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段々畑が等高線を描く。既に収穫の終えた畑は土も見えぬほどの草に包まれている。こうした畑は人の手により耕され、再び種を撒かれるのだ。そうやって得られた穀物は食料としてはもちろんのこと、飲み物の材料にも使われる。アルコール飲料の一種のようで、ミツキは昔一口飲んで噴き出した事がある。
揺れる馬の背の上で早めに弁当を開ける。ベーコン、レタス、トマトから成るシンプルなサンドイッチだ。新鮮な具材はパンからはみ出てしまうほど大きく、そのうえ三つも入っているから見た目だけでも満足してしまいそうだった。
苦労しながら両手で支えてかぶりつく。薄くかかった塩によりトマトの甘みを際立たせる。レタスの歯ごたえを楽しみながら、硬いベーコンを噛み千切った。
遥か遠くの丘の上に蛮族の居城がそびえ立つ。かつて猛威を振るったヴァンパイア一族の屋敷だが今は廃墟だと聞いた。特徴的な外観の為、影を見るその度に帰ってきたと実感させられるのだった。
取り立てて目立つ会話も無く、三人は静かに街道を行く。食事中は綺麗な快晴だったのに、霧が立ち込め雨に変わった。時折雪が降るほどに空気は冷え込み澄んでいる。久々に感じる薄い空気の感覚だったが、身体は早くも順応しつつあった。
ニ、三日して第一の関所を通過した。帝都直属の近衛兵の敬礼に目もくれず、三人は山道を更に進める。第二、第三の関所を越えて峰の頂上を目指す。吐く息は白く、冷たい空気に溶け込んでいく。小さな渓流を見つけては馬を止め、休息を挟みつつ街道を進んだ。
さらに数日が過ぎた時、ついに峰の頂を越えた。三人の眼下には、二本の山脈に囲まれた広大な窪地が広がっている。自然にできた花畑には小川が流れ、窪地の中央へと流れていく。流れの先には爪先ほどの建物が並び、中央へと向かうにつれて高さが増している。
環状の二重壁に囲まれた帝都の中でも目立つのが、帝都中央にそびえる城だった。大小様々な尖塔から伸びるアーチによって、本棟が支えられているのが分かる。
俗に皇帝城と称される城はいくつもの館や屋敷の中にあり、堅牢でかつ重厚な守りの中にあった。皇帝その人の居城であり、内政および外交に置ける意思決定が行われる。帝都としての、帝国としての象徴でかつ世界の中心である事の証明でもあった。
やっとここまで戻ってきた。砂漠に遭難してから約一カ月、他のみんなやレナームはいったいどうしているだろう。空を見上げてみた物の巨鳥の姿はどこにもない。きっと近くを気ままに飛んでいるはずだ。呼べばすぐに来るだろう。
雪が覆う草花の中、ソードは手綱を取り上げると馬を蹴り上げ走らせた。