第零章 私の記憶(回想) Ⅷ
「あのダイバーの家族とは小さい頃からバーベキューなどをしていたけど、父が死んだ以降お互い敬遠して関わりは無くなったしまった。
その後に母は病気で死んでしまって、孤児院しか僕の居場所は無くなってしまった。」
私は大きく息を吸う。
日光が前の建物に隠れて、倉庫の中は少しずつ暗くなっていった。
「十二歳になって孤児院から自立する準備をしなければならなくなった。
でも僕はこの孤児院を出ても何もする当てが無かった。
だからあのダイバーの家に行ったんだ。
七年ぶりだった。
けれど僕の事を素っ気なく招き入れてくれた。
リュックの横に付けた青いキーホルダー。
それは僕が口にする事が出来ない意志でもあった。」
昔の私はノアがこのとき言った〝意志〟の意味はよく分からなかった。
だからここで持った疑問は長い間消化されず、頭の隅に引っかかっていた。
でも今の私にはわかる気がする。
ノアは自分の意志で一歩前へ進もうとしていたのだ。
「それで、どうなったの!」
私は続きが気になり少し興奮気味に、ノアを急かした。
ノアはいつも通りのニヤリという顔をして私に視線を返した。
私はその顔を見た途端に思わず心の中でガッツポーズしてしまった。
他人の幸福を素直に喜べたあの純粋な私が羨ましい。
私はそう思いながらもう少し思い出に浸ることにした。