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第二章、その3

 下通アーケード街の通町筋(とおりちょうすじ)方面を歩くと、いつもは通り過ぎる途中の銀座通りとの交差点を渡った所で左に曲がり、少し歩くと見つけ辛い場所に案内板が置かれて、ホテルのフロントに通じるエレベーターの横にその紅茶の喫茶店があった。

「美味しい……このお店だったのね、前にお姉ちゃんが話してたわ」

 千秋は感慨深そうにアイスティーを一口飲むと、決して広いとは言えないがお洒落な店内を見回す。

 春菜は美味しそうにホットサンドを頬張って飲み込む。

「うまい! 夏海、このお店いいじゃん!」

「よかった……春菜ちゃんモスバーグとかマクミランとかよく行くから」

 夏海はホッと胸を撫で下ろし、光はここでデートとかに良さそうだと見回しながらアイスティーを飲む。ホットサンドを食べ終えると、冬花は鞄からノートを取り出す。

「それじゃあみんな、早速夏休みの予定決めよ!」

「うん、まず八月三一日の夜にみんなで彗星を見上げる。その前にみんなで湘南に行くのはお盆休みのシーズンが終わってから――」

 望はスマホで手早く飛行機とホテルの予約を済ませる。さすが金持ちの子だ、格安航空会社(LCC)ではなく大手航空会社の極東(きょくとう)空輸(くうゆ)――FEAの航空券を取る。

 曰く、羽田に国内線のLCCは飛んでないらしい。

「湘南旅行に、そこで海水浴、花火も見たいな……そうだ!」

 春菜は悪戯を思いついた小さな子供のようにふざけて夏休みの予定に混じって「夏休みの宿題」「テニス部復帰」「夏期講習」とノートに書いてその上で太い赤ペンで×印を付けると、スマホで撮ってにSNSにアップすると千秋は微かに微笑む。

「大丈夫なの? 大神に見られたら最悪よ」

「大丈夫大丈夫、あんなアナログ人間の大神がSNSなんか見ないって」

 春菜は根拠のない楽観的なことを言う、それ目茶苦茶危ない気がするんだけど。

「江ノ島の近くに水族館もあるからそこにも行こう!」

 冬花の意見で更に予定が加わる。

 光は八月に開催される火の国まつりに行こうと提案、勿論みんな賛成してくれて二時半を回ったところで水着とかを買いに行こうと言うが、夏海は不安を口にする。

「でも吹部のみんなや先生に見つかったりしないよね?」

「大丈夫大丈夫、あいつらはこの時間なら練習してるし……ないとしても、真面目に自主練してるさ」

 春菜は呑気に言う、確かにこの時間なら吹部は勿論、大抵の部も練習してるだろう。

 だが、千秋の表情は険しかった。

「でも町に出れば先生にだって鉢合わせする可能性もあるわ……希望的観測や根拠のない楽観は禁物よ」

「大丈夫よ。なにも深夜徘徊するわけじゃないし、吹部の人たちなら、あたしたちがなんとかすればいいよ」

 冬花の表情は頼もしくて具体的ではないが確かに言う通りだ、春菜も頷いて同調する。

「そうだよ! せっかくの夏休みなのに怯えていたら何もできないよ!」

「もし見つかったら人混みに紛れ込んで逃げればいいしね!」

 望は言うが光はもう一つの不安要素を口にする。

「だけど学校帰りとはいえ制服姿はあまりにも目立ち過ぎる。明日は平日だから大抵の部活は練習してると思う、念のため明日にした方がいいかも?」

「う~ん……それじゃあ今日のところはもう解散して、明日の午前一〇時くらいに辛島(からしま)公園に集合しよ!」

 春菜は少し考え込んで言うと席を立って思いっきり背伸びする、制服のボタンが弾け飛ぶんじゃないかと思うくらいの豊満な乳房が強調される。

 千秋は羨望と嫉妬が入り混じった眼差しで、冬花は「おおっ……」と言わんばかりに見つめていた。

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