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一人先に魔族の中を突き進む。叩き切り、殴りねじ伏せながら旧都の中心へと向かう。魔族の中から氷の楔が撃ち放たれて頬を掠める。陸から空から迫る魔族を片端から叩き伏せる。鋭い爪の一撃をバックラーで流して切り上げる。鋼の礫に気づくと咄嗟に転がり避けた。
一体ずつ的確に魔族は倒していく。同時に被弾も多くなるが気にも留めず、自らを治療しながら突き進む。一人先走るソードを何とかフォローしながら、何とか彼女に着いて行く。次から次へと姿を現す魔族の群れに、三人は早くも息が上がりつつあった。
炎の魔法に髪を焦がして、腕で直接牙を防ぐ。噛みついた魔族を無理矢理振り回し、魔法の盾にし投げつける。四足型の魔族を蹴り踏みつけては脳天から剣を刺し貫いた。
切れば切る程敵は増え、牙を、爪を、魔法を使い襲い掛かる。際限ない攻撃は止む事も無く、身を守るために倒しても叫びをあげてなお増え続けた。痛みは全く感じない。傷を負い、骨が折れるその度に、魔法で治療しながら剣を振る。刃はたちまちの欠け鈍らとなり、魔法を受け止めへし折れた。
第二の城壁を越える。獣のような四足、有翼型は徐々にその数を減らし、代わりに人の形をした魔族が姿を現し始める。例に漏れず半実体のぼやけた身体に二足二腕に一頭を持つ。典型的な人型だった。
奴らは皆、武器を持ち魔法を撃ち放ちながら迫り来る。砂を舞い上げる風の魔法を掻い潜り、唸る大剣をバックラーと短剣の二つで受け流す。カウンターに胸、首、頭を順に突き、最後に蹴って突き飛ばす。翼膜を広げ空へと避ける竜人型の魔族に加え、二本の手を付き下をくぐる獣人型の魔族がそれぞれ戦斧と、二本の短剣を振り上げソードに襲い掛かった。
矢とナイフに刺し貫かれて地面を滑る。ハーフリングとウィザード型の魔族をタクトとクロスが突き飛ばし、間髪入れずに現れたエント型をメイスが遠くへ殴り飛ばした。
「アンタは行って。足止めして置く」
崩れかけた城のファサードで、メイスはソードに言い放つ。ソードが何かを言う前にフレイルを抜き反転し、一振りで三体の魔族を吹き飛ばす。翼を広げ彼女を躱して竜人型や獣人型が流れ込む。クロスは矢を新たに装填すると、振り向き放ち、私も残るとソードに言った。
ソードとタクトの二人は長い通路を駆け抜ける。数少ない魔族を片端から切り殴り伏せ蹴り飛ばす。血と汗と砂に泥にまみれながら、休むことなく戦い続ける。タクトの放ったナイフが魔族の頭を貫いて、二人は同時に跳び蹴り広間に飛び出した。
暗く、静かな空間だった。崩落した階段に朽ちたかつてのタペストリー、そして割れ砕け散ったステンドグラスは砂埃の中に埋もれている。重厚な石の壁には隙間なく彫刻が施され、メリハリのない装飾は立体ながら平面的に見えていた。
二人の遥か上の方で影の中から低い唸りと荒い鼻息がする。月の光の影の中に、カンテラの灯を受け鈍く輝く瞳が浮かぶ。大きく重たい足音が地鳴りをもたらし、それはゆっくりと遅々とした動作で光の中に姿を現す。
魔族共通の陽炎のような輪郭に、鱗の付いた太い四つ足に長い尾、一対の翼膜だけに飽き足らず人間の上半身のような物が生えている。肩から二本の腕が伸び盾とグレイブを両手に備える。竜にも近い頭を携え鼻息荒く、それは二人を見下ろしていた。