7話(※冒険者視点)
(「冒険者」視点)
冒険者パーティー【希望の星】が鉱山へ来て3日目。
鉱山の入口に近いほど魔物は弱いが出現頻度は多くなる。
そして奥深くへ足を踏み入れるほど数は少なくなり敵は強くなる。
魔物の数に関しては奥深くへ行く方が増えるようにも思えるが、
一説には「弱い魔物は強い魔物に狩られてしまうから」とも
「魔物は世界に漂う魔素が歪んで生まれる。強い魔物が生まれるにはたくさんの歪んだ魔素が使われるため弱い魔物が生まれない」とも言われている。本当のところはまだ確認されていない。
なんにしろ、自分たちの実力に合った場所で狩りをするのが大事だということだ。
俺たち【希望の星】は、攻撃魔法が使えるのがテッドしかいない。
エナも多少の補助魔法を使えるが、攻撃に回せる程の魔力はない。
大剣士である俺は魔法は使えないため、物理攻撃が通り辛いこの鉱山とは少し相性が悪い。
そのため比較的浅い所で狩りをし、ある程度の成果を上げたら街へと戻る。
【マジックバック】という規定の容量までならどれだけ重くて大きいものでも特殊な空間へ収納できる便利な魔導具も存在するが、作れる能力がある者は極々僅かしかいないため、低~中ランク冒険者ではまず手に入れられない。
それは【希望の星】も例外ではなく、素材は自分達で持ち歩く。
それが嫌なら荷運び屋を雇うことになる。
今までだったらこの鉱山なら1泊2日くらいである程度の素材を持って帰れていた。
-しかし、今回は違った。
入口付近の魔物はいつも通りだったが、奥へと進んで行くにつれて段々と異変がハッキリしてくる。
奥へと潜っても魔物とあまり遭遇しないのだ。
先に話したように、奥へ進むにつれて魔物の数が少なくなるのは普通だ。
だが少なすぎるのだ。
しかも魔物の死骸が転がっていることがある。
先に潜ってる誰かがやったのかとも思ったが、その割には冒険者なら素材として剥ぎとる部分がそのままになっていることがあるのだ。
例えば、アースバット。
アースバットの羽は矢羽や防具などに使われ、牙は武器や薬の材料となったりする。岩は鉱石としての価値はないので放っておかれるのだが、この死骸はそれが逆になっている。
更におかしくなっているのは壁だ。
所々で穴が空き、場所によっては崩落の可能性がでてきている。
しかも洞窟での貴重な明かりとなっている【グリッター・グラス】や【フロライト・マッシュ】も無くなっている箇所があるため薄暗く、魔物の接近にも気づきにくいなど色々と危ない状態になっている。
エナとテッドと相談し、素材集めは一旦後回しにして街へ戻ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…成程、話は分かった。」
男は話を聞いている間閉じていた目を開き、組んでいた腕を解く。
そうして改めて報告をしてきたドレッドら【希望の星】の面々を見やる。
もう老年に差し掛かり始めているがその身体は逞しく張り詰め、面差しには野性味が残りその眼差しは鋭い。
【希望の星】から報告を聞いていたのは、
例の鉱山から一番近くて大きな街の冒険者ギルドのギルドマスターを務める【ドゥーガ】という男だ。
この街の名前は【サルバ】といい、鉱山に集まる冒険者とそれらが齎す良質な鉱石に惹かれてきた鍛冶師が支える“鉱山と鍛冶の街”である。
冒険者として仕事を求めて来る者に、鍛冶をする者。
余所からやってきた物を相手にする宿や料理屋。鍛冶師が作り出した武器防具を売り買いする商人など。
この街は鉱山の恩恵で成り立っている。
元々鉱山はあったのだが、それだけではここまで街が栄えることはなかった。
街が栄えたのは、【鉱山がダンジョン化した】からだ。
---そう、この世界でのダンジョンとは。
【ある日突然魔物が出没するようになり、倒しても再び魔物が湧き出す場所⠀】
のことを指す。
これが普段人が近寄らない場所がダンジョン化するならば良いのだが、稀に街中、それこそ民家の2階がダンジョン化した事例もある。
ダンジョン化すると魔物が出没するようになり、ダンジョン内で倒された魔物はそのまま放置されると2日程で消えてしまい、また突然ダンジョン内に現れるようになる。
だが、再び魔物が現れるということは。
駆けずり回らなくても、どれだけ狩っても仕事ができる。
そして鉱山に現れた魔物から採れる素材は、普通に鉱山を発掘して得られるものよりも良質だった。
ダンジョン化を解除するための方法もあるが、ここでは割愛する。
話を戻すと、ダンジョン化することでこのサルバの街に繁栄をもたらした。
その、街の命綱であるダンジョン【サルバ鉱山】に今までにない異変が起きている。
そのことが目の前の【希望の星】やその他のパーティーからも受けていた報告と総合することで確定的となった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…調査が終わるまでの間、鉱山への立ち入りを禁止することにする」
サルバの冒険者ギルドのギルド長室で座って報告を受けていたドゥーガは、それだけをドレッド達に告げて退出させようとする。
「ちょ、ギルドマスター! 立ち入り禁止って… 本気か?!」
「この街で鉱山を閉鎖することがどう言うことか、分からない訳じゃないわよね?」
「…状況からすると、低ランクの立ち入りは制限するべきだとは思いますが…」
ドレッド、エナ、テッドから口々に不安や不満が溢れてくる。
「おめぇらが直接見てきたことだろうが。
恐らく鉱山の異変はその壁の中に潜む魔物の仕業だろう。
早急に対処しなくちゃならねぇ問題である以上、
高ランク冒険者に深層部まで調査して貰うまでは現場を保存しなきゃならんだろうが。」
そうドゥーガに諭されると、反論できなくなる。
「分かったら、今日はもう帰って休め。よく報告してくれたな、ご苦労さん」
「…分かりました。失礼します」
そう言って退出した面々を見送ったドゥーガは、大きなため息をつく。
「…鉱山が閉鎖したら、だと?
そんなもん、オレだってよーく分かってんだよ」
そう呟き、苛立ちを紛らわすために葉巻を口にする。
---彼は、この街の出身の冒険者だった。
冒険者として活躍していたころは鉱山もダンジョン化していなく、街もとても小さな村だった。
村とその周辺だけの狭い世界に嫌気がさして外の世界に飛び出したが、10年程前にサルバ鉱山がダンジョン化した噂を聞いて結局戻ってきてしまったのだ。
「さて、俺が行ってもいいが。
………アイツは、引き受けてくれっかな」
-吸い込む煙の味が、イヤに舌についた。
このお話を見つけて、読んで下って本当にありがとうございます