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フレイルを回避し槍で突く。氷の穂先を氷が阻み、衝撃だけが手に伝う。ミツキは止められた槍をそのまま放すと、股の下を転がり抜ける。背中越しに頭を狙うも槍は止まり、意図に反して宙へと浮かぶ。
「氷の武器が効く訳ないだろ。バカか?」
ぼやきながらサイクロプスは振り返る。氷の槍を回転させると穂先をミツキに差し向けた。
「どっちがバカだ」
サイクロプスの背後からソードが一気に走り込む。赤い剣を両手に持って空高くへと振りかざす。サイクロプスは咄嗟に氷の盾を作り出すも既に遅く、全身全霊の力を込めた一撃は氷の盾をも打ち砕き、巨体を真っ二つに引き裂いた。
「この程度の陽動に引っかかるなんて」
ソードは二つになったサイクロプスの目を蹴り飛ばす。それは黒い体液を辺りに散々撒き散らし、最後に弾んで藪の中に消え去った。
「無事でよかった」
へたり込む少女に手を差し伸べる。その手が血にまみれていると気づいたソードは、急いでグローブを外す。呆けた様子で少女は見上げていたが、やがてソードの差し出す手を取った。
「ありがとうございます」
「お礼は全部済んだらでいい。まだ何も解決してないんだから」
少女の手を引き立ち上がらせる。彼女の身体はやけに軽くて、握ったその手はやけにか細いものだった。それでも少女の体温はソードの手よりも高く、温かくそして心地よく感じられたのだった。
小屋に戻り、服を借りる。後日好きな服を好きなだけ買ってあげると約束をして、ミツキは少女のボロを纏う。流石にサイズが合っていないのか、少々きつそうにはしていたが文句ひとつ垂れる事無く、礼を言って感謝した。
「まだ時間はある。しっかり悩むと良い。もし、どうしても辛いのであれば私達に任せてくれてもいい」
そう言って、ソードはミツキに目を向ける。
「大丈夫です。私がやります」
少女はソードの予想に反し明瞭な口調で答える。ソードはゆっくり瞬きすると、グローブを外しながら口を開いた。
「わかった。はじめよう」
血に汚れたグローブを洗浄し、少女の両手に着けさせる。二箇所のバンドを最もキツく締め上げるも、少女にとってはまだ緩かった。
ソードとミツキは布越しに、少年の手と足を抑える。余った指の先を気にしながら少女はナイフを手に持った。
鞘を掴み、柄を握る。彼女は手の中のそれを見ながら力を込める。ほんの微かな音がして、鞘から刃が抜かれていく。空になった鞘をすぐ傍に静かに置くと、ナイフを両手に持ち替えた。
小刻みに震える刃に光が当たり反射して映る光が大きくぶれる。ナイフの先を胸に向け、浅い呼吸を何度も何度も繰り返す。少女が大きく深呼吸した時、少年の目が細く開いた。