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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
全能者
83/112

83

 登り始めた満月に塔の影が浮かぶ。人の気配はどこにもない。

 あの日あの夜あの空で私は産まれ落ちた。それも自分で自分を使い捨てにするつもりで。

 レナームの炎で焼けた街中はどこも黒ずみ煙立つ様子が目に浮かぶ。黒くて太く炭化した野生動物の塊が転がっている。元は何かもわからぬほどに崩れ落ち、唸るような音と共に吹く風だけが運んでいく。

 今までの記憶はいったいなんだ。身体に残る戦いの記憶、レインさんと共に過ごした旅の記憶、そして転生前の嫌な記憶、全てが全て鮮明ながら朧げに、頭の中に残っている。

 焼け切れた城壁を超える。幾本の黒い焦げ跡の中で、四足型の魔族が数体姿を現す。不定形の姿形で、輪郭は陽炎のように揺らいでいる。奴らはソードに気づくことなく、何かをこぞって食べている。何かの拍子で丸い物が飛び出して、転がりソードのブーツに当たる。白地に赤の光沢がある球体は、砂に汚れながら止まった。

 唸り吠え出し、魔族がソードに跳びかかる。彼女は眉の一つも動かさず、片手剣を抜き叩き伏せた。頭に響く耳障りな悲鳴にも似た声で叫び、割れた頭でなお立ち上がり喰らいつこうとする。割れた頭の魔族が襲い掛かるより早く、一本の矢が刺し貫いた。

 同じ不定形のゴースト系統に似ているが、決定的な違いがある。肉体の無い魂に魔力が集ったのがゴースト達であるのに対し、濃厚な魔力が集まり疑似的な魂を生み出し形を成したのが魔族だった。だから魔族に知能は無いし、魂に常に飢えている。凶暴で極めて貪欲で、人族はもちろん蛮族さえも近寄ろうとはしなかった。

 少し遅れた位置にいるクロスが新しく矢をセットする。絶命と共に上げる雄たけびに周囲の魔族が反応し、我先にとこぞってミツキ達へと跳びかかる。左へ右へと剣を振り、何のことも無く切って捨てる。それぞれが絶命と共に悲鳴を上げて、更に魔族を呼び寄せた。

 空高くから有翼型の魔族が迫る。鋭い爪が今にも届こうかとしたその瞬間、投げつけられたメイスによって地に落ちた。有翼型の魔族は一層大きな声で鳴き叫ぶ。やがて力尽きると、ぼやけた身体は霧散して元の魔力へと帰っていった。

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