プロローグ
「はやく、きて」「はやく、めざめて」「おねがい」「めを、さまして」「おきて」「めをひらいて」「あいして」「きらって」「だいきらい」「だいすき」「どうして」「だますの」「きらい」「なんで」「どうしても」「なんで、あのとき」「だましてたの」「しんじゃえ」「いみご」「こわい」「いやだいやだ」「しね」「かえして」「ちがう」「にせもの」「かえせ」「いなくなれ」「きえろ」「なんでなんでなんで」「くそやろう」「おまえのせいだ」
血と、呪いにまみれた死体のなかに立っていた。
恨み言を、吐き続ける死体。
もっと、もっと暗い闇の方に行かないと。それじゃないと、僕は許されやしない。
いや、僕が僕を許さない。
「ッ!!」
引っ張られて、光の方へと連れ戻される。
違う。僕の居場所はここじゃない。僕は、自分の罪を理解しないといけないから。残してきた世界の、声を…
「ちげぇって言ってるだろ!お前は、お前だろうがっ…ありもしねぇ罪なんか引きずるな!」
「うわああっ!!」
暗い部屋の中で少年が、絶叫しながら飛び起きた。
何か変な夢でも、見てた気分がしていた。懐かしいような、心地いい、そんな夢を。
最後だけ、なんだか辛かった。知らないはずの人の声が、まだ頭に響いていた。
頬をぬらす何かに気づいて、少年、クリストファー・デイビスは目を見開く。
「…どうして、泣いてるんだろう」
クリストファー・デイビス、つまり僕が生まれた国では、この世に誕生した瞬間から人生が決まる。
はやく産まれた方が先に教育を受けられる。4月産まれは有利で、3月産まれは不利。
どのような力を持っているかを表すとされる目の色で、全てが決まる。
そして、10歳になった時から、この国では自分で生きていかなくてはならない。
賢い人は賢者になり、魔法が使える人は魔法使いになり、素早くずる賢い人は盗賊に、闇魔法を使う人は犯罪者に。それだけで、この国がどれほど異常かわかると思う。
それ以外にも、飛び抜けた何かをふたつ兼ね備えた、つまり…両目の色が違うオッドアイの人は、強制的に勇者となる。
それは、この国で未だに信じられている迷信。目の色によって、なんて言うけれど…赤色の目は、南の方では勇気がある、北の方では火魔法が使えるっていう感じに、国の中で解釈がバラバラだ。
この国では、人間は1番偉くて、賢く、どの生物よりも強いなんて言われている。そういう思想を、子供たちは生まれた時から頭に植え付けられる。
僕は貴族の生まれなのにあまりにも弱すぎる、って罵りたかったらしく、この思想は植え付けられてない。いわく、僕は人間ではなくて、動物よりももっと下の、最弱な生物。
そんな僕がたどり着く場所は、もうとっくに決まっていた。社会のゴミとされる職。
いらない子達が集まる、その職。それは───獣医。
この国では人間が最優先だ。だから、その下と見られている人間以外の動物を治す仕事は、馬鹿にされている。文献も何も無い中で獣のために働き、町からは嘲笑される。
その獣医にしか、僕はなれない。
僕の父親はそれなりに金を持ってるし、というか貴族だから、金銭的な面では困ってない。でも、僕は最弱だ。お姉ちゃん以外の家族や使用人たちには嫌われている。職業選択の日にしか、屋敷の本館には入れさせて貰えないだろう。
最弱の理由?それは、僕の目の色が…『灰色に近い黒目』であり、3月生まれだから。
遅く生まれた方が圧倒的に不利なこの国で、しかも『灰色に近い黒目』、最弱を表す目の色。この色の意味だけは、この国のどこへ行っても共通。きっと、他の国でも。
この世界は不平等だ。神様なんてものが存在するなら、僕はよっぽど嫌われてるんだろう。
それか、お姉ちゃんに僕が持つべきだったものを全部奪われてしまったのか。あんなに優しくしてくれるお姉ちゃんにそんなこと思ってしまう僕は、最低だ。
けど、お姉ちゃんが羨ましい。ずるいよ。
灰色に近い黒目を開いて、僕は今日、10歳の誕生日を迎えた。職業選択の日。今日から、僕は一人で生きていかなくてはならない。
僕はもう今の状況に諦めてしまっていた。
獣医になることに、絶望しか抱いていなかった。
そういえば、今日の朝は久しぶりに良い夢を見られたような気がしたけど、気のせいだったのかな。──もう、忘れちゃった。
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