10話
男たちの姿を木の上から見送ってから、一夜が明けた。
あれから色々思うところもあったが、とにかく疲れていたため、そう間をおかずして寝てしまったようだった。
幸いにも夜の間は誰に襲われることも無かったので、朝までぐっすり寝れたこともあり疲れはほとんどとれた。
だが鉱山を出てからはまとも(?)な食事にありつけていないため腹が減っており、そのせいか特に魔力がこれまでと比べるとあまり回復していない。
空腹を紛らわせようと試しに木を齧ってみたが、単なる木屑となったモノがジョリジョリと口の中で暴れ回る感触しかなく、とても呑み込めたものでは無い。
木の実がなっている訳でもなく、他に食べれそうなものといえば見渡す限りでは葉っぱぐらいしかなさそうだ。
仕方なく空腹を満たすのは後回しにして、当初の予定だった木登りを再開することにしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
明け方から登り始めて太陽がちょうど真上に来る頃。
あれからひたすら無心に登り続け、ついに木の頂上まで辿り着くことができた。
既に周囲を遮るものなど無く、そこから見える光景は疲れをしばしの間忘れさせてくれる。
森はちょうどこの木を中心に広がっていて、鉱山が北側にあると仮定すると南側には海が広がっている。
太陽の光を弾いて燦く青い海には港街があるようで、石造りの壁で覆われた街の先に広がる海には、たくさんの帆船がその姿を誇るかのように堂々たる姿で帆を張りながらせわしなく行き交っている。
その中でも、一際豪華な帆船が目についた。
箱根の遊覧船のような姿のそれは、始めは他の帆船同様にそのまま海を進んでいくものと思われたが、驚いたことに、港から十分距離をとった次の瞬間空へと飛び立ったのだ。
そして空へと浮かんだ船は、おもむろに船首を翻し旋回を始める。船の行く先が気になりそのまま目で追っていると、どうやらその船はこの森の西側へと向かうらしい。
西側はどんな場所かと目をやると、この森から道が真っ直ぐ西に向かって伸びているのが見える。森の西側は広大な草原となっており、西へ伸びる道から分岐した先にはあの港へ繋がる道もあるようだ。
そして森から西へと続く道はいったいどこへ繋がっているのだろうと視線を戻すと、草原の先は砂漠となっていて、件の空飛ぶ船はどうやらそこへ向かっているようだ。
最後に森の東側… 昨日、3人組の男達が来た方の道を見やると、森を抜けた先には鉱山に連なる山から川が流れている。
その川に架かる橋を渡った先に、山を背にした石造りの壁で囲われた街があった。
他にもポツポツと小さな村や畑などが広がっているが、目立つ所はこんな感じだろうか。
人が住む場所についておおよその位置が分かったことで、どこに行くか考える。
純粋に行きたい場所を挙げるならば、港街へ行きたい。
クロアチアのような造りをしていた街は散歩するだけでも楽しそうだし、多くの船が行き交う様からは色々な人や物が集まっていそうでワクワクする。
だが、港街へ行くのは難しそうだ。
この森を抜けて港街へ向かった場合、途中の道は開けた場所にあり身を隠せそうなところが少なかった。
また街は石壁に囲われており、陸地から街に入るためには石壁にある門を通らないと入れないようだった。
この森の東側にある街も同じように門を通らないと入れないようだが、街とこの森は比較的近い。
街に着くまでに何かあれば、すぐ逃げ戻ってこよう。そして森の先にある川を渡れた後は、道を外れて山沿いに進めば多少は安全に進めるだろう。
(とりあえず、東の街へ向かおう)
東の街へ行って、人がどんな生活をしているのか見てみよう。
そう決めると、木から降り始めた。
数多ある素晴らしい作品たちの中からこの様なお話をご覧下さって、本当にありがとうございます。
読ん下さる方がいる奇跡に感謝いたします!




