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一筋の光と共に剣が飛び、巨人の腕に突き刺さる。西日の赤い光の中に輝くのは青い刃を持つ剣だ。刃に沿って細く入った装飾から、血が溢れ出し流れ落ちる。巨人がミツキの更に奥へと目を向けた時、レインが飛び出し体当たりした。
「ミツキ。無事?」
巨体を軽々吹き飛ばし草を散らせて停止する。立ち上がった巨人から目を離す事無く、極度に腰を落とした体勢でレインは拳を軽く握り締めた。
「無事ならこのまままっすぐ行って。少し行けば街道があるから、誰かに助けてもらいなさい」
「レインは?」
「このオーガを倒したらすぐ追いかける」
行って、と言った彼女は既にオーガの懐へと飛び込んで、鋭い三連打を叩きこむ。片膝を着く巨体を一気に駆け上ると、縦回転でレインは頭を蹴り上げた。オーガの武器が手から離れる。レインは土を巻き上げ着地すると、自分より大きな武器を拾って片手でオーガに投げつけた。
自分にできることは無いと、その場を離れようとした時だった。少し離れた木々の合間から弓に矢を番え、二人を狙う者がいた。
赤、と呼ぶより赤茶けた帽子を乗せて、極度な猫背で酷く汚れた布をその身に纏っている。目も耳も鼻も口までも人のそれらよりも大きくありながら、身体は小柄でミツキの胸元程度までしかない。
見るからにオーガと同じタイプの生物だ。特別知能が高そうでもないが、少なくとも弓矢を扱えるほどには高いらしい。それはミツキに気づくことなく二人の様子を伺っている。ミツキはそっと忍び寄ると、難なく弓を奪い取る。
やってみれば驚くほどに簡単で、極めて容易いものだった。
ちょっとした喜びも束の間の事、小さなそれは思いもがけず素早い動作で跳びかかる。拍子に奪った弓が手から離れて藪の中へと消えて行く。悪臭を放つその存在はミツキを力づくで押し倒すと、赤錆まみれのナイフを抜いた。
「何だお前は!」
レインとはまた違う。聞いた事の無い言語だった。荒れた歯をむき出しにして威嚇する。必死になって振りほどこうと暴れるも予想以上に力が強い。疲労だけが瞬く間に溜まり、もがく力も気力も失せていく。
頭の痛くなるような甲高い声でそいつは叫び声を上げると、ナイフをミツキにつきたてた。