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宝石龍の生き残り計画  作者: おもち丸
23/47

22話

水の魔力を身につけたことを確認した俺らは、各々自分のやりたいことをし、夜が深ける前に寝ることにしたのだった。

ちなみに俺は机の下(要は床)で寝た。今までも野宿で地べたに直接寝転んでいたので、特に不満はない。



翌朝になり、ベッドから起きだしてきたゼラードが


「下に降りるぞ」と声をかけてきた。


俺はドアを開けた先で待つ男の下へ、【隠蔽】の魔法をかけてから近づく。

昨日までしていなかった俺のそんな行動をゼラードは見ていたが、特に何も言ってはこなかった。



そうして一緒に宿の1階にある食堂へ降ると、ヤツは女将さんに机に乗り切らないのではと思う程の飯を頼む。

朝のそれなりに早い時間にも関わらず、女将さんも「はいよ」と気軽に頷きどんどん飯を運んで来た。


定宿にしていると言うだけあって、女将さんはヤツのこの様な頼み方にも慣れているらしく、ゼラードが泊まりに来た時点である程度の仕込みをしていたらしい。



しかし朝からこんな大量の飯を1人で食う気かと呆れてみていると、なんと奴は腰の【マジックバッグ】へ、その大量の料理をどんどんと中へ入れていくではないか。



どうやら男の持つマジックバッグは、食い物を入れておけるものらしい。

蓋の無い器に盛った料理を、そのまま入れても問題ないなんて、流石魔法がある世界、ちょっとチートが過ぎるのではないか。


あの時兄妹へ提供した飯も、こうやって保管していたものなのだろう。

料理を盛っていた皿も買い取ったのか、ヤツが昨日出掛ける際にでも渡していたのかも知れない。


そうしてヤツは料理をポーチへ詰め込め終えると、机に残しておいた2人前の朝食を平らげ、冒険者ギルドへと向かったのだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




冒険者ギルドはまだ朝の早めな時間であるにも関わらず、既に沢山の人間で賑わっていた。


受付カウンターの後ろには大きな掲示板があり、そこには依頼であろう何かが書かれた紙がいくつも貼ってある。

集まっている冒険者の目当てはやはりその掲示板らしく、気になる依頼に空きがあるか受付の職員へ尋ねている。

依頼が締め切られると、職員が後ろを振り向き紙を撤去するシステムのようだ。


そうやって仕事を探す冒険者に混じり、朝からギルドの端にある机にたむろって、なにやら話しをしている者の姿も見える。



「よう、今朝は一人か? 昨日の魔物はどうしたよ?」



たむろっていた連中の中には、そう言ってゼラードへ絡むヤツもいたが、ゼラードに心底冷たい殺気さえ感じさせる眼差しを向けられると、スゴスゴ撤退して行った。


しかし一人に見えると言うことは、【隠蔽】はちゃんと効果を発揮しているらしい。

ヒトにぶつからないようにして注意してゼラードの後をついていくと、昨日と同じ部屋に向かうらしい。

階段を上り始めたので、物音を立てないように昨日よりも慎重に上る。



そして1階から見えない位置までくると、【隠蔽】をかけているにも関わらず俺を掴みあげると2階へと運んでくれた。



なんで隠れてるのに居場所がわかるんだろ?

と疑問に思いながら男を見ると、



「【隠蔽】をかけようが気配で分かる。

ドゥーガ達に【隠蔽】は必要ない。解いておけ。」



と答えてくれた。

気配で解るとか、男はどうやら動物並みの感覚をしているらしい。


そんな失礼なことを考えていたのが伝わってしまったのか、また殴られた。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇




ドゥーガの部屋に入ると、ドゥーガはカーリンさんと一緒に応接セットでお茶を飲んでいた。



カップ4つあることから、どうやら俺たちが来るのを待っていてくれたらしい。



勧められるがままにソファーへ座ると、カーリンさんがお茶を淹れてくれた。俺はお茶の味なんて分からないけど、美女が入れてくれたお茶だ。有り難く頂く。


爪でカップを傷付けないように、慎重に両手で持ち上げてお茶を飲む俺をドゥーガとカーリンさんは興味深そうに眺めていたが、ゼラードが催促するように手を出すと本題を思い出したようだ。



「はい、これが【契約の証】よ。その子に着けてあげて?」



とカーリンさんがゼラードに渡したのは、

表面に細かい文字がびっしりと刻まれた【魔水晶】と思われる鉱石を、繊細な金属の鎖で吊るしたペンダントだった。


それをゼラードは自分の首と、俺の首にかける。

カーリンさんはそれを見届けると、



「仕上げとして、これから【契約】の魔法をかけるわね。


――『契約者よ。互いの証に刻まれし契約を受け入れ従うことを誓いたまえ。【契約(コントラクト)】』」



カーリンさんがそう唱えると、【契約の証】から魔力が流れ込んできて俺の全身へと染み込んでいき、やがて溶けて消えた。

よく分からないが、これで【契約】が成り立ったという事なのだろう。


ふとカーリンさんの胸元を見ると(決して疚しい気持ちなどない。断じてない。)、カーリンさんの胸元にも意匠は違うが【契約の証】らしきものが見えた。よく見ると耳にも証があるようだ。



俺の視線に気付いたカーリンさんは、「あぁ、これ?」

と言って説明してくれた。



「ペンダントは、私の従魔とのものなの。

魔鷲鳥(グリフォン)』なんだけど、とっても優しい子なのよ。

今度紹介してあげるわ。


耳飾りはドゥーガとの証なの。




――ね?




ドゥーガ?」




とドゥーガに話しかける。

見るとカーリンと同じ耳飾りをドゥーガも着けていたが、その顔は若干青い。

カーリンさんが笑う程、なんだか顔色が悪くなっていってるようにも感じる。



どういうことかとゼラードを見てみるが、関わりたくないのか視線を逸らされる。



再びカーリンさんを見るが、うふふと微笑むだけだ。



笑っているが、その目の奥は笑っていないようにも見えた。



なんだか怖くなった俺は、ゼラードと同じように視線を逸らしたのだった。




この話に興味を持って頂き、またご覧下さりありがとうございます!

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