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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
黒耀石
52/112

52

 学校の鐘が鳴る。霧にも近い雨の降る中に夜の街が沈んでいる。封鎖された屋上に立つ彼女は一人だけだった。

 雨の雫が髪に服を湿らせて、体温を奪い去る。冷える指先をそのままにミツキはそっと目を閉じる。そしてまた目を開いた時、風が彼女の背を押した。

 誘われるまま、導かれるまま、女神のような笑みと差し伸べられた手に従って、されるがままに落ちて行く。彼女の身体が降る雨に追いついた時、アスファルトの黒い海を突き抜けた。

 上から下へと降る雨を、彼女は追い抜きなお加速する。反転し暗い空へと昇るそれは次第に強く激しくなって、厚い雲の夜の空を一瞬限りの雷光が青く白く照らしあげた。

 雨は一つの雫となって不定形なその内に、落ちて行くミツキを受け止める。広がる波紋の中心から細かな泡沫と共に沈み込む。雫はミツキの勢いを完全に殺しきると、ただの雨へと戻りミツキと共に地に落ちた。

 夜の空へと伸びる針葉樹林が風に吹かれて枝葉を揺らす。見上げた空は相も変わらず雨をもたらし、厚い雲に覆われている。彼女は起き上がる気にもなれず、仰向けに転がったまま雨に降られていた。

 重たい腕を持ち上げて、自分の手に目を向ける。いつもと何も変わらない自分の手だ。自分が本当に死んだのか。それさえ怪しく思えたが少なくとも今現在は、間違いなく自分自身の身体があって彼女自身の意識もあった。

 広げた指の合間から少女の顔が覗き込む。逆さに映る彼女はさながら人形のようで、整った顔立ちには傷の一つも付いてない。瞳孔から虹彩の外に向かって伸びる直線は細かく無数に刻まれて、螺旋模様を描いている。少女はミツキに手を差しだすも、当の本人は地面に手を付き身体を起こした。

 ミツキより指幅程度だけ背の高い彼女は肘を覆う程のシャツと、肌に密着したパンツにブーツを身に着けている。ここまでならば特別おかしなな見た目でも無いが彼女の手には外套と、腰元からは、知識はあるが見慣れぬ物が下がっていた。

 銃刀法違反、そんな言葉が脳裏によぎる。汚れた茶色い物に収まる十字型をしたそれは間違いない。鞘に収まる剣だった。

「なに? 人じゃないでしょ」

 ミツキは彼女から目を離さずに距離を開ける。人間としてあり得ない瞳の模様と武器を持つ得体の知れない存在は、眉の一つも動かさず、何も答えようともしない。一歩一歩、下がるミツキを追うことも無く見つめる。

 小枝の折れる音が雨の中に消えて行く。背を向け逃げ出すミツキを見ながら、彼女は聞いた事も無い言語で呟いた。

「どうしよう。日本語だ」

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