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沈む太陽と昇る月  作者: あいあむ
傍にいる者達の王
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 光は一点に集中し青緑色の太陽となる。天をも覆う安全柵に、無機質な白いコンクリートの広場は、何もない空中の庭園となっている。

 学校の屋上、ただし階下へと続く扉は無い。単なる平坦な空間に、ミツキと対峙する、もうひとつの人影があった。

「ここが地獄の門の一つ手前ってこと? ずいぶん殺風景だけど」

「違うよ。でも地獄に至る道の途中」

 女神のような微笑を浮かべる影を緑色の光が照らす。細く、繊細な体つきをしたかつての友人、ヒナタだった。

「よくも綺麗に私の人生ぶち壊してくれたね。アンタ天才だよ」

「ありがとう。みんなは悲しんでくれた?」

「残念だけど、自分のことで精一杯って感じだった」

 同じ教室だった生徒達、教員、そして両親も、遥か昔の記憶から彼らの様子を思い返す。意識的にか、無意識的かは不明だが他人の目から見て模範解答となるような態度であった。

「ミツキは、悲しんでくれたよね」

「私は。別に」

「でも知ってるよ。あまり表に出そうとしないけど、本当はどこの誰よりも感情豊かだってこと」

 少々おどけた口ぶりで、ヒナタは言った。

「アンタの為にわざわざ悲しんだりはしなかった」

 ヒナタが死んだ光景が脳裏によぎる。わずかに細めた目の先の人影は、女神のような笑みを湛えていた。

「じゃぁ、誰も悲しんでくれなかったんだ。ざんねん」

 小さく短いため息をつき、握り締めた手を開く。

「なんでわざわざ死んだ訳?」

 まばたきしたと、分かる早さで目を閉じ開く。記憶に残るいつものヒナタの癖だった。

「死ぬのに理由なんて必要ないよ。でも、強いて言うなら」

 彼女は一瞬だけ間を置いて言葉を続けた。

「なんとなく?」

 赤茶色に染まった安全柵を片手で掴み、揺らめく緑の太陽へ眼を向ける。そんな彼女のすぐ横に、ミツキは並んだ。

「誰にだって一度はあるでしょ。何もかもが面倒で、生きている事さえ嫌になる。いっそ死んでしまおうか、って思うこと」

「でも普通の人は本当に死んだりしない」

「なら私は異常だった」

 瞳の中に緑色の光が灯る。

「なにをしたって意味は無い。どうせいつか死ぬんだから、何もかもが無意味になる。生きることが重荷になるなら、早く下ろして楽になろう?」

 気づけば柵の外にいた。

 狭くて細い空間に二人は隣同士、並び立つ。ヒナタはミツキの手を取って、縁の上に立ち上がる。

「自分を裏切り殺す度、魂は別れて死んで小さくなる。さぁ、自分に正直になろうよ。ね?」

 誘われるまま、片足を乗せ、残った足を持ち上げる。遥か下は暗い闇に包まれて、底がどこだかわからない。太陽が二人の影を長くのばし、風が二人の背を押していた。

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