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宝石龍の生き残り計画  作者: おもち丸
14/47

14話

男は子供一人を背負っているのだとは感じさせない動きで森の中を歩いていくが、背の高い男のしかも長い脚と同じような歩幅で歩ける訳が無い。しかも、それは女の子にも言えることだった。


男は片腕で少年を背負い、もう片方の手には大剣が握られている。


男の実力なら大剣など持たなくてもこの森の魔物なら問題ないだろうが、無手で歩く気はないらしい。

武器を握っていないと落ち着かないタイプなのかも知れない。

そのため女の子は必死に男の大きい歩幅に合わせて歩いている。


幸い女の子に大きな怪我は無いが、転んだのであろう膝に擦り傷がある。魔力切れで今は治せない傷だ。

そんな状態で、しかも怖い思いをして疲れているであろうに、この森が危険だと分かっているのか文句も言わずに男に着いて行く。

そんな女の子を気遣うこともなく男はスタスタと歩くので、流石に抗議の声をあげる。



「ぴぎゃ! ぎゅーわぎゃおぎゃぴ、ぴーぎゃー!(ちょっと待った!子供を連れて歩いてんだぞ、ちっとは気を遣えや!)」



流石に俺の言葉は男には通じないらしいが、何度か声をあげて女の子を指さしているとようやく察したらしい。歩幅を合わせるようになった。



ちなみに、最初は「うるさい」と言われゲンコツを喰らった。

魔物が徘徊する森で大きな声を上げたのは不味かったが、理不尽だとも思った。




そして女の子の歩幅に合わせて歩いていたため、森を抜けて川に着く頃にはすっかり辺りは夕闇に包まれていた。



このまま歩き続ければ夜半頃には街へ辿り着けるだろう。

だが女の子の疲労がピークに達しているため、今晩はここで野宿をする事になった。



橋の近くの野原に腰を落ち着けると、男は腰のポーチからテントや寝袋、小さめな鍋などの道具を取り出す。



明らかにポーチの容量より大きなそれらが次々と出てくるのを見ると、どうやら男のポーチは、所謂【マジックバッグ】であると考えられる。



散々魔法や腕輪などの不思議に触れておいて今更ではあるんだが、ファンタジー定番のアイテムを間近に見れて感動する。もの凄く便利だ。



中はどうなっているのだろうと首を伸ばしてポーチを覗き込もうとしていると、男に「邪魔だ」と言われまた首を掴まれて放り投げられてしまう。



そのまま魚でも採って来いと言われたので、大人しく川に向かう。



辺りは既に暗いため分かりにくいが、時折魚の濃い影が漂っているのが見える。

このまま川へ飛び込んでも逃げられてしまう事は容易に想像できるので、魚を【石壁(ストーン・ウォール)】で囲い込んで逃げられなくする。

そしてその石壁の中へと入り、狭い箱の中で逃げ惑う魚を爪で串刺しにする。



-と、その時に気付いた。



(あの時、こうすれば良かったんだ……。)



思い出すのは兄妹を襲う狼と退治した時の事だ。



森の中で自分だけが襲われた時は、相手の攻撃が通らないのを良いことに、相手が飛びかかって来るタイミングに合わせた爪での切り裂きカウンターが決まるまで時間をかけて倒していた。


だが、あの時は短時間で勝負を決めようとして焦り、却って効果的な攻撃が出来なかった。



しかし、



(こうやって石壁で相手の行動を制限すれば、【ストーン・バレット】でも森林狼を倒せたのかも……。)



そうすればもっと男の子の状態は良かったんじゃないか。

後悔が湧いてくる。



(次は、決める。)



そんな決意を胸に採った魚を持ち帰ると、




「遅い。」




とまた男に殴られた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇





野営には慣れているのだろう、男は手早く火の用意を終えて鍋を薪にかけていた。

俺が採ってきた魚と男がどこからか用意したパンとスープでお腹が膨れた兄妹は、食事が終わるやいなや船を漕ぎ始める。

薬で回復したのであろう、少年も自分でご飯を食べれるようになったので本当に安心した。きっともう大丈夫なのだろう。


寝るならテントへ行けという男に素直に従い、兄妹はテントへと入って行く。


俺はと言うと、



(腹減ったし、血を洗いたいな...)



魚は食べないし、パンとスープは軽く口にしてみたが鉱石ほどの満足感は得られない。



「ぎゃわ、ぎゃぴ!(ちょい、川に行ってくるわ!)」



と男に断ってから川に向かう。通じているかは知らない。



川に着くと流れが緩やかな場所を探して入り、手の届く範囲で身体を擦る。特に森林狼の血が着いているであろう顔は念入りに洗う。


一しきり身体を洗い終えたら、今度は川の中まで潜ってみる。


日本だと場所によっては川で砂金や雲母が採れることがあるので、ここでもそれに準じたものがないかと探したのだが、そうそう転がっているはずも無い。


仕方なく川底の小石を食べて腹を膨らませると(ごく薄味の豆腐を食べている感覚だった)、男の下へと戻る。



男は先程と全く同じ姿勢でこちらを見ていた。多分、俺が何をするつもりなのか監視していたのだろう。



男には聞きいてみたいことも沢山あったが、どうせ俺の言葉は正確には伝わらないのだ。今日のところは大人しく寝ることにする。



男が居るので安心だろうが、念のため子供達がいるテントの正面以外を石壁で囲ってから、テント外、入り口の横の邪魔にならない所を陣取って横になる。


俺も今日は色々なことがあって疲れていたので、身体を横たえた途端睡魔が襲い、そのまま眠りについたのだった。

現在「小説家になろう」に登録されているのは約71万作品にも上るそうですね...


そんな中でこの話を読んで下さる方がいらっしゃる奇跡に感謝を!

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