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タロウ、旅立つ?

初めての戦闘と言えばスライムですよね!

 

 剣と魔法が支配するこの世界で、俺が生まれ育った村の名は無い。仮に、農村Aとしよう。

 農村Aは、『キングダム』という王国の西の外れにある、とても小さな村だ。周りには長閑な田園が広がり、西には広大な森林が国境を越えて隣の国にまで広がっている。

 その広大な森林には数多くの魔物が棲息しており、農村Aは言うなれば辺境と呼べるかもしれない。魔物のお陰で隣国から侵略される事は無いが、うっかり森林に迷い込むと命は無い。腕に覚えのある冒険者などは率先して入る様だが。


 それ程危険な場所に農村Aは在るのだが、村を囲う木で作られた柵を越えて魔物が襲って来る事は無い。魔物の習性なのか、それともこの世界のシステムなのかは分からんが、人間からすればありがたい事である。

 ちなみに国の名前を俺の前世の言葉で訳すと、『キングダム(王国)王国』となる。ふざけてるのかとツッコミたくなるが、こちらの世界では歴とした由緒ある名前の王国なので如何ともし難い。


 そのキングダム王国の王都へと、俺は村から唯一延びる街道を通り向かっている。もちろん、転職する為にだ。


 今現在の俺の職業は『村人』である。村人が職業と言うのはアレだが、とにかく村人だ。前世で俺が愛読したラノベの中には村人が無双するという物があったが、とりあえず俺が目指しているのは遊び人だ。村人のままレベルを上げるという選択肢は決して無い。心惹かれる物はあるが。


 ちなみに、職業『村人』のステータス補正は、力と体力が僅かばかり上昇するという物だ。知力、魔力、素早さは一切上がらない。


 村人Aでしか無い俺のステータスはこれだ。


「ステータスオープン!」


 あ、今唱えたのは、ステータスを開示する為の魔法だ。在り来りだが、在り来りとは言わない様にしてくれ。

 ちなみに誰もが使える魔法だが、何故使えるのかは知らん。そういうシステムなのだろう。


 ♦♦♦


 名前:タロウ

 LV:2

 職業:村人


 HP:27

 MP:12


 力:3(+3)

 体力:2(+3)

 知力:3

 魔力:2

 素早さ:3

 運:5

 経験値:15

 スキル:無し


 ユニークスキル:【努力】


 ♦♦♦


 スキルは無いのに、ユニークスキルが努力なんて悲しすぎる。女神が言っていた、努力チートなる物がこれに当たるのだろう。

 だが、夢の為には努力も惜しまない所存である。全力で遊びたおすのだ!


 ともあれ……


「先ずはスライムを倒さねばなるまい!」


 ……街道を王都へと進む俺の前に、プルンとツヤがあり、水色の丸くて憎めない魔物がポヨポヨと弾んで、楽しげに道を通せんぼしているのだ。定番と言えば定番だな。


 ふっふっふ……!


 この世界で、生まれて初めてとなるスライムとの戦闘……実に楽しみである!

 ちなみにだが、俺の装備は布の服に布のズボン、そして下着は定番のアレ……ステテコパンツだ!

 更に言えば、武器は家にあった、壊れてしまった農具の腐った木の棒と、ひび割れて使えなくなったお鍋のフタだ。

 農業を営んでいた実家に、マトモな武器や防具を買う余裕なんてものは無い。ましてや、日々の生活を送るだけでもやっとなのである。俺が装備してる物だけでも、持ち出すのに何度も父さんに頭を下げたのだ!


「さあ……どこからでも掛かって来るがいい!」


「ピキィー!」


 俺は腐った木の棒を右手に持ち、ひび割れたお鍋のフタを左手に構えてスライムの出方を待つ。さすがに、初めての魔物との戦闘だけあって緊張してるのか、頬を一筋の汗が伝った。

 この世界のスライムに可愛らしい顔は無いが、俺が緊張してるのが分かったのか、プルプルと揺れて余裕の雰囲気だ。心做しか、スライムの声も楽しげである。……発声器官があるのだろうか?


「ピキュ……ピッキィー!」


 ジリジリと間合いを詰める俺に対し、楽しげに揺れていたスライムは一変……凄まじい勢いで体当たりを仕掛けて来る。くっ!? ひび割れたお鍋のフタで受け止められるのか!?


 バッキーン!!

「あ……ぐへぇぇぇ!!」


 ――3ポイントのダメージを受けました。


 お鍋のフタで受け止めようとしたが、フタはあえなく壊れる。俺は見事にスライムの体当たりを腹へと受ける事となった。

 初めてこの世界でダメージという物を喰らったが、ご丁寧に脳内アナウンスが流れた。誰が喋ってるのかは謎である。


「くっそぉ! スライムのくせに意外と強えじゃないか!」


「ピッキュピッキュ!」


 俺に体当たりをかました後、元の場所へと戻り余裕を見せつけるスライムは、再びポヨポヨと弾みながら俺の出方を待っている。見た目は可愛らしいが、その様子を見ると腹も立ってくるというものだ。

 だが、その余裕もここまでだ。父さんの農業の手伝いで鍛えた力を見せてくれる!


 俺は壊れてしまったお鍋のフタを投げ捨て、腐った木の棒を両手で持って中段で構えた。俗に言う、正眼の構えというやつである。


「余裕で居られるのも今の内だ……! 喰らえ! 必殺の……『百叩き!』――どりゃあぁぁぁぁあ!!!!」


 正眼の構えから繰り出される必殺技に、スライムも慌てふためいている。……気がする。


 …………。


 と、ともかく、俺の攻撃で沈むがいいさ!


 正眼の構えから木の棒を頭上に高々と振り上げ、型も何も無くただひたすらにスライム目掛けて何度も振り下ろす。そうさ、俺に武技なんて使えるはずは無い、だって農民だもの。とにかく反撃されない様に叩きまくった。

 だが、弾力あるその体に、俺の攻撃が効いているのか不安になる。


「ピキィ!? ピ、ピキィィィ……」


 どうやら効いていた様だ。スライムは断末魔の声を上げた後、ピクリとも動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……! やった! 俺にも倒せた……倒せたぞぉーッ!!!!」


 ――魔物名、スライムを倒しました。1ポイントの経験値を獲得しました。1ゼルを手に入れました。ユニークスキル『努力』の効果により、更に経験値を1ポイント獲得しました。


「……え?」


 初めての魔物、スライムを倒したが、死に行く様は可愛さからはほど遠いものである。ドロドロと溶けて行き、地面に吸い込まれる様にして消えていった。後には何も残らない。

 ちなみにだが、魔物を倒して手に入れたお金などは、自然に『収納空間(インベントリ)』へと入る。俺が収納出来る容量は微々たる物だが、レベルが上がれば容量も増えるらしい。お金については無限に収納されるらしいが、貧乏農家の生まれの俺にその様な大金が入る事は無い。全てはこれからの活躍に掛かっているのだ。


 ともあれ、完全にスライムが消滅した所で、脳内アナウンスがスライムを倒した事を告げてくる。だが、聞き流せない言葉があった。


 ユニークスキルの努力の効果……? その効果で、更に経験値が貰えた?


「ま、まさか……女神様に貰った『努力チート』って、本当にチートだったのか……?」


 もしも本当にチートなら、是非とも試さねばなるまい。だが、疑念もある。

 経験値が更に貰えるというならば、それは経験値ブーストとかそんなユニークスキルの筈だ。それなのに、俺のステータスには努力とだけ示されている。これは検証せねばなるまい。


 俺は王都へ行くのを取り止め、急ぎ農村Aへと戻った。


「ただいまぁー!」


 今にも崩れそうな実家……もとい、俺の生家の扉を抜け、農家を営む両親へと元気良く挨拶をする。俺は意外と礼儀正しいのだ。


「ハッハッハッハ!! 随分と早い里帰りだな?」

「やっぱり考え直してくれたのね? おかえり、タロウ!」


 朝に家を出て、少し進んだ所でスライムを倒して戻って来たが、両親はまだ家に居た。母さんはともかく、父さんは皮肉で出迎えてくれたが、今日の農作業は休みだろうか? まぁ、いい。


「やり忘れた事を思い出して戻って来たんだよ! だから、出発は少し先に延ばす事にしたんだ」

「そう言って……本当は母さんに会えない寂しさから戻って来たんだろ? 父さん、お前の事は何だって分かるんだからな!」

「まぁまぁ、甘えんぼさんなんだから♪」

「と、とりあえず、やり忘れた事をして来るからな! ……夕飯までには戻るよ」


 やはり、両親との会話がグダグダになってしまったが、とにもかくにもユニークスキル『努力』の検証だ。

 嬉しそうにニヤニヤと笑う両親に夕飯までには戻ると言い残し、俺は村の西に広がる森林へと向かった。

お読み下さり、真にありがとうございます!

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