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 喰いついた。

 帝都上空で光った雷を見てメイスは立ち上がる。脇に備えた槍と盾を持ち、近くの馬の手綱を取り上げる。わずか数十秒の間にも、断続的に発生した雷は一層大きく、強い雷鳴となっていた。彼女は軽い身のこなしで鞍の上に飛び乗ると、盾と、そして槍を手に、馬の腹へと拍車を入れた。

 大型の馬はメイスに従い、通りへ飛び出し帝都へ向かう。なだらかな斜面を下るにつれて、徐々に速度を増していく。メイスは斜面を満たす高原植物の花弁と共に、通りを駆け下り貧相な街並みへと突入する。

 響き渡る爆音と、雷鳴に人々は驚き逃げ惑う。怒声と、悲鳴と泣き声が、そこら中から上がり不協和音を奏でている。先の平たい槍を脇の下で押さえつけて、不況和音の奏者達を片っ端から貫いていく。

 大型の動物がぶつかるような感覚が槍の穂先から柄、そしてメイスの腕に身体へと感じられる。強い反動を受ける度に和音は一層強く鳴り、地面に激しく激突するか、はたまた鮮血と共に炸裂するかのいずれかだった。

 兵士の放った矢を防ぎ、相手にすらせず突き進む。頑丈な盾は矢の一本、二本では傷の一つも受け付けず、使い手を守護して自らの存在価値を示していた。

 ソードと魔神が上手くやっているのだろう。兵士の数は少なくあった。逃げ惑う一般人と、たまたま警邏していただろう、不運な兵士の数人だけで、これと言った武装も着けている様子も無い。完全武装のメイスに対して、彼らの武装は玩具のような代物だった。

 まもなく第一の壁に到達しようと言う頃だった。勢いの衰えぬメイスの頭上から風切り音が鳴り渡る。幾本もの矢を受け止め慣れてしまった彼女は、碌にそちらを見もせずに盾を構えて身構える。徐々に近づく笛の音は、いつにもまして大きな音で響き渡り、彼女のすぐ目と鼻の先に激しい爆音と熱風を合わせて産み出しメイスの身体を吹き飛ばした。

 どうせただの矢だと、せいぜい盾で防げるものと思い込んでいただけに、手酷く地面を転がり落ちる。酷い耳鳴りと頭痛の中、やっとのことで身体を起こす。槍も盾も衝撃により吹き飛んで、馬の姿もそこに無い。代わりにちょっとした血溜まりと、焼け焦げたような跡だけが嫌な臭いと共に広がっているだけだった。

 明らかに矢ではない何か。その正体は直ぐにわかった。ベージュの迷彩の砲塔を備えた戦車や装甲車、空にはドローンに水平複座のヘリコプター、加えて赤いランプの灯るターレット、そして四方から太陽よりも眩い光を投げかける投光器がメイスの全てを照らし尽す。目に鼻、口に、まつ毛まで一本一本ハッキリと、三百六十度強力すぎる光によって彼女の姿を全方位から映しあげていた。

 腹の底から響くようなエンジン音が響く中、目元に手をやり遮って光と風の向こうに目を向ける。丁度、正面に斜めに止まる装甲車の上だ。少女が腰かけスマホを弄っている。ヘッドホンを付けた彼女は二、三フリックをした後に顔を上げると、スマホを背後へ投げやった。

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