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翌朝、まだ陽が昇る前。ミツキ達は早くも起き出し、準備にかかる。
万能ベルトをパンツに通し、グローブのバンドを二カ所で止める。革製の防具を胴に装着すると、四つのナイフを両手両足に着けた。これを基本の型として、自らの名前に合った武器を身に着ける。
ソードは赤い片手剣、そして普通の片手剣に二本の短剣を腰から下げる。小さな盾を身に着けて、旅隊から奪い取った外套を纏う。最後に両手剣を斜めに掛けると、三点ベルトで固定した。
メイスは三つのメイスに盾とフレイルを一つずつ、クロスは矢筒と二つのクロスボウ、タクトは短剣片手剣を共に二本に金属の杖を背に背負う。
着替えは全て置いていく。そのほか戦闘に使わない道具も全て残していく。そうして整理し、小さなポーチだけで済ませる。もし万が一、着替えが必要になったなら、その時はまた戻って取りに来ればいい。
「ソード。そろそろ時間」
返事もそこそこにして、砂を払い立ち上がる。三人のミツキ達の間を抜けて、馬の首に手を当てる。脈動はグローブ越しでも感じ取れるほど温かく、そして力強い。真っ黒な瞳に映る自分を見ながら、二度、三度、首筋に沿い撫で上げて、山と積まれた盾と槍を手に取った。
重く長く、先端が平たくなった騎兵用の槍に、同じく騎兵用の大きな盾を鞍に付け、黒い毛並みの馬に跨る。相当な重量になるはずであるが馬は何とも思わぬようで、よろめく事さえしなかった。
山と山の合間から陽が昇る。新しい夜明けの光だ。暗さにすっかり慣れ切った目には痛むほどに白く明るい物だった。
全員の準備がようやく整った。各々の馬に跨り、槍と盾を携えて、ブラックジャガーの紋の入った鹵獲した外套を風に膨らます。ソードは三人へと振り返ると槍の柄の先で地を突いた。
「じゃ。予定通りに」
ミツキ達は無言で頷き背を向ける。予定通りに。それ以上の言葉は一切必要ない。それぞれがそれぞれの方角へ姿を消すのを見届けると、馬の鼻先を帝都に向けた。