6話(※途中から冒険者視点)
初めて魔法を使えるようになってから一ヶ月ほど経った。
その間は黄色い石を見つけた部屋を拠点として活動し、ひたすら外に出るための力をつける為に色々と試行錯誤していた。
ストーン・バレットは、最初は拳大の石を5つぐらいしか出せなかった。しかし使い込むことで魔力とイメージを練り合わせるのが段々とスムーズになったことで、徐々にアレンジがが効くようになってきた。
石礫の大きさを小さくする代わりに数を増やして範囲殲滅力を上げた《ストーン・バレット 散》や、逆に一回に発生させる石を減らすことで一つ一つの威力を重視した《ストーン・バレット 砲》などの応用ができるようになった。
散は食べ物を探して歩いていた時に、運悪く蝙蝠の大群に遭遇してしまったことで生まれた魔法だ。
蝙蝠は一匹一匹相手にする分にはなんとかなるのだが、それでも爪による切り裂きも魔法も避けられてしまうことは多い敵だった。
それが集団で襲いかかり絶え間なく噛みついてくるので、危険かつ面倒なことこの上ない魔物だった。
(どうにか相手に避けられないためには…)
と考えて思いついた方法が、【数打ちゃ当たる】だった。
点でダメなら面で制圧する作戦はなんとか功を奏したのだった。
砲は、初遭遇となる金属でできた本物のゴーレム相手に編み出した技だ。
メタルリザードの背中も金属で覆われていたため硬かったが、ゴーレムはそれよりも硬く、試しに爪で切りかかってみたら爪がちょっと欠けてしまった。めっちゃ痛かった。
しかも相手の高さは4m近くもあり、体長が30cmもない自分では再び近づくのも容易ではなかった。
《ストーン・バレット 散》では相手の表面を傷つけることしかできず、敵を倒すための切り札にはならなかった。
そこでありったけの魔力を相手の顔を目掛けて一点に集中して放つことで、遂に金属も貫通する威力を出すことが出来た。
顔を抉られたゴーレムの動きが、ようやく止まった。
その他にも、分かったことがある。
魔物と土の魔法で戦う傍ら、折をみてはかつて見た炎の魔法を習得しようと小まめに練習をしていた。
しかしスムーズに土魔法を使えるようになっても、炎の魔法は使えるようになかった。
冒険者と自分の魔力の違い。使う魔法の違い。
そこから導き出されるのは、恐らく。
自分が練り上げる魔力は【土属性の魔力】であり、【土属性の魔法は土属性の魔力を練り上げることで使える】ということだ。
つまり、適性がない魔法はいくら練習しても使えないことになる。
それを理解してからは炎の魔法の練習は一旦止め、自分の持つ魔力の把握に努めた。
目を閉じて、身体に潜む魔力を探ると、
普段使っている土の強い魔力に隠れて他の力が存在するのを感じた。
土の力はその名の通り、魔力に触れると土を捏ねている感じを覚える。
他の力に触れると、【眩しさを感じる力】と【何も感じ無いが存在することが分かる力】があることが分かった。
そうして感じた力を使って色々と試してみると、
自分はどうやら【土】と【光】に対し適性があることは分かった。
だが、最後の【何も感じ無いが存在することが分かる力】を集めてみても、起こしたい現象のイメージが間違っているためか何も発動しない。
-そうして他の魔力を自覚した俺は、それで何ができるのか確かめながら。
前回挫折した「洞窟からの脱出」という目標に向かって再び動きだしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
( 一方その頃、とある冒険者パーティーは )
「…一体、どうなってるのよ…??」
思わず呟きが漏れた。
声の主は、エナという名の冒険者だ。
彼女は同じ孤児院出身の幼馴染みの男2人と共に【希望の星】というパーティーを組む冒険者だった。
彼女は素早く手先が器用なこともあり、パーティーでは“スカウト”と言われる役割を果たしている。
“スカウト”はダンジョン内での索敵や罠の解除などを行う職業であり、その役割から異変に気付くのも早い。
今回彼女たちは常に需要があり、一定の稼ぎが見込める鉱石を集めるためにとある鉱山に来ていた。
鉱石を集めるとは言っても鶴嘴で掘り当てる訳ではなく、鉱物を身に纏う魔物を倒して剥ぎとるのだ。
自分の身を守る力があるのなら、地道に鉱山を掘るよりも短時間で純度の高い鉱石を得られるため定番となっている稼ぎ方だ。
だが、今回は来た瞬間から鉱山の様子がおかしい。
まず鉱山の入り口付近で、壁の奥深くに潜む謎の魔物に出会ったことだ。
この鉱山に出没する魔物はアースバットやストーンスパイダー、メタルリザードやストーンゴーレムにアーススライムなどだ。
それらの魔物は身に纏う岩や鉱物により頑丈さに定評があり、物理攻撃は通りにくいことが多い。また石化攻撃などを行ってくるために中々厄介な敵が多い。
そういったのは自分が硬くて頑丈であることを知っており、あまり隠れずに堂々と襲ってくることが多い。
しかし壁に潜むその魔物は、掘った土で自分が潜む穴を隠していた。
そして状況が不利と見るや否や、更に壁の奥へと逃れて行った。
魔物は基本的に自分の縄張りを荒らす相手に本能的に襲いかかる。
余程力の差がある場合は怯んで逃げ出す場合もあるが、自分たちはこの鉱山で狩りができるとは言え、敵を圧倒できる程の強さはない。
それなのに潜む魔物は穴を隠す知性を見せ、魔法が直撃していないのにも関わらず逃げ出す慎重さを併せ持っていた。
そんな魔物は、この鉱山では見たことも聞いたこともない。
仲間の“魔法使い”であるテッドが火球の魔法で壁ごと相手を炙り出そうとしたが、相手は相当奥深くに隠れていたため姿を見ることは出来なかった。
とりあえずいつもより注意深く進むことにする。
「一体なんだったんだろうな? アレは」
このパーティーの前衛で“大剣使い”のドレッドが聞いてくる。
「分からない… ストーンスネークの場合は穴を隠すことはしないし、あんなに深く穴を掘ることもないわ。むしろ、岩陰に隠れて襲いかかってくるだろうしね」
「魔法が当たらなかったにしろ、威嚇することもなく逃げ出した。それだけ臆病な魔物ということだろうか…?」
皆で話し合うが、結局わからずじまいだ。
とりあえず、いつも通りに遭遇した魔物を3人で連携して倒し素材を集めていく。
---3人が更なる異変に気付くのは、もう少し先のことになるのだった。
数ある作品の中からこのお話を見つけてお読み下り、本当にありがとうございます