11話
※本日は二話投稿しております。ご注意願います。
※今回は若干グロデスクな表現が含まれておりますので、苦手な方はご注意下さい。
木を降りた後は、街へ続いているであろう道の脇を隠れながら進む。
途中で【蛍光キノコ】などの食べられそうな植物を食べる。
数は見つけられないが自分の身体が小さいので、それなりに腹は膨らんだ。
道には獲物となる人間が通るのが分かるのだろう、道の脇や木の上には所々に魔物が潜んでいた。
植物系の魔物は【隠蔽】の魔法でそれなりにやり過ごせたが、鼻の利く【森林狼】や草木を踏み分ける音を聞き逃してくれない【一角兎】には気付かれてしまう。
そうした敵をやり過ごしながら(試しに齧った兎の角はポリポリしてて美味しかった)、段々と木々が減り明るくなる森を進む。
森の出口が見えた辺りで、
「キャー--!!」
という甲高い女の子の声が突如聞こえてきた。
声がした場所を探っているとら、再度「イヤっ、お兄ちゃん---!」という絶叫が響き渡る。
急いでそちら-道から外れた森の中-へ向かって走っていくと、ぽっかりとそこだけ木々がなく開けた場所に出た。
そこは太陽のが直接降り注ぎ、その先に生える草花を明るく照らしている綺麗な場所だった。
だがそこには3体の【森林狼】に囲まれて手や足や腹へ噛みつかれている男の子と、2体の【森林狼】に左右を挟み込まれ今にも噛みつかれそうな女の子がいた。
『---!!! 【岩槍隆起】! 【石壁】!!!』
咄嗟に男の子に噛みつく狼を岩槍で串刺しにし、女の子を石壁で守るための魔法を放つ。
足元の地面が揺れる感覚で気付いたのであろう、狼の真下から隆起した岩槍は避けられてしまった。
石壁はなんとか効果を発揮してくれたので、男の子の下へ駆け寄りながら、女の子を【ストーン・ウォール】で創った箱で囲む。
ようやく男の子の下に辿りつくと、男の子の意識は既になく噛まれた場所から血が流れている。
特に腹の傷からは内臓が見えてしまっていて、このままだと危ないことは素人目にも明らかだ。
とにかく急いで敵を片付けねばと【ストーン・バレット 散】で攻撃をしかけるが、俊敏な動きで石礫を避けられてしまい、かすり傷しか負わせられない。
だがその行動で狼の敵意が完全にこちらに向いたのが分かったので、男の子を石壁で囲い守る。
(早く、早くなんとかしないと、男の子が---!!!)
焦る気持ちが空回りし頭が真っ白になる。
とにかく【ストーン・バレット】を連射するが、幾ら『面』を制圧する程の石礫を飛ばそうとも、相手は5体いる。
目の前の狼を攻撃すると、残った狼は散らばり左右や背後から襲いかかってくる。
狼の攻撃は身体の表面を覆う水晶部分を僅かに削る程度だが、時間をかける訳にはいかない。
(どうしよう。どうしたらいいんだよー--!!!)
背後から飛びかかってきた狼を尻尾で殴り飛ばし、羽に齧り付いてきたヤツを力任せに振り払った、
その時だった。
一陣の風が吹いたかと思うと、自分に飛びかかってきた2匹の狼の首が落ちる。吹き出す血が顔にかかりそうになり、咄嗟に顔の前で腕を組み目を閉じる。
そして次に目を開けた視界の先には、一瞬で3体の狼を仕留め終えた、男の背中があった。
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男は背が高く、黒い外套を翻して立っていた。
髪は燃え盛る炎のような色をしており、傾いてきた陽の光に照らされて背中に届きそうな長さの髪は紅蓮のごとく煌めいている。
逞しいが引き締まった腕は金色の篭手で覆われ、男の背丈程の大剣を握っていた。
しばらく男の姿を眺めてしまっていたが、今はそれ所ではない。
兎にも角にも、男の子のことだ。
急いで兄妹を囲う石壁を崩す。
突然壁に囲まれて周りが見えなくなり、視界が開けた後は首が無くなった5体の狼の死骸が転がり男と新たな魔物(俺のことだ)がいる。
そんなワケの分からない状況に追い込まれていた女の子は少しの間呆然と座り込んでいたが、やがて兄の姿が見えると
「お兄ちゃん!!!」
転びそうになりながらも必死に駆け寄ってその身体に縋りつく。
自分にも何かできることは無いかと男の子の所に駆け寄ってみるが、小さなその身体は既に虫の息だ。
なんとか【治癒】出来ないかと魔力を集めてみるが、土の魔力も光の魔力でも魔法は発動しない。
ふと、これまで使い道が分からなかった【何も感じないが存在することが分かる力】のことを思い出す。
藁にも縋る思いでその力を練り上げ、必死に【傷口を塞ぐ】ことをイメージし、そこに練った魔力を落としこむ。
すると練った魔力が身体から抜けて男の子の身体の傷が塞がり始めた。
魔法が発動したのだ。
だがそれは、
傷ついた内臓を癒すことは無く、ただ【徐々に傷口が塞がっていくだけ】だったのだ。
魔法はイメージした現象を魔力によって現実の物とする力だ。
だから、ただ傷口を塞ぐことだけイメージしただけでは、それだけのことしか起きないのだ。
変に傷口が塞がってしまう前に、魔法を解除する。
(どうしよう、どうしよう-! 人間の身体の正確な構造なんて知らねぇよ!!!)
ここで何とか出来なければ、男の子は ---死ぬ。
焦りから何もイメージができず、絶望感に苛まれていると、
「これを使え」
今まで存在を忘れていた男が、何やら繊細な細工が施され透明な水晶が嵌め込まれた腕輪を差し出してきた。
「ぴぎゃ?(え?)」
と思わず声が漏れる。
それで意図したことが伝わらなかったことを察した男が再度言葉を重ねてくる。
「その腕輪を着けてもう一度【治癒】を使え。その腕輪がどのように力をふるえば良いか導いてくれる。」
そうして再度腕輪を差し出してくる。
一瞬、男が自分でその腕輪を使い【治癒】を行えばいいんじゃないかとも思ったが、今は一刻を争う事態だ。
男から腕輪を受け取り、再度【治癒】の力を練り上げる。
すると【ストーン・バレット】の魔法を覚えたときと同じように、腕輪から正しいイメージが流れ込んでくる。
流れ込むイメージのまま力を練り上げ魔法を発動すると、男の子の傷口が眩く光だし---
顔色は悪いままだったが、傷が完全に治った姿があったのだった。
実際に自分で書いてみることで、偉大なる書き手の皆様の凄さをひしひしと感じています。
数ある素晴らしい作品たちの中から、この様なお話をご覧下さり本当にありがとうございます!




