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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
傍にいる者達の王
49/112

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「ほら。肩貸してあげる」

「別にいい」

「私にまで強がってどうすんの」

 剣を持ったままの手を取り首に回す。彼女は同じミツキであるのに、力強くたくましく、剣のミツキを支える。

「死体を、じゃなくて山を一つ増やしちゃって。あの婆さん、なにやった?」

「知らなくていい」

「すっきりした?」

 耳を澄ましてようやく聞こえる小さな声で、うん、と答える。空で外した外套が大きく膨らみ砂地に落ちた。

 空は紺と黒に染めあげられて、大量の星と明るい月が照っている。夜の風は冷気を纏い、砂を含んで二人を包む。半分引きずるようにして、続く足跡が長く伸びる。すり鉢状の砂の底から這いだすと、足を囚われ転び斜面を滑り落ちた。

「見捨てられたかと思った」

 仰向けに横たわる剣のミツキが、手を差しだしたメイスのミツキに言った。血で固まった髪の合間から、雲一つない砂漠の空を見上げる。

「本当は見捨てるつもりだった。捕まるやつが悪いんだから。でも、自分にまで見捨てられたら誰がアンタの味方になるの」

「ありがとう」

 小さなため息をつき、剣のミツキの手首を掴む。弾みをつけて彼女を起こすと、また首に腕を回して歩き出す。

「感謝してるなら貸してあげたメイス、ちゃんと返して。あれ気に入ってたんだから」

 月が形を変えたとしても、星は変わらず瞬いている。二人の他に動く者がいない砂漠の海を優しく見守っていた。

「ヒナタって、覚えてる?」

「誰?」

 即答だった。膝を付き剣のミツキを抱え直すと、干しレンガの拠点に目を向けた。

「忘れてるならいい。トラウマほじくり返されたくないでしょ」

「何があったの」

「親友、だったことが自分でも信じられないくらいぶっ飛んだ子」

「生前?」

「生前」

「ならもう覚えてない。そんな昔のことまで覚えてられない」

 赤い剣の先端から、最後の一滴が垂れ落ちる。

「私だって忘れてた。なのにあのクソババァ」

 メイスのミツキは抱えた彼女を見やると、またすぐ正面に目を向けた。

「よく耐えた」

 まだ少し先にある拠点は、海に浮かぶ島にも見える。

「今日、一日ゆっくり休んで明日の夜にでも出発しよう。水も食料もそれなりにあったから、今日はお腹いっぱい食べられる。アイツらが蘇ったりしない限りは」

 剣のミツキは小さく鼻を鳴らす。そして少しだけ、ほんの少しだけ口元を緩めると、メイスのミツキに身を委ねた。

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