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6

 シャープペンの頭で頬を小突かれる。

 目覚めていたが目を閉じたまま、夢と現の狭間の中で、どちらに行こうか揺れていた。まだ眠い、だが寝足りてる。夢へと続く下り階段を転がり落ちるボールのように、転がり弾み、ゆっくりと、だが着実に眠りの世界へ落ちて行く。

 再び頬を小突かれる。今度は痛みを伴って、少し深く押し込まれた。

 枕代わりにした腕の上で、重たい瞼を渋々開ける。視界に飛び込む光の中に、ペンを持つ少女がミツキを見つめていた。

「おはよう、ミツキ」

 彼女がそっと微笑みかける。制服から見える手や指先は、細くて長く、線の細い体つきをしていた。

「寝る」

 腕の枕に額を押し当て、闇の世界へと自ら飛び込む。階段を落ちるボールは弾み、一番下まで転がり着いた。

 本当の目覚めはまさに最悪だった。

 普段より手痛い啄みに目を開ける。逆光の中で巨鳥の影が覗きこむ。なんだレナームかと思い再び瞼を閉じた時、くちばしによるあまりの痛さに跳ね起きた。

 ハゲワシたちが空へ舞う。黒い影のような羽を散らせて、けたたましく耳障りな鳴き声を上げる。まだ生きていて悪かったなと、頭上でしつこく旋回をする死肉喰らいを睨みつけた。

 強烈な輝きを放つ太陽がミツキの肌を激しく焦がす。地面の温度は五十度を超える程だろう。熱砂と日差しに焼かれた肌は、酷く赤らみ痛みを伴う。乾燥しきってひび割れた、典型的なステップ気候の真只中で彼女はたった一人であった。

 同じ乾燥地帯で有りながら、砂丘のある砂漠と大きく違う。低木ながらも植物は生え、所々にサボテンが驚くほど巨大な影を落としている。動物群も豊富なようで、まだら模様の蛇が這い、紫色の光沢をもつサソリが低木の影に滑り込んだ。

 最後の記憶では夜だった。今は頭上で太陽がこれでもかと言うほど照っている。優に十二時間は寝ていたのだろう。ミツキは焼けて裾が裂けてしまった外套のフードを目深く被り、装備と持ち物のチェックを始めた。

 利き手に付けたバックラーはヒビ入り、仕込んだナイフは失われている。なめした皮を何重にも重ねて作ったアーマーは、着地の際に着いたであろう少しの傷だけで済んでいた。

 腰に下げた短剣と、ブーツに仕込んだナイフが一本だけ残る。持っていたポーチはどこへやら、見渡す限りは見つからない。作戦前に、大事な物は帝都に全て置いて来ていた。だが、魔神を討伐できたのか、そもそもここがどこなのか、何もかも分からぬ状況では気休め程度にしかならなかった。

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