表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

タロウ、検証する?

『ひのきのぼう』ときたら『こんぼう』ですね!

 

 数多くの魔物が棲息する森林とは言え、農村Aから直ぐの辺りは実に穏やかである。森林の中は木漏れ日が射し込む為に暗くも無く、時おりサラサラと吹き抜ける風が心地好い。絶好の検証日和というものだ。


 さて。そんな西の森林へと来たのは良いが、都合良くスライムは現れてくれるだろうか。


「『努力』を検証するにしても、今の俺にはスライム以外は倒せん。しかも、木の棒も折れる寸前だし……」


 王都に向かう街道でスライムを倒したのは良いが、やはり腐った木の棒で戦闘したのは無理があった。いくら最弱の魔物のスライムとは言え、こんな腐った木の棒でよく勝てたと思う。


「……仕方ない。先ずは新たなる武器……『頑丈な木の棒』を手に入れるしかあるまい!」


 幸いにもここは森林の中、武器になりそうな木の棒は腐る程ある筈だ。腐るほどと言っても、本当に腐った木の棒は要らん。そんなもんを手に入れたら元の木阿弥である。


「うーん……木の棒、木の棒……おっ?」


 頑丈な木の棒を探して辺りを散策すると、何と棍棒の様な木材を発見した。これは運が良い。主人公特性というものだろうか。


 俺は迷わずそれを拾い、装備してみた。


「頑丈と言えば檜の棒だろうと探してみたが、まさか棍棒が手に入るとは……! やはり主人公とはこうあるべきだな!」


 棍棒にすれば何だか軽い気がするが、壊れかけの腐った木の棒よりはマシだろう。どちらにせよ、武技を使えない俺では殴る事しか出来ないし。


 経緯はどうあれ、武器となる物は手に入れた。後は、スライムを探して倒すだけである。

 武器となる物を探して、幸先良く直ぐに棍棒を手に入れる事が出来たのだ。きっとスライムだって直ぐに見つかるだろう。主人公特性に期待したい。


 そう思い、俺は鼻歌交じりにスライムを求めて森林を歩き始めた。


「見付けた……! けど、二匹も居るのかよ!?」


 そこで何をしているのかは分からんが、一本の木の根本でプヨプヨとじゃれ合う二匹のスライムを見付けた。まさか、カップルという訳じゃあるまいな? なんとうらやま……けしからんスライムだ! 前世を含めて、俺は未だに彼女の一人も出来た事が無いと言うのに……!


「ピッキュ?」

「ピッキュピッキュ!」


 楽しそうに語らう(?)二匹のスライム。実に腹立たしいが、よく良く見ると……体の大きさは同じだが色が若干違う。水色の濃いのと薄いのが居るのだ。もしや水色の濃い方がオスだろうか?

 オスメスはともかく、相変わらずどこから声を出しているのか分からんスライムだが、『努力』を検証する為にはとにかく戦わねばなるまい。

 腐った木の棒と、何だか軽い棍棒を両手に装備し、俺はなんちゃって二刀流の構えを取りながら二匹のスライムへと近付いた。


「ゴクリ……ッ!」


 ジリジリと少しずつ、出来るだけ足音を起てない様にスライムへと近付いて行く。落ち葉を踏む音がやけに大きく聞こえた。

 俺は緊張のあまり、知らず知らず生唾を飲み込んでいた。間合いまで、後少しだ。気付くなよ?


「――ッ!? くっそ、気付かれた! うりゃあぁぁぁああッ!!」


「ピッキィー!」

「ピキュー!」


 不意打ちは失敗に終わった。寸前で枯れ枝を踏んでしまったのだ。

 ペキッと小気味よい音が響くと同時、スライム達は俺の方に振り向くと、二匹同時に飛び掛って来た。俺も咄嗟に棍棒を振り上げて攻撃を仕掛けたが、村人である為やはり戦いは素人。二匹のスライムの体当たりを喰らってしまった。


 ――ズムッ! ……ッキィーーンッ!!!?

「ぐ……! ハゥッ!?」


 ――2ポイントのダメージを受けました。

 ――急所に直撃! 10ポイントのダメージを受けました。


 痛恨の一撃とでも言うのだろうか。一匹目の体当たりは何とか腹で済んだが、二匹目の体当たりは見事に俺の股間をヒットした。激しい痛みに吐き気を催す。同時に涙も出て来た。


「ピッキュッキュ!」

「ピキャー!」


 股間の激しい痛みに耐え、涙ながらに二匹のスライムを見ると、勝ち誇っているかの様にポヨンポヨンとリズミカルに跳ねている。くそ……スライムのくせに!


 そうは思えど、スライムは二匹。一匹なら問題ないが、二匹同時は勝てない事はないかもしれんがさすがに骨が折れそうだ。

 だが、股間への痛恨の一撃で、既に俺の体力は半分近くにまで減っている。どうする……? 逃げて出直すか?

 いや……こんな時こその努力だろう。決して諦めず、倒す事の努力をすればきっと報われる筈だ。


 ――ユニークスキル『努力』の効果により、運が1ポイント上がりました。


「え……?」


 突然聞こえる脳内アナウンス。俺は思わず疑問の声を上げた。うむ、何を努力したのか全く分からん。

 ともあれ、運が上がったという事は、何かしらの行動を起こせば良い結果になるという事だ。

 そこで俺はピーンと閃く。この方法ならば、スライムを同時に相手しなくて済むかもしれない。


「イチャイチャしてられるのも今の内だ! これでも喰らえ!!」


 俺は左手に持った腐った木の棒をわざとらしく振り、スライムに見せ付ける様にして投げた。……あさっての方向へと。


「ピキュ? ピキィー!」

「ピッキュ!? ピ、ピキュー……?」


 色が薄い方のスライムが、俺の投げた腐った木の棒を追い掛けて行く。残されたスライムは動揺を見せた。狙い通りだ。上がった運の効果は絶大である!


「今度こそ喰らえ! 棍棒アターック!!」


 棍棒を高々と両手で振り上げ、動揺のあまり右往左往しているスライム目掛けて力一杯に振り下ろす。死んで俺の糧となるがいい。


 ボグッ! ……バギィッ!!

「……は? エエエーッ!!!?」


 スライムの形が変わる程に打撃を与えた瞬間、棍棒は呆気なくへし折れてしまった。上がった運の効果とは何ぞや?


「ピ、ビギィィィッ!!」


「ぐはあぁぁぁっ!」


 ――5ポイントのダメージを受けました。


 折れてしまった棍棒に気を取られた俺に、怒り心頭のスライムは体当たりをかます。ヤバい……効いた。

 今ので、二匹のスライムとの戦闘開始から、計17ポイントのダメージを喰らってしまった。残りの体力は10ポイントしか無い。

 体力は時間と共に自然回復するが、一時間に1ポイントしか回復しない。もしも木の棒を追って行ったスライムが戻って来たら、間違いなく俺は死んでしまうだろう。


 ――ユニークスキル『努力』の効果により、HPが5ポイント増加しました。


 死の足音が忍び寄る俺に、再び聞こえた脳内アナウンス。HPが5ポイント増加したという事は、今のHPは15ポイント残ってるって事か。だとしたら……行けるか?

 折れてしまったが、棍棒の一撃はスライムに大ダメージを与えた様だ。俺に体当たりした後、体力の回復を図る様にその場で動かずにプルプルしている。武器は無くとも、素手で何回も殴れば倒せるかもしれない。


 いや! 殺らなきゃ殺られる、殺るしか無い!!


「奥義! 『俺流百叩き拳!』ホアチャアァァァッ!!!!!!」


 前世で見たアニメの技を元に、俺流にアレンジして必殺拳を放つ。言うなれば、駄々っ子パンチである。一撃一撃は大した事は無いだろうが、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる論理だ。ん? 塵も積もれば山となる論理の方か?


「ピ!? ピ! ピキ! ピ、キィ……ィィ……ィ……」


 ――魔物名、スライムを倒しました。1ポイントの経験値を獲得しました。1ゼルを手に入れました。ユニークスキル『努力』の効果により、力が1ポイント上がりました。


「何とか一匹は仕留める事が出来たけど、『努力』の効果は経験値だけじゃ無いんだな。だけど、理解出来た!」


 ユニークスキル『努力』は、何かを真剣に努力すれば効果が現れるというものだった。現に、スライムとの戦闘で体力や力の数値が上がったんだからな。何故運が上がったのかは謎である。


 しかし、そうとなれば予定を変更せざるを得まい。


 もしも今の状態で遊び人に転職しても、弱ければ魔物との戦闘に勝てず、結果、経験値を稼ぐ事も出来ずに死ぬのがオチだろう。


「決めた! 遊び人に転職するのは来年……16歳になってからだ!」


 夢の為にも、先ずは徹底的に体を鍛えよう。急がば回れ、である。急いては事を仕損じるとも言うしな。


 俺は拳を握り、決意を新たにするのであった。


「ピキィー!」


「ぐへえぇぇぇ!」


 ――5ポイントのダメージを受けました。


 ……スライムがもう一匹居た事を忘れてた……。

お読み下さり、真にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ