や昨日の影はなかった。チンッ、とトースターの音がしたのでクリストファーは皿を持って立ち上がり、ベーグルを持って席に戻った。


「そうなのか」



  ───突然だが、この国では底辺職である獣医という肩書きは、何かしらの欠陥がある人を指す。

 なんて酷い物言いだと思っていたが、実際にここに来る人はこの世のありとあらゆる絶望を混ぜ込んだような顔をしているから、あながち間違いではないのかもしれない。俺も例外では無い。


 俺やケビン、エレノアの最年長組はこの1年てんてこ舞いだった。

 この学校に入ってくるような問題を抱えた子供なんてそう何人もいたら困る。だが、今年10歳になり獣医学校に入学した子供は4人。リズ、ノーラ、ベン、クリストファー。


 ケビン、エレノアの二人が初の生徒となり、その次に俺が来て、またその次にナイトとライト。

 ここに来る生徒は、だいたい心が病んでるか怪我してるか死にかけか…俺が来た時もケビンとエレノアは大変だったと聞いた。申し訳ないのと感謝でいっぱいだが、とりあえず俺の話は置いておく。

 ナイトとライトが来た時には、俺はほとほと困った。後輩なんて出来たのは初めてだったのと、年下と接した経験が妹のみだったから。しかも、二人は異世界人の末裔で絶賛反抗期。

 あれを反抗期なんて可愛い言葉で言っていいのか俺は決めあぐねてるが…まあこの話もまた別の機会に。


 それから1年後は誰も来ず、しかしさらに1年後には怒涛の新入生ラッシュだ。

 リズの問題が解決する前にベンが来て、さらにノーラも続けざまに来て、ようやく落ち着きあと数年は誰も来ないだろうと思ってたらクリストファーが来た。


 今年の10歳たちは全員重い事情を持っていた。

 一番最後の少年。しかも、灰色に近い黒目なんて爆弾付きで、見た目は完全に虐待児。10歳組の問題は解決したとはいえ時間もそんなに経っていなく、誰がいつ爆発してもおかしくない状況。


 どうなるかヒヤヒヤしていたものだが…自分で解決できたのか?───そんなことが、有り得るのか?


「あの、今日…もしよければなんだけど、街に行く方法、教えてくれないかな…?あ、む、無理だったらいいんだけど…」


「え、あ、ああもちろん…ちょうど行こうと思ってたところだから気にしなくていい」


「ほんと!?あ、じゃあ急いで食べるね…!」


「俺も今食べ始めたばかりだから急がなくていい。今7時だから…8時ぐらいに玄関前集合で大丈夫か?」


「うん!」


 にこにこと笑う顔には、やはり昨日までのどこか怯えた色は見られない。

 それはそれとして、街に行きたいと自分から行動することを決められるなんて凄いことだ。

 食パンに、森で採れたイチゴのジャムを塗る。サクリと音を立てながら食べていく。イチゴの季節は4月から6月なのに、3月でも食べられるのは神獣のおかげだ。前はわざわざ街に行かないと食べられなかった。



「あ、そういやエレノアから歯ブラシを預かってる。用事があるから手渡し出来ずすまないと言っていた」


 朝食中に渡すのはおかしいだろうか、でも出かける準備をする時にあったほうがいいんじゃないか、と悩みつつ歯ブラシと歯磨き粉を手渡すと、嬉しそうに笑ったのでほっとした。


 ーーーーー


「ソラ、誰か待ってるの!?」


「ああ。クリストファーと街に行く約束をしてな」


「私も行きたい!」


 木々を飛び移りながら目の前に着地したリズは、そう言って笑顔で挙手をした。


「リズが?」


「珍しいって思ったでしょ〜」


「まあ、そうだな……」


 ここに来てから約1年。リズが今まで街に出かけたのはたった1回だ。クリストファーとリズ。2人が同時に変わったのは、偶然なのだろうか。


「ソラ、ごめんね、遅くなって……あれ?リズ?」


「うん!クリストファーくん、私も参加していい!?」


「えっ、もちろん、僕はいいんだけど、ソラに聞いてから…」


「俺もいいぞ」


「やったー!」


 飛び跳ねているリズと、困惑顔で嬉しい感じと少し悩む感じのクリストファー。ここの二人の関係性がいまいち良く分からないが、とりあえず出発することにした。



 門を出てからは緩やかな下り坂になっている。舗装されていない道にはゴロゴロと石が転がっているが、ケビンが作ってくれた靴のおかげで尖っているものを踏んでも痛くない。


「このままおりてくの?」


「いや、それだと数時間かかるぞ」


 街からここまでかなり遠い。そもそもここに来る人なんてこの学園に所属する人だけだから、道が舗装されるのなんて何十年先か、ましてや定期的な馬車の通行開始なんか待っていたら寿命が来る。


「あそこに黄色の紐が結んである木があるだろ?あれが目印だ。夜は光るようになってる。そこから、同じように黄色の紐の木を辿っていくと…」


「わあ…!」


 ケビン主導で造ったツリーハウスが見えた。

 目をキラキラさせてクリストファーはツリーハウスを眺めている。いつの間にか先に行っていたらしいリズはツリーハウスの中から手を振っている。


「あれの中に転移門があって、街に繋がっている」


「転移門って、ちょっと値段高めじゃなかったっけ……?」


「正規の値段での購入だとちょっとどころじゃない値段の高さだな。ここの転移門は壊れたやつをケビンが治したんだ。それでも結構高い買い物だ」


「そうなんだ…」


 リズとベンが学園に来た時は、貨幣という概念を知らなかったが、クリストファーは知っているらしい。いや…少しズレている気もするな。


「街でのお金は俺が出すから、心配するなよ」


「や、えっとね、僕のお姉ちゃんが、僕のために銀行口座作ってくれてて…家からここまで一瞬だったから、引き出せなくて、今はお金ないんだけど…歯ブラシのお金払わなきゃだし、あと街でのお金も、あるよ」


「……そうなんだな」


 色々と話しているうちにツリーハウスへの階段を登り終えた。


「準備出来てるよー!」


 メガネをかけたリズが、同じメガネを二つ差し出してきた。

 不思議そうな顔をしているクリストファーにこのメガネについて説明した。このメガネは認識阻害のためのものであり、もしものために身につけるようにしてあること。また、緊急避難用の魔法陣が組み込まれているから、もしもの時は学園内に戻ってこれること。



「じゃあ、出発ー!!」


「お、おーっ!」


 片手を宙に高く上げたリズの真似をして、もたもたとクリストファーも手を上にあげる。


 転移門の眩い光に反射的に目を閉じて、それから再び目を開けたら景色は変わっている。ツリーハウスの木の壁から、石で出来た古ぼけた壁へと。


「こ、ここは?」


「先生の所有している部屋だな。食料のためとかで結構街に行くから、どうせなら買ってしまおうとお金を集めてだな…中心街へは遠いから、少し歩く」


「ねえねえ、ところで何しに行くの?」


「あ、僕が、ちょっとお金引き出すのと、あとお姉ちゃんに送るための便箋買いたくって……あと、お姉ちゃんの誕生日、僕のと一緒だから、誕生日に何かプレゼント送りたいなって……あれ、でも元々お姉ちゃんのお金で買うのって変…?」


「クリスくんのものになったお金を、お姉さんに使うって決めたのはクリスくんだから、いいんじゃないのー?」


「そ、そっか、そうだよね!……あれ、クリスくん、って?」


「こっちの方が呼びやすいよ!」


「そ、そうかな……」


 ニコニコとしているリズの言葉に、照れたように頬をかくクリストファー。数日でここまで仲良くできてるのなんて、学園内で初めてじゃないか…!?俺は学園内の皆が大切だから、こういう風に仲が良いのは嬉しい。


「じゃあまず銀行だな?ならこっちだ、一応危ない所もあるから離れないようにしてろよ」


「うん!行こ、クリスくん!」

クリストファー(と姉)の誕生日は現話時点より2日前なので、3月22日です。

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