8話
この話から主人公視点に戻ります。
(主人公視点)
最初に魔法を覚える切っ掛けとなった【魔石】を見つけた広間には、入り口近くへと直結している穴がある。
冒険者から逃げるために俺が必死に掘った、あの穴だ。
それを使って入口付近まで戻る。
以前男に火球で攻撃された壁の所近くまで来たら、足を止めて身体を伏せる。
耳を澄ませて辺りの様子を探ると、遠くで魔物が立てる物音が静かな空間に微かに響いているだけだ。
-周囲に冒険者がいないなら。
早速覚えた光魔法の【隠蔽】を自分と壁に使う。
【隠蔽】は効果が発動している間は光の魔力を常に消費する代わりに、光を操って対象の姿を隠すことができる魔法だ。
自身の姿については確認できないので分からないが、少なくとも壁の穴は一見しただけではそこに何かあるか分からないレベルにするために特訓した。
この鉱山を歩き回る魔物相手に試してみた所、特定の相手以外には余程近づかれない限りは大丈夫だった。
【隠蔽】の魔法では砂礫の流れや小石が転がるときに発する【音】や、自分が纏う【匂い】まではカバーできない。
なので物音を立ててしまったり、鼻の良い獣を相手にしている場合などは効果が薄いだろう。
この鉱山ではアースバットとストーンスパイダー、そしてバシリスクが相手だと効果が薄く注意が必要だった。
アースバットとストーンスパイダーには、じっとしている分にはバレないが僅かでも身動ぎすると途端に見つかってしまう。
恐らく地球のそれらの生態と似て、超音波や振動により感知しているのだろう。
バジリスクは石化攻撃を行ってくる蛇の魔物だが、これも地球の蛇と同じように熱感知をしているものと思われる。
(………)
こうして挙げてみると、全然隠れられていない様にも思えてしまうが、動物よりも感覚が鈍いであろう人間相手には効果があるとは思う。
………
た、多分。
一抹の不安はあるものの、物音や足音を立てないようにゆっくりと、慎重に穴から抜け出す。
穴から抜け出た後にも、しばらくは身動ぎせずに周囲の気配を探る。
魔物がこちらに気付かずに物音が聞こえない程の遠くへ行ってしまい、辺りに誰もいなくなったのを確認してからようやく歩き出す。
-冒険者には、会いたいが会いたくない。-
矛盾しているが、どちらも本心だ。
ある日突然化け物になり右も左も分からない状況で放り出されたのだ。
誰でもいいから会って話して、できれば助けて欲しい。
身体は魔物となってしまったが、自分の心は…
『人間』だ。
人間、なのだ。
怖がられたくない。争いたくはない。
魔物となってしまった今、たとえ人の住む場所に立ち入れないとしても、この世界の人がどんな生活をしているかだけでも見てみたい。
歩くにつれ、どんどん強くなってくる洞窟の出口から溢れる光に包まれる程にその思いが強く、強くなる。
そして---
ついに俺は、一ヶ月ほど過ごした鉱山の外へと足を踏みだしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鉱山の外は、鬱蒼と茂る森だった。
外はまだ日が高いようだが、背の高い木々に囲まれて木漏れ日の光が零れる場所以外は薄暗い。
だが、この世界に来て初めて感じる外の空気だ。
(んー!! 人間はやっぱ、ずっと薄暗い所にいるとダメなんだな!!)
身体を撫でて過ぎ去る風が、なんとも心地よい。
思わず伸びをして目を閉じるが、またいつ誰がくるか分からない。
とりあえず目の前にある茂みに隠れて落ちつくことにする。
茂みに隠れて周囲を見渡すと、俺が出てきた鉱山へは人がよく立ち入るのだろう、踏み荒らされて禿げた土が剥き出しになった幅2mくらいの道が一つ、鉱山から森の中へと続いている。
この道を辿れば人里なりさらに別の道なりに行けるのだろう。
堂々とそこを歩けない自分は、かろうじて目視できるくらいまで道の脇へ移動し、再度【インビジブル】の魔法を使用する。
光の魔力はもうあまり残っていないが、日中の明るい内になるべく進んでおきたい。
草木を踏むとどうしてもガサガサ音を立ててしまうので、時折立ち止まって耳を澄ませて周囲の気配を探りながら、俺は未知なる世界への1歩を踏みだしたのだった。
数多ある素晴らしい作品たちの中からこのお話をご覧下さり、本当にありがとうございます!
※誤字を見つけて報告して下さった方々へ、御礼申し上げます。
沢山あったのにも関わらず全然気付いておりませんでした汗
ありがとうございます。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。
※2020/2/18 感想で御指摘頂いた箇所を修正いたしました。教えて下さりありがとうございます!