第三話 お年頃
トラベルメーカーに接触はしたものの、荒哉達との間に目立ったトラブルは起きなかったと言っていい終わり方。ただ、荒哉がこれから彼にどういう態度を取るのか。場合によってはトラブル関係になるかもだが。
「僕、あいつ嫌いだ」
「まあ、まあ。実力に関しては十二族で素質があるうえに、世間や政府のお墨付き。今や次世代のエースって祭り上げられてるから」
「いや、そういう問題じゃない。人として」
「それはもう…どうしようもないよね……」
二人の神也に対する評価は偏る。アンバランスな人間ながら荒哉の現段階での聞いた限りでは、強くてトラブルを起こす、まさしく『問題児』。
そもそも荒哉は、一回も戦ったことがないゆえに強さの基準もわからず自分がどの立ち位置にいるのかすらわからない。学校では成績上位を狙えると庵奈から言われて祭り上げられたような感じ。
「それにしても、お二人ともよく平気でしたね」
二人の会話に、先頭にいた庶務の琉菜が荒哉と累和の元に下がって参加する。
穏やかな雰囲気で身長が低い小柄な琉菜を生徒会長が『ちゃん』付けするのは、違和感がない。そう感じる荒哉は、頷く仕草を見せる。
当然、その仕草に当の本人が反応する。今までの経験によって勘が働いたようで、荒哉に睨みを利かせる。
「せ、先輩。どう、しましたか?」
「いえ。今、妙な勘が働きまして…。ねえ?荒哉くん?」
「は、はいぃぃ!お、おそらく勘違いかと!」
と、荒哉は言うがその様子を見た琉菜はすぐに察しがついてしまう。荒哉は取り繕うのが下手というわけではないのだが、相手が先輩なうえに図星。まだ会って一日も経っていない。
そんな状況で冷静になれるタイプような人間ではなかった。
「ほんと~うにぃぃ?」
「は、はい!」
琉菜は年頃の女子。そしてなにより先輩という立場。子供扱いも嫌う。匂わせるような発言も無論、範囲内。彼女は自分の威厳を少しでも保ちたいというのがあった。彼女の中で生徒会長の庵奈が憧れのようだった。しかしながら、そう見えてしまうのも無理はなかった。
そんな荒哉を責め立てるように睨むが、しばらくしてその目は元の穏やかな雰囲気を醸し出す一つである垂れ目に戻る。
さらに……。
「あ、あの。私も入ってよろしいでしょうか?」
「「え?」」
急に現れた天使のような上目遣いの累和。琉菜の次は累和。男子である荒哉はその破壊力に進んでいた足が止まり硬直。そしてそれは女子の琉菜までもが止まる始末。
「――…え、あ、ご、ごめん。それでどうしたの?」
先に再動したのは荒哉だった。
「いや、あの…先輩から振った話が気になって……」
「あっ…ご、ごめんなさい。私から振った話なのに」
そう言って本題である話が再会したところで三人は再び止まっていた足を動かして歩き始める。
「いえ。大丈夫です。それで、私達が平気だったことになにか?」
累和の問いに琉菜は頷いて答える。
「草薙家の次期当主の候補者であった神也様は、実力が買われているのはもちろんのこと。さらには彼の能力もまた優れている」
「能力?」
「と言っても、基本的なものではなく異能。一般的に『異能持ち』と呼ばれていて、その優れた能力もそれに該当します。彼は無意識のうちにその異能を発動させることがあるらしく。影響を必ず受けるはずなんですが……」
「僕はそんなことはないですよ。累和さんは?」
「私もそんなことは…」
琉菜の持ち合わせている情報には、異能による影響を受けなかったという話はなかった。どんな人間でも異能を無視することはできない。
「影響なしとは考えにくいので、異能が発動していなかったということです。別に深刻な話ではないで気にせずに。ただの情報集めです」
「は、はあ…」
「はいはい!そこの三人。到着ですよ!」
庵奈に促されながされて前を見る一行。目の前には『国立戦人超常・武器生成研究所』。複数の建物が連なっていて、建物内には様々な施設が連結してできている。ここには毎年、ある意味で問題児と呼ばれる者達が全国から集められる。
そしてこの研究所は機密の塊。テロなどの標的になりやすい場所でもあった。特にこの時期は。
「二人とも。到着して早速だけど、ここで私達とはお別れ。二人は研究所に隣接する宿泊施設に向かって。荷物を部屋に持ってたら、大演習場に集合してて。後の詳しいことは大演習場で話を聞けばわかるから。じゃあ、頑張ってね~~」
「え、ちょ。部屋とかは……」
庵奈は到着する同時にこれからの流れを軽い説明だけで済ませて、この場をあとにする。しかしながら荒哉にとって累和にとって重大な問題が浮上してきた。そう。お年頃だから当然。部屋に関して。
「部屋については、私達とあなた達で割って二部屋しかないわよ。全国から人が集まるんだからね」
「え?それは累和さんもそちらに……」
荒哉には当然聞こえた。『私達とあなた達で割って二部屋』と。しかしながらそれを了承することはない。信じるべき話ではない。そう。お年頃だから。
「嘘、ついてませんよね?」
「つく理由がないでしょ?ウフフ……」
この状況に庵奈は乗り気になって荒哉の質問を否定した。そして細かな詳細をやはり伝えることなく生徒会メンバーは別の施設へと向かった。その行動にため息しかでない荒哉。お年頃の男女が同じ部屋というのは荒哉も気が引けること。
しかし、そんな様子の荒哉に対して累和は顔を赤らめて怒りが混じっているようには見えない様子だった。そんな累和の表情に荒哉は気付くことはなかった。
「僕達も行こう。累和さん」
「え、あ、はい…」
「どうかした?」
「…え?あ、その、なんでもないですよ…?ないですよ?ないですからね!」
「いや、問い詰めてないからね?!」
累和のちょっとした暴走を挟んだところで、二人は通知音が鳴った腕輪型デバイスを起動して通知内容を確認する。送信者は先で別行動になったばかりの庵奈で、研究所内と隣接する宿泊施設の見取り図だった。
二人はリニア高速バスで移動する際にFID|(生徒個人の情報)を交換して連絡をできるようになったよう。
二人はそれに従って宿泊施設に向かうのだった。
「あれ?そういえば、荷物持ってきてなかったけど……」
「大丈夫です。庵奈さんが、宿泊施設のAIが運んでくるっていってたので」
「僕、それ聞いてないんだけどな…」
荒哉は庵奈に遊ばれていると思っているようだが、そんなことはなかった。しかしながら、それとは別に庵奈の人間性を荒哉は心の中で問うのだった。
「荒哉さん。きっと庵奈様はいい人よ?いじり方も知ってる。うん、うん」
「え?僕はいじられキャラなの?」
「たぶん、庵奈様の中ではそうだと思います。わ、私はそんなことはないですよ。はい、ないですよ!」
「累和さん。それ、念を押しても逆効果だよ…」
「え?」
部屋に向かいながら会話を弾ませ、笑いが起こる二人。お互いの仲がよくなるのに、そう時間は掛からなかった。
そうやって時の流れを忘れさせるような会話は続き、いつの間にか二人の部屋のドアは真横にあった。
「よっし。着いた。これ…FIDを送信すればいいのかな」
「そうみたいですね。あと手形があるので、両方ですね」
荒哉と累和は、まず、腕輪型デバイスを起動。FIDを交換する際の画面にして新たに出現した送信ボタンを押して、部屋を管理するデータバンクに送信。その後、送信したデータを元に手形認証が可能となり、手形認証も終了した。
そもそも認証するという動作の類いは、一般的に体内に埋め込んだチップでやることが多い。だが、戦闘を行う戦人には邪魔だった。
異能持ちと呼ばれるものには特に。それゆえに推奨しているわけではない。現段階では、学生であり寮生活の彼らには使うときが限られるためチップは埋め込まれていない。
というのも、一部の話。
「じゃあ。早く荷物置いて、大演習場に向かわないとね」
「はい」
二人はそう言ってロックが解除された自動ドアを反応させて開かせ、部屋に入っていった。