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二つに別けた前髪に、長い髪が腰まで垂れる。ブロンドに染めたストレートの髪は艶を持ち、頭の丸い形に添って環状の光沢を持たせて輝く。ハッキリとした目立ち鼻立ちに、胸元の緩い黒のシンプルなシャツを着て、銀の装具が目立つ黒炭色のジャケットを上から一枚羽織っている。脚線の目立つジーンズは上半身と似た色合いで、一部ダメージを負い白い肌が露出していた。
彼女、即ち具現の勇者は装甲車から飛び降りて、立ち上がると同時に少しよろめく。彼女の履いた黒いブーツはメイスのブーツと全く逆の役割を持ち、動きやすさや防具としての意味合いよりも、ファッションとしての側面が強く押しだされていた。
「ドレイクちゃんの言った通りだ。ここで待ってれば必ず一人は来るだろうって」
彼女はヘッドホンを外して首に引っ掛ける。青いランプで明滅し、正常に動作している証であった。
「まぁまぁ、そんなに睨まないでよ。私はニセモノちゃんを助ける為に来てあげたんだからさ」
共通語で話す彼女は珍しくどこか楽しげで、素敵な事を考え付いた幼い子供のようだった。何事も無い時ならばいっしょになって笑っていたのかもしれない。だが今は、銃口を突きつけられたこの状況下では、到底笑う気になるはずも無かった。
「当然察しは着いていると思うけど、ニセモノちゃんの討伐依頼が出ているんだよね。依頼主は勇者ギルドそのもの。世界規模の組織を敵にまわしちゃった訳だけど、紫ランクの私なら依頼を覆す事が出来る。もちろん、これでお話しをしてって意味だけどね」
具現の勇者は親指で背後の装甲車を示す。
「私の具現化魔法なら世界を敵に回したって、この地球ごと破壊する事だってできる訳だけど。いくつか問題点もあるんだよね。例えば雷ちゃんだとか、レインちゃんとかドレイクちゃんもそうだよね。あの子達、特に雷ちゃんがこの世界を仕切っているようなもんなんだけど、私的にはそれってどうよって思う訳よ。そこで提案なんだけど。私達。手を組まない?」
彼女の胸元で小さな銀のネックレスが鋭い光で輝き放つ。鋭利な光はメイスの胸を刺し貫いて、真直ぐ照らし上げている。無言を貫く彼女に対し、具現の勇者は言葉を続けた。
「知っていると思うけど、自動化された装備なら指先一つで扱える。でも銃とかナイフとか、そういうのは全然ダメなんだよね。私が直接撃ってもいいけどほら、か弱い私の力じゃうまく扱えなくってさ。重いし、肩は痛いしで、一発撃ったらもう無理。かと言って、ゴリラになるのは勘弁だし? そこで私の代わりに火器を扱えるような人材が欲しい訳よ。それも沢山ね。で、思ったんだけど。適任がいるじゃん、ほら目の前に。力もあるし、傷付いたって死なないし、おまけに好きなように増やせるし。訓練だって必要無い。これほど兵士に適した人材が他にいる?」
相も変わらず、投光器からは強力すぎる光が煌々と放たれている。どこからか現れた黒い羽虫が投光器の光の中へと飛び込んで、小さな音を立て焼け死んだ。
「無限の装備に不死の軍勢。私とアンタが手を取り合えば、雷ちゃんだって追い抜ける。そうは思わない? 不滅の勇者、ミツキちゃん?」
具現の勇者はオートマチックの銃を生み出し、それをメイスに投げてよこす。銀色のスライド式の銃は石畳みの上を、音を立て弾みメイスのブーツへ当たって止まった。
「一日三食、昼寝は無いけど依頼がない日は許してあげる。どう? 魅力的だと思わない? そんなカビの生えたみたいな古い武器なんて捨てちゃってさ。銃を使おう? 剣より簡単お手軽だよ? 銃に剣じゃ勝てないんだからさ。こっちにしなよ? ね?」
「断る」
メイスは銃を踏みつける。銀の銃はパーツごとに飛び散って内部が無残に露わとなった。薬莢に詰まった黄銅色の弾丸が透き通った音を響かせながら転がっていく。やがてそれは弾みをつけて高く跳ねると、分解されて元の魔力へ還元された。