2話
嫌々ながら現状を理解した後は、とりあえずの空腹を満たすために色々なものを齧ってみた。
そうして分かったことは…
一つ、岩や石は、味気はないが食べられること。
一つ、蝙蝠の死骸は、表面の岩部分は食べれたがその下の肉の部分は食べれなかったこと。
一つ、光る草やキノコは、なんとなくそのまま野菜を食べてるみたいだったこと。
そして…
光を反射していた水晶のようなモノは、プリンのような滑らかで甘い味がして美味しかった。
それらのことを総合して考えると、自分は龍の中でも動物の肉ではなく、金属などの鉱物やそれでできたモノを食べて生きる種族なのではないのかと推測した。
(水晶で出来た鉱物を食べる龍… って、なんじゃそりゃ??)
娯楽の少ない田舎に住んでいたため、漫画やラノベはそれなりに読んでいた。しかしそれだけの知識では今の自分について分かることといえば、所謂トラック転生ではないものの、新しい世界に前世の記憶を持ったまま産まれてきたらしいということだけだ。
とにかく考えても分からないものは後回しにし、その日はそこら辺にある水晶を食べてお腹を満たしながら、この世界で目覚めたときに掘った穴の中に隠れて寝た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
洞窟なので陽射しの移り変わりも分からないため、どれほど寝ていたかは分からない。
目が覚めてみたら、全部夢だった…
目が覚めたばかりのぼんやりとした頭でそんな希望を抱いてみるが、自分を囲んでいる冷たい岩の感触がそれを否定してくる。
とりあえず一眠りしたことで気持ちも大分落ちつき、希望を否定されても「だろうな」と受け止めることができた。
穴の外に出る前に耳を澄ませて周囲の状況を確認する。
遠くの方からかすかに昨日の蝙蝠であろう生き物の鳴き声が聞こえたが、近くには何もいないようだ。
音を立てないように慎重に土をかき分けて穴の外に出てみると、昨日水晶を食べたせいで少し薄暗くなった洞窟へ出た。
(これが現実なら… どうやって生きていくか、だな…)
生きる目的はまだ見つからないが、とりあえず飯となる鉱物を探していくことになるだろう。
そのためにはまず、自分は何が出来て、何が出来ないのか。
それを知らないといけないだろう。
(ラノベのテンプレだと、こういう場合は…)
『ステータス・オープン!』
………
叫んでみたが、口からは「ぎゅわぁあ!」と鳴き声が漏れるだけでなにも起こらない。
辺りが静まり返っているせいで、恥ずかしさで顔が赤くなる。
(そうそう上手くはいかない、か…)
と、ファンタジーへの憧れから密かに期待していたぶん落ちこんだ。
さて、次はどうしようか… と考えようとしたところで、「キィィィン!」という耳障りな高音と何かの羽ばたく音が聞こえた。
(マズっ…! さっき叫んだせいで蝙蝠に気付かれた…?!)
最初に遠くの方で鳴き声がするのを確認していたのに、ついステータスが見れないかと叫んでしまった。
先程の穴に隠れてやり過ごそうとするが、それよりも蝙蝠が姿を現す方が早かった。
蝙蝠はそのままこちらへ大きな口を開けて突っ込んでくる。
蝙蝠自体が自分より大きいため、下手をすればそのまま飲み込まれてしまう。
咄嗟に足下に転がっていた石を拾い投げるが、素早く避けられてしまう。
しかし相手が避けたことで少しの隙ができ、その間に逃げようとするも蝙蝠の方が素早く体勢を立て直し再び襲いかかってくる。
(逃げ切れない…!!)
意外な程素早い相手にこれ以上は無理だと諦め、これから訪れるであろう痛みにそなえ目をつぶる。
せめて少しでも身を守ろうと、咄嗟に腕を交差させてガードする。
蝙蝠の貪欲な口が目の前にせまり、腕に齧りつかれた瞬間
ガキィン!!!
と高い音が鳴り響いた。
恐る恐る目を開けると、噛み砕こうと力をこめようと口にギリギリと力をこめる蝙蝠がいる。しかし、自分の腕はビクともしていない。
どうやら自分の腕は相手の牙よりも硬いらしい。
そのまま腕を振って蝙蝠の噛み付きから逃れると、相手は再び襲いかかってくる。
だが、
(もしかして…)
今のこの爪ならば。
そう思い、再び目の前にせまってきた怪物に対し思いっきり力を込めて振る。
すると、何の抵抗もなく敵が引き裂けた。
敵だけではなく、その向こうの洞窟の壁の表面も。
『はぁ、はぁ、はぁ…』
脅威が去って、ようやく息の仕方を思いだした気がする。
荒い息を吐きながら、今起こったことを整理しようと努める。
(噛み付かれたけど、痛くなかったな…。 そしてあいつ。
昨日の折れた剣先を見る限り、こんなに簡単に切れる相手には思えなかったけど…)
とすると。
この身は一応とは言え龍の仲間としてそれなりの力を持つらしい。
これは、痛い思いをしたくない自分にとっては嬉しい事実だ。
助かった事実に、嬉しさがこみあげてくる。
足下には切り裂かれた蝙蝠が転がるが、見た目はグロいのに思ったよりは平気な自分がいた。これも変化のおかげだろうか。
---こうして異世界2日目は、なんとも慌ただしく始まったのだ。




