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洞窟探検者の欠片(少女編)  作者: 何かを探す旅人
第零章 ソフィーの過去(回想)
5/10

[4]メッセージカード

 その日の夕暮れ。


ノアが家に帰る時間になってしまった。


みんなで孤児院の門の前まで見送る。


ノアはみんなに送られ、孤児院の門を開けて外へ出た。


先生は〝じゃあ一週間後〟と言いノアの肩を優しくたたいた。


先生が門を動かす。


ギーとかん高い金属が擦れ合う音がして、ガシャンと門が閉まる。


私は門を挟んで手を振る。


ノアは私に目線を合わして手の指を動かして返事をする。


私はノアが反応してくれて嬉しく感じた。


横を見ると男の子は門の隙間から手を出して見送っていた。


ノアはそんな手にタッチして、道の奥へ進んで行く。


ノアは街の夕暮れに溶け込む様に消えていってしまった。


私は楽しい一日が終わって、少し寂しい気持ちになったが、次会う時にまた遊んだり出来ると期待した。


私は〝一週間後か〟とふと思う。


私は先生とのやり取りから、次の報告日が一週間後なのだろうと考えていた。


だから教室に戻って先生が言った事にとても驚いた。


先生は教室にみんなを集めて報告を始める。


 「一週間後でノア兄さんは卒業する事になりました。一週間後に卒業パーティーをするので、みんな手伝ってね。」


 私はこの報告を聞いてもまだ実感が湧かなかった。


なぜなら今まで十二歳で卒業していった〝先輩〟は居なかったから。


私はノアの余りにも早い卒業に驚きを隠せなかった。



 卒業を迎えると、もう孤児院で暮らす事は無くなる。


孤児院にやって来ても、〝孤児〟では無く〝訪問者〟として扱われる。


私はノアと遊んだり、話したり、ご飯を食べたり出来る日々がこれ以上来ない事を悟り、とても悲しく感じた。



 私は周りの孤児の反応を見る。


私のように落胆しているお兄さん、パーティーだと興奮する男の子達、卒業パーティーが初めてでいまいち理解していない小さい女の子、反応は様々だった。


でもそれは当然の事で、私も昔の卒業パーティーではこんな感じだったと思い出した。



 昔を思い出す。あの時に卒業していった、お姉さん。


彼女はいつも笑顔いっぱいでムードメーカーだった。


卒業パーティーの最後に、二人一組で手を合わせて作るトンネルをみんなでいくつも作った。


みんなで作る長いトンネルは、最後に孤児院の門の外まで続く。


そしてこのトンネルを抜けたお姉さんはもう二度と戻らない。


 私は確かこの時に初めて、孤児院での生活はいつまでも続かないという事を実感させられた。


始まりがあれば終わりも来る。


今この時を大切にしないといけない。


私はあの時にそう学んだ。



 今、私は振り返える。


果たして私はノアとの時間を大切にできたのだろうか。





 いよいよノアの卒業パーティーが明日に迫った朝。


窓から日が差し込み、鳥がさえずる。


頭が痛い。昨日も夜遅くまでノアの事を考えていた。


なぜノアは明日に卒業すると決めたのだろうか。


私はその事に疑問を感じていた。



 ノアの事を振り返える。


ノアは私達の事が嫌いだったのだろうか。


そして一緒にいるのが面倒だと感じていたのだろうか。


きっと違う。


違うと信じたいのもあるけど、あの笑顔、みんなを想う行動に嘘は無いはずだ。



 ノアの事を振り返える。


私は今、何をやれば良いのだろうか。


明日どんな顔をすれば良いのだろうか。


分からない。


 でも今、真剣に考えて行動しないと、絶対後で後悔する気がする。


だから私はこの気持ちを九歳のお兄さんに相談すると心に決めた。



 九歳のお兄さん。


彼はノアが卒業するという報告を聞いた時、私と同じような反応をした。


だから私は相談するなら彼だと思った。


物静かな彼はいつも小声で話す感じで、目立たない印象だった。


そして、私から彼に話しかけるのは、ほとんど無かった。



 朝食を終えた後、私は彼を探す。


彼は教室の隅で本を読んでいた。


私は彼の近くに寄っていったが、彼は全く気付かない。


私は普段彼と話さないので、どう話しかければ良いか分からなかった。


結局私は彼が本に夢中な事もあって遠慮してしまった。


隣の教室では五歳以下の孤児が文字や数字の読み方や書き方を習っている。


私は五歳以下の孤児の邪魔が入らない十時前のチャンスを逃してしまった。



 十時過ぎに五歳以下の孤児も自由時間となった。


小さな女の子にスゴロクを一緒にやりたいと誘われて仕方ない付き合う事にした。


遊んでいる途中に彼の様子が気になって彼の方に首をひねる。


彼はまだ本を読んでいた。


私はどのように彼に話しかけようと悩む。


〝おねーちゃん!〟


私はいきなりの声でビックリする。


〝悩んでも良い目は出ないよ〟


一緒に遊んでいる女の子が私の番を待っていた。


運で殆ど決まるはずのゲームで三連敗していたから女の子はそう言ったのだろうか。


私はサイコロを転がした。


〝五〟


私は駒を進める。


〝洞窟で遭難して一回休み〟


マジか。


ここまで運が無いと笑えてくる。


でも、このとき私は少し大切な気がついた。


悩んでもサイコロを振り続ければいつかゴールにたどり着く。


そうだ、私は行動し続けないといけない。


こんな所で立ち止まってはいけないんだ。


彼に話しかけよう。


そう決意した所に、男の子二人と女の子一人がやってきた。


〝いーれて!〟


小さい子達が口を揃えて私に言う。


こりゃダメだ。


結局小さい子達とスゴロクを何回も遊ぶ羽目になり、午前中が終わってしまった。



 昼食後、私は彼にどう話しかけようかと考える。


彼は午前中と同じように本を読んでいた。


私は彼の事を視界に入れながら、本を読む事にした。


しかし彼に動きは無く時間だけが過ぎていった。


こんな事していては、いつになっても彼に話しかける事が出来ない。


私は焦り始めていた。


このままだと何も進展しないと分かった私は、昼寝の時間に彼に話しかけると決めた。


 教室が静かになる。


昼寝の時間になった。


私は彼に話しかけるために再び彼に近寄る。


私は彼の肩を優しく叩いた。


彼は私の方を向き反応する。


 「ん…。」


 何だその反応。


私はそう思った。


しかしここで諦める訳にもいかないので私はこう話しかけた。


 「ん。えっと…、その。読んでいる本、面白い?」


 「ああ、面白いよ。主人公が旅に出るんだよ。」


 彼は少し早口で話して、続きを話そうとした。


 「え、えっと。そうじゃないんだよ。あの、明日さ、ノアが卒業するじゃん。だからその、後悔したく無いっていうか、どうしたらいいか分からなくて…。」


 とても酷い。


自分自身ですら何を言っているのか分からない。


もっと気持ちを言葉に整理してから、彼に話しかければよかったと私は思った。


しかし彼は私にこう返した。


 「そうか、ソフィーはノアと仲良かったもんな。だから、気持ちの整理をしたいんだろ。」


 その通りだ。


私は頷いた。


 「そうだなー。ノアが卒業していった後にノアに残るものって何だと思う?」


 彼は私に質問をしてきて、私は考えた。


 「思い出とか?」


 少し間が空いた後、私がそう答えると彼は頷いた。


そして、彼は続けて質問をしてきた。


 「思い出って、今から増やせるか?」


 とても的確な質問だった。


私は首を横に振る。


思い出が増やせるのは、せいぜい明日のパーティーぐらいだ。


じゃあどうすれば良いのだろうか。


 「モノとかどうだ?」


 彼が提案してくる。


私は凄く良い考えだと感じた。


私はもらった手紙やノアの青いキーホルダーを思い返す。


確かにモノは残り続ける。


 「カードなんかどう?みんなで一言ずつ書いていってノアに渡すの。」


 私は彼に伝えると、彼は少し笑顔で答えた。


 「良い考えだ。私から先生に伝えて、道具などを用意するよ。アイデアありがとう。」


 私は彼と話をして嬉しく思った。


私の気持ちを理解して貰えたこと。


私がノアのために行動を起こしていると実感出来たこと。


彼と話しをして、少し私のもやもやする気持ちが晴れてきた気がした。

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